競業避止義務とは?適用範囲や違反を防ぐ対策、判例も併せて解説


競業避止義務とは?適用範囲や違反を防ぐ対策、判例も併せて解説

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

従業員や取締役が競合他社に転職したり、独立して自社の競合となる事業を営んだりすることを禁止する義務を競業避止義務といいます。

企業の競争力や信頼性を維持するためには、企業の財産である営業秘密や顧客情報、技術情報などを守る必要があり、競業避止義務には企業情報を保護する役割があります。

ここでは、競業避止義務の具体的な有効性や罰則、防ぐための対策について説明します。

競業避止義務とは

競業避止義務とは、自社の従業員や取締役の競合他社への転職や、独立して競合する事業を営むことを禁止する義務のことです。

契約書や就業規則、同意書などにより定められ、所属時だけでなく退職後にも一定の義務が課されます。

競業避止義務の目的と必要性

競業避止義務の目的は、企業の財産である営業秘密や顧客情報、技術情報などを守り、企業の競争力や信頼性を維持することです。

各種情報が重要な財産であることは、いうまでもありません。契約書や就業規則などに競業避止義務を定め、周知することで情報漏洩に対する予防策にもなります。

競業避止義務違反が起こる理由

競業避止義務違反の多くは、「これまで得た経験やスキルを活かしたい」という従業員の欲求が原因で起こります。

転職時には競合他社から即戦力として期待され、自らの評価を高められるでしょう。独立や副業でも、従業員として培った経験やスキルがビジネスで有利に働くケースは珍しくありません。

昨今の副業を推進する流れや、転職や独立においては職業選択の自由が保障されますが、競業避止義務が企業の不利益を招くことは避けたほうがいいでしょう。

競業避止義務の対象者



競業避止義務の対象者は、自社の取締役や従業員です。

基本的に自社の情報を知る者であれば全員が対象となりますが、立場によって違いがあります。

自社の取締役

取締役は企業の事業戦略や経営方針など重要な情報を知る機会が多いため、取締役による情報漏洩が発生した場合は、企業の信頼が大きく損われることになります。

また、取締役による自社への利益相反は会社法でも制限されており、一般の従業員より厳しい義務を負います。

自社の従業員

企業の重要情報を競合他社へ漏洩することは企業の競争力低下を招き、信用を毀損することになるため、従業員も競業避止義務の対象となります。

従業員の競業避止義務は労働契約法で定められており、就業規則へ記載されていない場合でも信義誠実の原則によって対象となります。

退職後の競業避止義務

企業にとって重要な情報やノウハウを持った従業員が退職し、転職や独立などで競合となる事業活動を行うことを防ぐため、そのような従業員は退職後も一定の義務を課されます。

ただし職業選択の自由と相反するため、競業避止義務の有効性については裁判でたびたび争われています。

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競業避止義務の有効性(適用範囲)を判断するポイント

職業選択の自由があるため、競業避止義務について企業側の主張がすべて認められるわけではありません。

ここでは、競業避止義務の適用範囲を判断する際の4つのポイントについて説明します。

自社に守るべき利益があるか

競業避止義務を適用できる対象は自社の守るべき利益、すなわち顧客の個人情報や営業ノウハウ、マニュアル、取引内容などの秘密情報です。

重要な技術やノウハウを持つ従業員が退職後に競合となった場合、自社のビジネスに影響を及ぼす可能性があるため、競業避止義務が適用されます。

ただし、本人が業務上で培ったスキルや人脈は、本人のものとして捉えられるのが一般的です。会社が蓄積してきたノウハウは競業避止義務の対象ですが、本人が築き上げた交渉術や営業術などは対象外となります。

