水平思考(ラテラルシンキング)は、イノベーションの促進や多角的な視点による問題解決につながる思考法です。水平思考を取り入れると、それまでとは異なるアイデアを見つけたり、社内の関係を強化したりできます。近年、水平思考は特に注目を集めており、多くの企業が取り入れるようになりました。本記事では、水平思考の定義に触れたうえで、取り入れるメリットや鍛える方法なども解説します。ぜひ参考にしてください。
水平思考(ラテラルシンキング)とは?
水平思考(ラテラルシンキング)とは、どのような思考法なのでしょうか。ここでは、概要を解説します。
固定概念にとらわれず新しい視点で発想する思考法
水平思考(ラテラルシンキング)とは、固定観念や既存の論理にとらわれず柔軟な視点や発想で物事を捉え、課題を解決するための思考法です。従来定着していた垂直思考とは異なり、多角的に考えを深められます。
そのため、新しいアイデアを発見したり、物事の新しい側面を発見したりすることが可能です。企業が水平思考を積極的に取り入れると、イノベーションの促進や問題の解決に役立てられます。
水平思考(ラテラルシンキング)の提唱者
水平思考は、医師・心理学者・発明家など複数の肩書を持つ、エドワード・デボノ(Edward Charles Francis Publius de Bono)が1960年代に提唱しました。直感を重視し、斬新な発想を生み出せる思考法として知られています。
エドワードは、水平思考の原則として「幅広いものの見方を取り入れる」「支配的なアイデアを認識する」「垂直思考の固定観念から抜け出す」「偶然の機会をうまく活用する」の4つを示しました。これらの原則をもとに物事を考えるには、後述する複数の力が必要です。
水平思考の定義
水平思考の定義は、前提となる条件によって変化する場合が多いです。ここでは、企業と人事領域における水平思考の定義について解説します。
企業における水平思考の定義
企業が水平思考を取り入れると、組織内の意識改革やイノベーションを促進できます。水平思考は、1つの課題に対して多様な解決策の模索が可能です。そのため、急速に変化している市場の状況に合わせ、柔軟かつ創造的な戦略を立てやすくなります。
企業による水平思考の活用は、組織全体の成長や競争力の向上などにつながるでしょう。すでに多くの企業が水平思考を積極的に取り入れています。
人事領域における水平思考の意味
人事領域で水平思考を活用すれば、社員のモチベーションを高めるための新しいアプローチにも役立てられます。たとえば、水平思考により従来の評価制度や報酬制度を見直すと、個々の希望に合わせた柔軟な制度も導入しやすいでしょう。
その結果、社員のモチベーションを向上させられる可能性があります。水平思考によりそれまでとは異なる視点からアプローチできると、社員の成長や組織改革も実現可能です。
「水平思考」と「垂直思考」の違い
垂直思考とは、1つの問題やアイデアについて論理的に深く掘り下げていく思考法です。従来、企業では垂直思考が一般的に使われていました。それに対して水平思考は、ひとつの問題やアイデアに対し、柔軟な視点や発想で幅広く考える思考法です。
垂直思考は物事のつながりを重視しながら筋道を立てて考えるため、基本的に結論は1つだけしか生まれません。また、既存の枠組みを重視しています。一方、水平思考は自由な発想を大切にしており、結論は複数あるという前提で物事を捉える考え方です。枠組みにとらわれず、臨機応変に考えられます。
注目されている背景
水平思考が注目を集めている背景には、企業における働き方の多様化が挙げられます。環境の変化により、従来の方法をそのまま踏襲するだけでは、社員のエンゲージメントやモチベーションを向上させにくくなりました。さまざまな考えを持つ社員に対応するため、多角的な視点で思考を深める水平思考に魅力を感じる企業が増えています。
また、水平思考の導入によって創造性を促進し、社員の問題解決力を高めたいと考えている企業も少なくありません。水平思考が身についた社員は、多様な視点から問題を解決できるようになるうえ、革新的なアイデアを生み出せる期待もあります。
水平思考で得られるメリット
水平思考を取り入れると全社的にメリットを得られます。特に重要度の高い2つのメリットを見ていきましょう。
新しいアイデアの発見につながる
水平思考で物事を考えると、新しいアイデアを見つけやすくなります。水平思考は従来の枠組みに捉われず、多角的な視点で考えられるからです。固定観念を取り払い、斬新で創造的な解決策を生み出せる可能性もあります。よって、企業が水平思考を取り入れると、社員は課題に合わせて臨機応変に物事を捉え、柔軟な対応や問題解決を実現しやすくなるでしょう。
