労働生産性が低いことによるデメリットとは?労働生産性を高める方法や施策について解説


労働生産性が低いことによるデメリットとは?労働生産性を高める方法や施策について解説

労働生産性には物的労働生産性と付加価値労働生産性とがあります。現在、指標として幅広く使われているのは、付加価値労働生産性のなかの名目労働生産性です。労働生産性を高めるためには、効果的な施策を打ち出す必要があるでしょう。


本記事では、労働生産性の基本事項や現状把握や向上させる施策などを解説します。人事がメインとなって実施できる労働生産性の向上施策もまとめているので、ぜひ参考にしてください。


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労働生産性のおさらい

そもそも労働生産性とは何なのか、その概要や算出方法を解説します。


労働生産性とその計算方法

労働生産性とは、インプットに対してどれだけのアウトプットが生まれたかを示す指標です。計算式にすると「アウトプット ÷ インプット = 労働生産性」となります。


インプットとは、投入した労働力のことです。労働力を算出するには、社員数と労働時間、さらに時間あたりの労働量を考慮しなければなりません。対してアウトプットとは、売上・生産量・利益・付加価値額など、労働で生じた成果のことです。


物的労働生産性とは

労働生産性には、物的労働生産性と付加価値労働生産性があります。2つの違いはアウトプット対象の違いです。物的労働生産性においてアウトプットを示す基準に用いられるのは、生産量や販売価格などです。価値(売上)が変動する商品などでは生産量を用い、商品価格が変動しにくい商品については販売価格を用います。


たとえば、農産物は市場の動向によって販売価格が大きく異なる商品です。価値が変動する場合、変動するものに基準を置くと労働生産性の高低が分かりにくいため、どれだけの個数(生産量)を生産できたかで労働生産性を算出します。


これに対して、工業製品など販売価格が変動しにくい商品は、労働力に対する成果(販売価格)が分かりやすいでしょう。そこで、労働生産性の評価にも販売価格を用います。


付加価値労働生産性とその種類

付加価値労働生産性でアウトプットに用いられるのが、付加価値額です。付加価値額とは、一般的に粗利益のことを指します。たとえば、テレビの製造ではプラスチックや金属などの原材料が不可欠です。これらを加工し組み立てることでテレビとしての価値が生まれますが、製品を販売して利益を得るためには、商品企画・研究開発・加工などの経費が必要となります。


これら経費類のすべてを売上(価値)から差し引いたものが、付加価値として評価される粗利益です。企業であれば粗利益を算出するのは当然であるため、さまざまな産業で労働生産性の比較に付加価値労働生産性が活用されています。付加価値労働生産性には、名目労働生産性と実質労働生産性の2つがありますが、双方の詳細は以下のとおりです。


名目労働生産性

名目労働生産性では、付加価値額の計算は時価で行われます。通常の決算で算出する粗利益を基に、そこに人件費や賃借料などを加算したものが付加価値額です。サービス業などの多くは、サービスの提供に伴う付加価値が企業の生み出す価値そのものであるため、付加価値額を計算しやすいといえます。


また、多くの企業が自社の業績を判断する際に粗利益を基準にしているため、名目労働生産性が広く利用されているのが現状です。名目労働生産性は、インフレやデフレの影響を考慮せずに計算されるため、短期的な業績評価にも適しています。


実質労働生産性

実質労働生産性では、付加価値額を基準年の固定価格で計算します。製造業などでは、名目労働生産性と実質労働生産性が大きく乖離するケースが少なくありません。特に増税や原材料費の高騰、賃金上昇や為替変動などの影響によって値上げが行われた場合に顕著です。


値上げ前と値上げ後で粗利が変わらなくとも、売上高は値上げに伴い増加するため、名目労働生産性が実質労働生産性と乖離することになります。過去の推移を比較する意味では、実質労働生産性の方が適しているでしょう。


しかし、正確に計算するためには、在庫状況を正確に把握し、固定価格での評価を行う必要があります。国や公共機関が全企業にこれを求めるのは現実的ではないため、統計データでは計算が簡便な名目労働生産性が広く用いられています。


