こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
学習無力感は、「いくら努力を重ねても回避できないストレス状態に長期間晒されると、ストレスから逃げることすら諦め無気力になる現象のことです。場合によっては、職場で「やる気がない」ように見える従業員が実は学習性無力感に陥っていることもあるでしょう。
では、そうなってしまった従業員に対して、企業はどのように対応すれば良いのでしょうか。
本記事では、学習性無力感に陥る原因やビジネス上で与える影響などについて分かりやすく解説します。
学習性無力感の概要
学習性無力感とは、回避できないストレス環境下に長期間置かれた場合に、抵抗を諦め無気力になりストレスを受け入れるようになる現象を指します。この心理学理論はアメリカの心理学者、マーチン・セリグマンが1967年に発表しました。
通常、ストレスのかかる状況に置かれるとそれを回避しようとします。しかし、いくら努力してもストレスを回避できない状況に長期間置かれた場合、「何をやってもこの状況からは逃れられない」という気持ちに支配され、無気力状態に陥ってしまうのです。
心理学上の実験
学習性無力感に関しては、様々な実験が行われています。ここでは、人を対象にし、不快になるレベルの大きな音を使用した実験についてみていきましょう。
A、B2つの部屋を用意し、それぞれの環境に被験者を置きました。
- A:押すと音が止まるスイッチのある部屋
- B:何をしても音が止まらない部屋
Aの部屋の被験者は、積極的にスイッチを押して音を止めました。一方、Bの部屋の被験者は、何をしても音が止まらない状況であるため、そのうち抵抗しなくなります。Bの被験者のように、最終的にストレス環境下から逃げ出そうとしなくなりその状況を受け入れることが「学習性無力感」です。
学習性無力感に陥る原因とは
ビジネスの場で働く人が学習性無力感に陥ることがあります。陥る原因としては職場の環境が影響していると考えられるでしょう。具体的には次のようなケースがあります。
- 上司から大きなミスではないのに必要以上に叱られる
- 上司や同僚に自分の仕事を全て否定される
- 自分の提案や企画が全く通らない
- 何をしても周囲から認めてもらえない
- 上司に相談しても応えてもらえない
- どれほど頑張っても営業などのノルマが達成できない
このような状況が長期間続くと、「何をやってもだめだ」と感じてしまい、学習性無力感に陥ることがあるため注意が必要です。
上司が部下に対して、明確なフィードバックをしない場合、自分の仕事に自信が持てなくなり、部下が学習性無力感に陥るケースも少なくありません。なお、集団の中に1人学習性無力感に陥った人がいる場合も周囲に伝染するケースもあります。
ビジネスにおける学習性無力感の具体例
ビジネスで学習性無力感に陥った場合、どのような状態になるのか気になる場合もあるでしょう。ここでは、具体的な例を解説します。
意欲低下
学習性無力感に陥ると「どうせ何をやってもうまくいかない」という考えから、仕事に対する意欲が著しく低下するでしょう。たとえば、様々な工夫をしても売上が伸びなかった場合、「どうせ自分が商談しても商品は売れない」という考えになり、ノルマ達成を諦めることがあります。
仕事で様々な努力を重ねても上司から否定され、激しく怒られることが続き学習性無力感に陥るケースもあるでしょう。この場合、「どうせ努力しても成果は出ない」と考えるような環境であるため、スキルアップへの挑戦をやめるといえます。
積極性を失う
何度提案を出しても一切受け入れられない、自分の企画が全て否定されるなどが続いた場合、「自分には能力がない」「自分の考えは絶対に認めてもらえない」と考え、学習性無力感に陥るケースは多いといえるでしょう。
また、「何を考えても否定されるなら、何もしない方が良い」といった思考に変化していきます。結果として、「どうせ否定されるから自分から提案を出さない」「どうせ企画が通らないので、自分からは企画を出さない」といった考えに至り、自分で積極的に提案や企画を出すことをやめてしまうでしょう。
ビジネス上で学習性無力感が与える影響
従業員が学習性無力感に陥った場合、そのまま放っておくと仕事面において様々な影響が出てきます。ここでは、学習性無力感の人が出た場合に、企業にどのような影響を与えるのかみていきましょう。