チームでの協力関係が構築できる
組織に水平思考を取り入れた場合、人間関係にもよい影響をもたらす可能性が高いです。もともと縦の関係性を重視している企業が水平思考を意識すると、横のつながりも大切にできるようになります。
横のつながりが強化されれば、チームのコミュニケーションの活性化が可能です。それによりメンバー同士の相互理解が深まり、共同作業の推進にもつながります。チームの協力関係を構築できるため、従来よりもスムーズかつ効率的に業務を進められるでしょう。
水平思考を測定する手段
水平思考を測定する手段としては、アンケート調査やフォーカスグループインタビューなどがあります。フォーカスグループインタビューとは、業務を担当するグループ単位で行う意見交換のことです。これらの手段を活用すれば、対象となる社員の意識、抱えている課題、水平思考の実践状況などを把握できます。
アンケート調査やフォーカスグループインタビューなどを用いて、社員の水平思考に対する意識や実践の状況などを把握したら、それをもとに具体的な目標を設定しましょう。その後の実績と目標を比較し、最終的な評価を下します。
水平思考に必要な力とは?
水平思考にはさまざまな力が必要です。具体的にどのような力が必要か、以下で詳しく解説します。
物事の前提を疑う力
水平思考で考えるには、物事の前提を疑う力が必要です。固定概念や先入観に捉われず「目の前の選択肢が正しいか」「他に選択肢はないか」と疑って考えれば、それまでとは異なる気づきを得られる可能性があります。
物事の前提を疑う力を身につけるには、さまざまな価値観に触れ、幅広い考え方を知ることが大切です。たとえば、異なる世代や別の業種の相手と積極的に交流すると、疑う力を育むきっかけになります。
抽象化する(本質を見抜く)力
水平思考においては、物事を抽象化して本質を見抜く力も求められます。水平思考で物事を考えるには固定概念にとらわれず、核となる本質を見極める必要があるからです。たとえば、別のものに見立てて考えたり、抽象化したりすると、物事の本質が浮き彫りになります。
抽象化する力を培うには、さまざまな角度から物事を見ることが重要です。たとえば、書籍は物語や情報を得られる媒体ですが、状況によっては火種や資源としても活用できます。常識に捉われず考え、まずは思いつくままにアイデアを出していきましょう。
セレンディピティ
セレンディピティとは、偶然のきっかけによって触れた物事から想定外の価値を見出す力です。水平思考では柔軟な発想が重要であり、ピンチに見える事態もチャンスと捉えて解決の糸口を見つける必要があります。
たとえば、ワインは飲み水の代用品だったブドウの果汁が偶然発酵して生まれました。そんなワインは、現在では世界中で愛されるお酒となっています。このように、偶然の出来事を新しい価値として見出す考え方が重要です。
水平思考を鍛える方法
水平思考を鍛えるには、どうすればよいのでしょうか。具体的な方法を挙げて解説します。
リフレーミング
リフレーミングとは、思い込みに捉われず考え、物事の枠組みを変えて新しい見方を獲得する思考法です。コミュニケーション心理学の用語として知られています。
何か問題が起きた際に普段とは異なる視点で問題や状況を捉え直せば、有効な解決策が見つかる場合も多いです。たとえば、自分ではなく相手ならどうするか考えると、新しい視点から画期的な解決策を見出せる可能性があります。
ブレインストーミング
ブレインストーミングとは、常識に捉われず自由な発想で意見を出し合い、それまでにない着想や新しいアイデアを引き出す手法です。日本では「ブレスト」と略されています。特に、新しい企画やプロジェクトのアイデア出しは、ブレインストーミングが有効です。
ブレインストーミングにおいては、どのような意見も受け入れる姿勢が必要であり、他人の意見を否定してはいけません。質より量を重視し、可能な限り多くの意見を出すことが大切です。
逆発想の練習
逆発想とは、あえて通常とは逆の方向に物事を考える方法です。普段の視点を変え、新しい考え方をするために役立ちます。たとえば、常識だと思っている考え方や習慣などと反対に物事を考えてみると、それまで気づかなかった課題を発見することが可能です。
また、課題の解決方法も考えやすくなります。逆発想の練習をすれば、実際の業務においても斬新で画期的なアイデアを見出せる可能性が高いです。
代表的な水平思考クイズ3選
水平思考を鍛える方法としてはクイズも有効です。代表的なクイズを3つ紹介します。
1.タクシーの運転手が逆走したのはなぜ?