競業避止義務を課す必要がある従業員か

従業員に対して競業避止義務を適用できるかどうかは、職位ではなく実態として秘密情報を知ることができる、扱える立場かどうかで判断されます。

例えば、アルバイトでも秘密情報を知る立場であれば対象になりますが、取締役であっても秘密情報に触れる立場でなければ対象外です。

上記の理由から、合理的な理由なく、すべての従業員や特定の職位にある者すべてを対象とした規定は認められにくいといえます。

そのため、競業避止義務を定める場合は、就業規則等には「◯◯業務を担当する者」のように個別具体的な指定が必要です。

競業避止義務の代償措置があるか



一般的に競業避止義務を適用する際は、代償措置を必要とします。

退職後の行動を一部制限する代わりに、給与や賞与の支給額を調整することや、退職金増額などの守秘義務手当が代償措置として挙げられます。

守秘義務手当の記載がなくても、一般的な待遇より優遇されていた場合は代償措置として認められることがあります。

逆に、金額が競業避止義務の制限内容と比べて少なすぎると認められない場合があるため、代償措置の内容については検討が必要です。

地域の限定や期間の定めが適切か

競業避止義務の定めが、従業員の市場価値を損なわない範囲で定められているか判断されます。

「1年以内の就職を禁止する」「同じ地域での就職を一定期間禁止する」「同じ職種への転職一定期間を禁止する」といった場合は、認められやすいでしょう。

逆に、禁止期間が1年を超える場合や地域の指定に合理性がない、職種を限定しないなど、制限が厳しいと判断されれば認められにくくなります。

競業避止義務に違反した際の罰則

競業避止義務の違反を防ぐために、就業規則などに以下のような罰則を定めることができます。

退職金の減額

競業避止義務に違反した場合に、退職金の減額や不支給を定めた項目を就業規則や退職金規程に掲載できます。ただし「就業規則や退職金規程に罰則があることの周知」を怠った場合は認められないこともあるため、定期的な周知徹底が必要です。