生産性の低下
学習性無力感の従業員をそのままにしておくと、「自分にはできない」「どうせ怒られるから何もしない方が良い」などという思考に変化し、自発的な行動をとらなくなり、生産性の低下につながります。
そのため、積極的に行動しない従業員を動かすためには、上司は細かい指示を出さなければならなくなるでしょう。学習性無力感に陥った人だけではなく、周囲の人の仕事時間も学習無力感の状態である従業員に時間や手間を割かなければなりません。サポートやフォローに他の社員の時間が取られるため、企業自体の生産性が低下します。
職場内で広がる
学習性無力感は、集団の中で広がっていく点も懸念事項の1つです。従業員1人が学習性無力感に陥った場合、次のようにチームに伝染していきます。
・あの人ができないんだから、自分もできないに違いない。
・あの人が怒られるなら、自分の意見もだめに違いない
さらに職場全体に広がることも考えられるため、学習性無力感となった従業員が一人でも出てきた段階で、放置しないことが大切になるでしょう。
新しい発想が生まれない
学習性無力感に陥った場合、どういった立場の人材であっても、自ら考えて積極的に発言することが少なくなります。たとえば、積極的に提案や企画を出してこなくなる点も悪影響といえるでしょう。
通常、新しいアイデアが出る際は数多くの異なる意見が必要です。従業員同士の活発な意見交換から、新しいアイデアが出てくるケースも珍しくありません。
しかし、複数人が学習性無力感に陥っている場合、積極的な意見交換や会話は行われなくなります。結果的に、新しい発想が生まれなくなる点も悪影響の1つです。
精神疾患を引き起こす可能性も
学習性無力感は、ストレスに対して抵抗をやめた状態といえます。しかし、抵抗をやめただけでストレスや不快感を感じていないわけではありません。
学習性無力感が、うつ病などの精神疾患を引き起こすことがあるため注意が必要です。精神疾患には長期療養が必要となる場合もあり、休職や退職につながることもあるでしょう。そのため、精神的なケアを行える仕組み作りも必要となってきます。
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学習性無力感が職場内で広がってしまう理由
学習性無力感が職場内で広がるのは、職場の環境が原因です。
ここでは、学習性無力感が職場内で広がる理由について解説します。
保守的な考えの上司が多い
学習性無力感に陥る理由の1つとして、言葉だけでなく、仕組みとして、上司や同僚に認めてもらえない点があげられます。学習性無力感に陥る人が出てくる職場では、部下の努力や頑張り、提案を認めない保守的な考えの上司が多いことも少なくありません。
職場に保守的な考えの上司が多く、部下の努力や頑張りを認めない対応であれば、多くの部下が学習性無力感に陥る可能性が出てきます。こういった場合、様々な部署で複数の従業員が学習性無力感に陥る可能性があるといえるでしょう。
仕事が認められているのか、実感しにくい
職場全体に「他人の意見を否定する」という職場文化が根付いている場合があります。新しいアイデアに対し「前例がない」と拒否する管理職が多い職場もあるでしょう。新しいアイデアを認められる機会がなければ、積極的に新しいことを考え取り組んでいく意欲が失われてしまいます。
また、人事評価が主観やマイナス方式の職場では「何もしない方が良い」「減点リスクを回避することだけ考えよう」という思考に至り、消極的な従業員が増加するケースも少なくありません。
消極的な取り組み方では、仕事の中で達成感や充足感が得られることはないでしょう。
褒められる機会が少なく、仕事が認められているのか実感しにくい状況下では、「このままの方向性で良いのか」「自分の仕事はだめなのでは」などと感じられる人々が多数出てくることも想定されます。
その結果、仕事に対してどう取り組んでよいかわからなくなり、積極的な取り組みや努力をやめてしまい、学習性無力感に陥るといった悪循環に陥るといえるでしょう。
ハラスメントが多発している
モラハラやパワハラなどの被害を受けた場合、学習性無力感に陥ることがあります。そして、ハラスメントが多発している職場では、より多くの従業員が学習性無力感に陥るため、広がっていくと想定されるでしょう。