タクシーの運転手が一方通行の道を逆走していたにもかかわらず、現場を見ていた警察官に注意されなかったというシーンについて、その理由を考えるクイズです。たとえば「タクシーの運転手は車に乗っていたわけではなく、徒歩で一方通行の道を逆走していた」という回答ができます。
「タクシー運転手」と聞くと車を運転しているイメージになりがちですが、問題文だけでは車に乗っているかどうか判断できません。情報を冷静に捉えて考えることが大切です。あらゆる可能性を思い浮かべて回答する必要があります。
2.銃を突きつけたバーテンダーに感謝した理由は?
男がバーに来店してコップ1杯の水を注文したらバーテンダーに銃を向けられ、その後、男は「ありがとう」と感謝して退店したというシーンについて、その理由を考えるクイズです。たとえば「男が水を注文した理由はしゃっくりが止まらず困っていたからであり、それを察したバーテンダーは驚かせてしゃっくりを止める目的で銃を突きつけた」という回答ができます。
このクイズでは水を注文した理由を柔軟に捉え、複数の可能性を考えることが重要です。喉が渇いている状況以外で人が水を飲みたいと考える理由を考え、答えを導き出す必要があります。
3.恋するフォーチュンクッキー
バレンタインデーに、男性が幼馴染の女性からハート型のクッキーをもらったものの、何故か悲しんでいるシーンについて、その理由を考えるクイズです。たとえば「もらったクッキーはハート型にくり抜かれており、幼馴染の女性を好きだった男性はくり抜いた部分が別の人に贈られたと察した」という回答ができます。
一見嬉しい状況であるにもかかわらず男性は悲しんでいるため、具体的に何が起こったか柔軟に想像することが大切です。物事を多角的に捉えて物事の本質を理解できれば、それまで思いつかなかったような発想にたどり着きます。
よく使われる水平思考以外の思考法
ビジネスで用いられる思考法は水平思考以外にもあるため、具体例を挙げて解説します。
論理的思考法(ロジカルシンキング)
論理的思考法(ロジカルシンキング)とは、筋道を立てて矛盾がないように物事を考える思考法です。論理的思考法はビジネスシーンでよく用いられており、業務の効率化や課題解決に役立つとされています。論理的思考法に基づいて仕事に取り組むと、問題を深く分析して根本的な解決に導くことが可能です。
また、論理的に考えれば自分と相手の考えの違いも理解しやすくなり、スムーズなコミュニケーションを実現できます。そのため、ビジネスシーンだけでなく、日常生活や緊急時の対応などにおいても論理的思考法は有効です。
ロジカルシンキングの実践方法とは。メリットやデメリットも解説
批判的思考法(クリティカルシンキング)
批判的思考法(クリティカルシンキング)とは、物事を疑って考え、多角的な視点から論理的かつ客観的に考えて本質を見極める思考法です。論理的思考法と考え方が似ていますが、批判的思考法は物事を疑問視しながら考える点が特徴となっています。
批判的思考で考えると思考の矛盾を発見しやすく、リスクの回避が容易です。新しいアイデアの発見や的確な判断にもつながります。批判的思考を身につけるには、事実と意見を区別して考えたり、仮説を立てて検証したりすることが大切です。
もう迷わない。ロジカルシンキングとクリティカルシンキングの違いを解説
まとめ
水平思考は、従来の慣習や固定観念に捉われず物事を考え、柔軟な視点で本質を見定める思考法です。世の中の考え方が多様化しており、ビジネスシーンにおいても多角的な考え方が求められています。水平思考を取り入れれば、新しいアイデアの発見やチームの協力体制の強化も可能です。水平思考で物事を考えるためには、今回解説した複数の力を身につける必要があります。
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