日本の労働生産性の現状を把握する

日本の労働生産性の現状について、業種別や企業規模別、また世界との比較といった観点から解説します。


業種別の労働生産性の現状

労働生産性は業種によって異なります。労働生産性が比較的高くなりやすい業種は、金融業や不動産業で、サービス業などの業種は労働生産性が低い数値になりがちです。金融業や不動産業では取り扱い金額が大きく、少人数でも多くの利益を生み出しやすい産業構造ができているためといえます。


公益財団法人日本生産性本部が発表した「主要産業の労働生産性水準の推移」も、不動産業・金融保険業の労働生産性が高いことを示す資料の1つです。一方、サービス業を筆頭に人手を多く要する業種は、労働生産性が低い水準で推移する傾向があります。


※参照:公益財団法人日本生産性本部 主要産業の労働生産性水準の推移


企業規模別の労働生産性の現状

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者の労働生産性」では、企業規模別に労働生産性が確認できます。一般論として、中小企業と比べると大企業の方が労働生産性は高い傾向です。ただし企業規模別の労働生産性には、業種によっても差があります。


特に、情報通信業や製造業などの機械化が進んでいる業種では、大企業の労働生産性が高く、中小企業の労働生産性との差が顕著です。一方、多くの人手を必要とするサービス業などの業種では、大企業と中小企業の労働生産性の差が顕著とはいえません。


中小企業庁 中小企業・小規模事業者の労働生産性


世界と比較した国内の労働生産性

日本の労働生産性は、国際的に低い水準であるとする研究結果が発表されています。具体的には、日本の労働生産性は「49.9ドル/時間」で、OECD加盟国38か国のうち27位に相当する順位です。これは、アメリカの労働生産性と比較すれば60%程度に過ぎません。


したがって近年では、各企業で労働生産性を向上させる施策が次々にとられています。日本企業のなかでも競争力を身につけるためには、適切な施策で自社の労働生産性を上げることが欠かせません。


※参考:公益財団法人日本生産性本部 労働生産性の国際比較


なぜ日本の労働生産性が低いのか

日本の労働生産性は、世界と比較してなぜ低いのでしょうか。日本の労働生産性が低い理由について解説します。


付加価値を生み出す力が世界と比較して低い

日本は、世界と比較すれば付加価値を生み出す力が弱いといえます。付加価値を生み出す力が弱ければ、労働生産性は低くなるのが必定です。付加価値は、1つの業務に携わる人数が多く、1つの作業にかかる時間が長いほど低くなります。


工業先進国と日本を比較した場合、同じ付加価値を生み出すために投入されている労働者数や労働時間は、日本の方が総じて多く、労働生産性を下げる原因の1つです。こうしたマイナスをカバーして労働生産性を上げるためには、作業や業務の効率化を進める必要があります。


長時間労働の定着

日本では「長時間働く人は勤勉」といったような風潮が根強く残っており、残業・長時間労働を前提として働いているケースが多々あります。働き方改革の推進で残業時間の上限規制が設けられたものの、主流となる風潮には大きな変化がないといえるでしょう。


労働時間が長くなれば集中力が低下しやすく、判断ミスや操作ミスにつながる恐れがあります。ミスが起こればリカバリーにも時間や労力を消費することになり、残業による人件費の増加も懸念材料です。結果的に時間当たりのコストは上がるにもかかわらず、作業量が低下していることが労働生産性の低下につながっています。


適切な評価制度が導入されていない

日本では、年功序列の給与体系が根強く残っており、評価制度が適切でない企業も存在します。生産性を高めるために、効果的な成果主義に基づく評価制度を導入している企業は、まだ少ないのが実情です。


労働時間が長いほど残業手当を多く受け取れる給与体系や、勤続年数に応じて自動的に昇給していく仕組みでは、労働生産性は向上しません。自社の労働生産性を向上させるには「頑張らなくても評価は変わらない」「頑張っても正当な評価は得られない」という社員の認識を変えられる、成果主義的な評価制度の導入が必要です。