重大な背任性がなければ、基本的に減給や不支給は認められません。退職金には、勤務していたことに対する報奨や後払いの賃金という意味合いもあるからです。

損害賠償を請求

競業避止義務違反によって企業に損害が生じた場合は、損害賠償を請求できます。

請求範囲は「競業義務違反により受けた損害」に限られており、企業は受けた損害と競業義務違反との具体的な因果関係を証明する必要があります。

しかし、因果関係を証明するために、取引先の陳述書や退職前後の経過報告などの証拠を集めるのは容易ではありません。

取引先との良好な関係構築や、従業員の業務に対する貢献度を数値として把握するなど、もしもの場合に情報を収集しやすい環境を整えておくことが大切です。

競業行為の差し止め請求

元従業員に対して、競業の営業を停止させる差し止め請求ができます。

ただし具体的な証拠があり、損害賠償だけでは回復できない場合に限られます。

既存の取引先に対して営業活動を行った場合は営業秘密の不正使用となり、差し止め請求の対象となるでしょう。

金融商品のように法律で制限されている商品やサービスを扱う場合は、「誰が扱っても同じ」という考え方によって競業避止義務違反が認められない可能性があります。

競業避止義務違反を防ぐための対策

競業避止義務違反でトラブルになった場合に、最終的に企業側の主張を認めるかどうかを判断するのは、あくまでも裁判所です。

時間や費用がかかる裁判を極力避けるために、競業避止義務違反を防ぐ方策として、以下のような対策を講じることが大切です。

  • 就業規則に競業禁止を明記し、周知する
  • 誓約書を提出してもらう
  • 副業を許可制にする

就業規則に競業禁止を明記し、周知する

就業規則に競業禁止条項を明記することで、従業員に競業避止義務を明確に認識してもらえます。

しかし、就業規則の一方的な変更や過度な競業避止義務の押し付けは、トラブルの際に認められない場合があるため、定期的な周知徹底が重要です。

誓約書を提出してもらう

入社時と退職時に、競業避止義務に違反しない旨の誓約書を提出させることで、従業員への周知を図れます。

ただし、従業員には退社時に誓約書を提出する義務はありません。従業員が退職時の提出に応じない場合に備えて、少なくとも入社時の提出は必須とすべきでしょう。

副業を許可制にする

副業を許可制にすることで、企業は競業避止義務に違反していないか事前に調査でき、従業員の競業行為を未然に防止できます。

規定が厳しすぎると従業員が不満を持ち、関係性が悪化するため、基準を慎重に設定する必要があります。

競業避止義務を認めた判例

どのような場合に競業避止義務が認められるのか、判例を紹介します。

・事例1「知識やノウハウを持った従業員が独立した」
概要 スクールの運営者が、退職後に同様のスクール事業を始めた元講師に対して営業の差し止め請求をした。
結果 「指導方法や集客方法は、スクールの運営者が長期間にわたって確立してきたもので独自性が高く、スクール側にとって守られるべき利益である」と判断され、元講師は1年間の宣伝・勧誘等が禁止された。
ポイント ノウハウは「スクールの財産」か「従業員個人が開発した」かが判断のポイントです。本件ではスクールの運営者が確立したと判断されたため、競業避止義務が認められました。


・事例2「管理職などを経験した従業員が競業他社に転職した」
概要 全国チェーンの家電量販店の管理職を経験した元従業員が、退職後すぐに競業他社へ転職したため、家電量販店側が元従業員に対して損害賠償を請求した。
結果 「秘密情報の流出により企業が損害を受けることは容易に予想できる」「管理職を経験してきた従業員に対して、競業避止義務を課すことは合理的である」と判断され、元従業員は損害賠償を命じられた。
ポイント 全国チェーンの競業他社として考えられるのは、同様の全国チェーンです。

わずかな情報流出が損害につながる可能性が高く、特に管理職経験者は営業戦略など重要な秘密情報に触れる機会が多いため、競業避止義務が認められました。

出典:経済産業省「競業避止義務の有効性について

競業避止義務を否定した判例

一方でどのような場合に競業避止義務が否定されるのか、こちらも判例を紹介します。

・事例3「執行役員が競業他社の取締役になった」
概要 従業員数千人規模の大手保険会社が、競業他社の取締役になった元執行役員を訴えた。執行役員という責任ある立場にありながら、退職後すぐに競業他社の取締役になったため、損害賠償を請求した。
結果 「保険商品の営業は透明性が高く秘密性に乏しい」「執行役員は秘密情報に触れる立場になかった」と判断され、請求は棄却された。
ポイント 競業避止義務の対象は地位に関わらず、秘密情報に触れていたかどうかが判断のポイントです。事業の秘密性も判断材料で、誰が扱っても同じような結果になる場合などは、競業避止義務が認められない可能性が高いです。


・事例4「競業避止義務の代償措置は適切か」
概要 競業他社へ転職した元従業員に対し、会社側は「従業員に月額3,000円の守秘義務手当を支給し、競業他社への転職を禁止している」として、競業避止義務違反だと主張した。
結果 「月額3,000円は、転職を制限する競業避止義務の重さと釣り合っていない」として、競業避止義務は認められなかった。
ポイント 従業員が受ける不利益と代償措置のバランスがポイントです。守秘義務手当以外に相応の退職金を支給した場合などは、認められる可能性があります。
出典:経済産業省「競業避止義務の有効性について

まとめ

競業避止義務は企業の機密情報や技術、ノウハウを保護するために不可欠であり、取締役や従業員が、競合他社に重要な情報を提供することによって企業に損害を与える行為を防止することを目的としています。

しかし、過度な制限がある場合や個別具体的な指定がない場合、競業避止義務は認められないケースが多く、トラブルになった際に企業側の主張を認めるかどうかを判断するのは、あくまでも裁判所です。

トラブルを未然に防ぐためにも、競業避止義務を就業規則等に明記し、従業員や取締役への周知を徹底する、入退社時に誓約書を提出させるといった適切な対策を講じることが求められます。

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