被害者がハラスメントに気づき抗議の声を上げられる環境作りも大切です。実際に、「全て自分に原因がある」「自分が悪い」と思い込んでいる場合は、そもそもハラスメントされていることに気が付かないこともあります。そのため、問題に気付いた場合は、マネジメント層や経営陣が率先して、職場環境を変化させなければなりません。
学習性無力感の解消方法
学習性無力感を解消する最も早い方法は環境を変えることです。たとえば、職場の上司からのハラスメントが原因で学習性無力感に陥っている場合は、「転職」「相談窓口での対処」「部署の異動」などが効果的だといえます。
ただし、学習性無力感に陥っている従業員は「逃げ出そう」「変わらなければ」という考え自体を失っているため自分で気づくことができません。周囲の人が働きかけ、環境の変化につながるよう手助けしてあげることが大切です。
学習性無力感に陥っている場合、思考として、「自分は何をしても無駄」「どんな努力も報われない」とネガティブな考えに偏りがちといえます。その考えを覆すには、成功体験を積み上げていく仕組み作りが大切です。
学習性無力感の予防方法
従業員が学習性無力感に陥った場合、それを解消するには手間がかかります。学習性無力感は伝染し、生産性低下につながるため、事前に可能な限り予防することが大切です。
ここでは、ビジネスの場における学習性無力感の予防方法についてみていきましょう。
声かけ
上司となる従業員は部下に対し、積極的に褒める・認めるといったポジティブな声がけが大切です。
たとえば、部下の意見で認められないものがあったとしても、頭ごなしに全てを否定するのではなく、「提案してきたことを褒めて、改善点を指摘する」といった工夫が必要だといえます。
改善点を指摘する際は必ず代案を準備し、どのように改善すれば良いのかわかるような指導をしましょう。また、その意見を反映して改善してきた場合、できるだけ褒めて受け入れることが大切です。
また、部下に対して「積極的に褒める制度や仕組み、機会がない」場合もコミュニケーションを行い、部下の承認欲求を満たす工夫が必要です。
従業員の意見を取り入れる
学習性無力感になる理由の一つに「自分の意見を受け入れてもらえない」というものがあります。ハラスメントを受けた際に、意見を述べる相談先を企業として作っておくことも大切です。
そして、マネジメント層は、普段から従業員の意見を聞き、取り入れる体制を整えましょう。全ての意見を反映することはできない場合でも、一部を取り入れるなどの工夫が求められます。「意見を伝える場所がある」「自分の意見を聞いてくれる会社だ」と安心感を持って従業員に仕事に取り組んでもらうことが可能になるでしょう。
成功体験の積み上げ
難易度の高い仕事ばかりでは、どれも失敗してしまい成功体験を積み上げられないといったことも想定されます。
モチベーションが落ちてしまった従業員に対しては、比較的達成しやすい業務を与え、成功体験を積ませることが大切です。仕事で達成感や充足感を得られれば、学習無力感の防止だけでなく、自己肯定感の向上にもつながります。
職場の雰囲気を変える
職場の雰囲気に問題があるために、部下が学習性無力感に陥ってしまうケースも少なくありません。たとえば、次のような環境はすぐに改善が必要です。
- 自分の意見が認めてもらいづらい
- 目標やノルマが高すぎてほとんどの人が達成できない
- ハラスメントをする上司がいる
- 保守的な考えの上司が多く新しいアイデアを出しづらい
- 互いに褒め合う文化が根付いていない
職場の雰囲気に問題がある場合、学習性無力感に陥る従業員が増加するため、結果的に仕事がうまく回らなくなる可能性が生じます。
社内に従業員の意欲ややる気を重視する雰囲気を作ることが、学習性無力感の防止につながるでしょう。
まとめ
学習性無力感とは、回避できないストレス下に長時間置かれることで、「何をしてもだめだ」と感じストレスから逃げ出すこともしなくなる状態を指します。従業員が一人でも、学習性無力感に陥った場合、他の従業員にも蔓延し、社内全体の生産性低下につながるため注意が必要です。学習性無力感を予防するために、「部下を褒める」「企業内の雰囲気を変える」「ポジティブな声かけをする」など、できることから取り入れてみましょう。
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