決裁権が役職者に集中している

役職者に決裁権が集中し、社員の裁量が限定的な場合も労働生産性を低下させることがあります。常に上司の判断を仰がなければならない状況では、作業や仕事のスピードが落ちてしまうでしょう。しかし、日本ではこのようなスタイルの企業が多く、生産性の低下を招いているのが現状です。


たとえば、構想しているプロジェクトの準備を進めたくても、形式的な社内文書で公表するまで作業ができないなどの慣習があれば、生産性は上がりません。また、チームで仕事を進める場合、有能な社員が仕事の遅い社員のフォローに時間をとられ、本来の業務に集中できないような状況は非効率的です。


いずれも、社員個人の裁量で仕事を進められれば改善の可能性があり、決裁権の社員への譲渡は生産性向上に欠かせないといえます。


低い労働生産性による企業のデメリット

労働生産性が低いと、企業にはさまざまなデメリットが生じます。労働生産性の低さによる企業のデメリットを解説します。


人件費の増加

労働生産性が低下すると、製品やサービスを生み出すために、より多くの労働時間や人員が必要です。これにより人件費が増大し、生産が十分に行えなければ、企業利益が圧迫される結果となります。特に、人件費の増大によって赤字に転落するリスクも高まり、企業にとっては大きな負担となるでしょう。


社員の負荷が増える

生産性が低く長時間労働が続くと、社員の負荷が増加します。残業時間が増加したり、休日出勤が重なったりすると、社員は体力を消耗し、精神的にも大きなストレスが溜まりやすいでしょう。その結果、さらに労働生産性が下がる悪循環が生じます。


そもそも労働生産性の高い社員がいたとしても、モチベーションが低下すれば労働生産性が下がるだけでなく、優秀な人材の流出にもつながります。優秀な人材が退職すれば、残った社員への負荷はさらに増えることは避けられません。生産性を高めようとするならば、負の連鎖に陥ることを避ける必要があります。


経済力が低下する

労働生産性の低下は企業だけの問題ではなく、日本の経済力の低下にもつながっています。今後、日本では少子高齢化などによる労働力の低下は避けられません。やむを得ず起こる労働力の低下を補うためには、労働生産性の向上が急務です。


国全体で労働生産性の向上に取り組むことができなければ、国際的な競争力も失ってしまう結果となります。経済力の低下によって国民生活が圧迫される側面もあり、各社が労働生産性を高めることは重要です。


労働生産性を高める方法

労働生産性を高めるには、いくつかの方法があります。ここでは、企業が実施しやすい労働生産性を高める方法を解説します。


評価制度を見直す

先述のとおり、評価制度の不備は労働生産性を低下させる原因となります。長時間労働の評価や年功序列が定着した企業で生産性を向上させるには、評価制度の見直しが必要です。


とりわけ、長時間働くほど収入が増える評価制度では労働環境の是正は難しいため、賃金計算の基準が労働時間にならない評価制度を導入しましょう。個人のスキルや業務改善によって成果を上げる社員を評価することが大切です。


評価制度を改革するため、成果に応じたインセンティブや労働生産性に関する評価軸を追加すると効果が出やすくなります。企業全体で労働生産性を上げるように意識改革を行うのも効果的です。


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DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

DX化の推進は、労働生産性の向上に不可欠です。情報共有の精度や速度の改善だけでなく、定型業務の自動化も図ることで労働生産性の向上につながります。また、コミュニケーションプラットフォームの活用も有効です。従来のコミュニケーション方法にグループチャット、ハドルミーティング、ビデオ会議などを追加し、徐々に電話やメールなどを削減します。


ツールが増えれば、状況に応じた適切なコミュニケーションツールの選択が可能です。さらに、上司の決済や業務指示もコミュニケーションツールで完結できれば、業務の中断を防げます。DX推進による生産性向上は、デジタル化できる範囲をどこまで広げられるかが重要です。


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付加価値を見直す

業務や作業によって生み出される付加価値そのものを見直す方法もあります。成果に対する利益を高めていく方向へとシフトするとよいでしょう。付加価値の見直しという考え方は、日本の労働生産性を高めるためにも重要です。現状の価格は、提供している商品やサービスに対して適正かを改めて判断してみましょう。


利益の少ない価格設定では、他の部分で努力をしても生産性を上げられないため、薄利多売や安売りが前提となっていないかを確認すべきです。自社の付加価値を過小評価せず適正な価格を保持することは、価格競争に巻き込まれるリスクを回避することにもつながります。一方で、過大評価も禁物です。取引先やユーザーが納得のできる価格設定にすべきでしょう。


社員1人ひとりのスキルを尊重する

社員の個々のスキルを尊重すると、生産性が上がりやすくなります。これまでチーム単位で担当していた業務は個人単位へと改革しましょう。個人単位に変わることで、優れたパフォーマンスを発揮できる社員は、さらに能力やスキルを発揮できる可能性が高くなります。仕事が遅い社員のフォローはチームメンバーではなく管理職が担い、社員の負荷を軽減しましょう。


また個人単位で、各社員が達成すべき業務を明確化することも有効です。社員のスキルを尊重する仕事の進め方が定着すれば、どの社員がどれだけの仕事量をこなしているのかが明確になるため、公平な評価をしやすくなるでしょう。正当な評価が得られれば、仕事に対してより意欲的になる社員が増え、成果につながります。


アウトソーシングを活用する

企業運営にはさまざまな業務の担当者が必要ですが、すべての業務を社内で完結させる必要はありません。労働生産性の向上には、アウトソーシングも活用することが大切です。たとえば、人材育成など特定の業務をアウトソーシングすれば、社員が時間やコストを削減できるようになります。


業務をアウトソーシングする場合はノンコア業務のみに絞り、コア業務はあくまでも社員が担当するようにしましょう。このような形ならば、社員はコア業務に集中できるので成果も上げやすいといえます。


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人事ができる労働生産性を向上させる施策

人事部門でも、労働生産性向上に結びつく施策を打ち出すことができます。人事として労働生産性を向上させる施策について解説します。


社員エンゲージメントを向上させる

社員エンゲージメントの高さは、組織の業績に比例するとされています。よって、人事では特に、社員エンゲージメントの向上に努めると効果的です。たとえば、通信教育の補助を行い、社員のスキルアップをサポートしている企業は、世界有数のコーヒーチェーンに成長しました。同社では、通信教育により企業理念への共感も深めており、人事による社員教育の施策が生産性向上に大きく役立っています。


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人材育成で労働生産性を向上させる

社員は経営資源であり、社員の成長は経営戦略実現に欠かせいない要素です。人事として人材育成に注力することで、労働生産性の向上を実現できます。ある企業では、アルバイトから正社員までの全員が、役員に新規事業案をプレゼンテーションできる制度を実施しています。


この施策によって人材が育ち、さらにモチベーションも高められる点がメリットです。結果として労働生産性の向上にもつながっています。このように、人材育成につながる施策を打ち出すのも人事の役割です。


評価制度の整備と周知で社員のモチベーションを高める

公正で明確な人事評価制度は、人材育成や人員配置に役立ちます。評価制度の整備を労働生産性の向上に結びつけるには、働き方や社内の状況に合わせた柔軟な人事評価制度の設計が重要です。


たとえば、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症対策など、働き方の変化にともなって人事評価制度を見直し、全社員へ丁寧に周知する方法もあります。また、社員1人ひとりを適切に評価して生産性を向上するためには、目標管理も必要です。目標があれば社員のモチベーションも高められ、結果として労働生産性の向上につながります。


まとめ

生産性が低いと、企業は社員の能力を十分に活用することができません。十分な成果を上げられないだけでなく、社員のモチベーションが下がって生産性が低下するリスクもあります。生産性を上げるためには評価制度の見直しや、アウトソーシングの活用、社員スキルの活用、DXの実現といった方法が有効です。


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