労働生産性は、コスト削減やモチベーションの向上にも影響を与えます。しかし、日本の労働生産性は全体的に低い状況です。この記事では、労働生産性の種類や計算方法とともに、日本の現状や世界との差について解説します。労働生産性の低さにより起こる弊害や改善方法なども解説するため、ぜひ参考にしてください。
労働生産性とは?
生産性は、モノやサービスをいかに少ない資源で効率よく作り出せるかを表しています。そして、労働生産性とは、一定の労働によりモノやサービスをどの程度作り出せるかを表す指標です。労働者1人あたりの生産性を示す場合もあれば、労働者1人の1時間あたりの生産性を示す場合もあります。
労働者1人が同じ時間で多くの成果を生み出せるなら、労働生産性が高い状態です。生み出せる成果が少なければ、労働生産性が低いと判断されます。
労働生産性の種類
労働生産性には2つの種類があります。1つ目は、付加価値労働生産性です。生産活動で新たに生み出される金銭的な価値を表しています。具体的には、仕入れや加工に必要な費用と販売額の差です。これは付加価値と呼ばれています。
2つ目は物的労働生産性です。労働者1人あたりが生み出す生産量や販売金額を表しています。簡単な例を挙げると、労働者1人の生産量が100個の場合と200個の場合で比較すると、後者の方が、物的労働生産性が高いと判断します。
労働生産性の計算式
労働生産性は、労働力に対する成果の割合を示しています。計算式で表すと「成果÷労働投入量」です。成果は売上、利益、付加価値など、労働投入量は社員数、労働時間などを表しています。労働生産性を高めるには、少ない労働投入量で高い成果を出さなければなりません。
日本における労働生産性の現状
日本の労働生産性はどのような状況なのでしょうか。ここでは、日本における労働生産性の現状について解説します。
業種別の労働生産性
労働生産性は、業種によって異なります。少人数で利益を多く生み出しやすい業種は、労働生産性が高めです。労働生産性が比較的高い業種を具体的に示すと、以下の業種が挙げられます。
・金融業
・保険業
・不動産業
・情報通信業
・電気・ガス・水道業
一方、労働生産性が比較的低い業種は以下のとおりです。
・飲食・宿泊サービス業
・保健衛生・社会事業
・建設業
企業規模別の労働生産性
労働生産性は、企業の規模によっても異なります。基本的に、大企業は中小企業よりも労働生産性が高めです。ただし、企業規模にかかわらず労働生産性が高い業種もあります。具体的には、DXやデジタル化が積極的に推進されている情報通信業や製造業などは、全体として労働生産性が高めです。
日本と世界の労働生産性
他国と比べ、日本の労働生産性は低い状況です。日本の労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国中27位に位置しています。ただし、主要7か国では最下位です。アメリカと比較すると、日本の水準は6割程度にとどまっています。
コロナ禍ではどの国でも労働生産性が低下したものの、現在では回復している国がほとんどです。しかし、日本ではいまだに労働生産性があまり回復していません。
※参考:労働生産性の国際比較2022|公益財団法人日本生産性本部
日本の労働生産性が低い理由とは?
なぜ日本の労働生産性は向上しないのでしょうか。ここでは、その理由について解説します。
付加価値を生み出す力が弱い
日本は、労働者数や労働時間を増やして労働生産性を高めてきました。他国と比較すると1つの業務に関わる人数や作業時間が多い傾向があります。他の工業先進国と比べると、結果として付加価値を生み出す力が弱い状況です。
業務体制が非効率である
非効率な業務体制では、労働生産性が低くなりがちです。たとえば、業務を進めるには必ず上司の指示や判断が必要な職場では業務全体にかかる時間が多く、業務効率が下がります。また、業務量に偏りがあったり、業務が属人化したりしている場合も非効率です。日本ではそのような職場も少なくなく、労働生産性が上がらない理由の1つになっています。
長時間労働や残業を前提としている
従来の日本では、長時間にわたって働くほど勤勉であり、仕事が終わらなければ残業も当たり前だという考えが定着していました。現在では残業時間の上限が設けられており、働き方改革も推進されていますが、残業ありきで業務計画を立てている企業もまだ多い状況です。
長時間労働や残業は集中力を低下させる原因になり、判断や操作のミスも誘発します。ミスが発生するとやり直しも増えるため、労働生産性が低下しがちです。
評価制度に課題を抱えている
評価制度に課題がある場合も労働生産性が低下しやすくなります。日本ではもともと年功序列の給与体系が一般的であり、現在でも見直しを行っていない企業は多く存在します。年功序列の給与体系に対し、努力しても評価されないと不満をもつ社員は多いです。モチベーションの低下を招き、パフォーマンスに悪影響をもたらすケースも少なくありません。
また、残業手当が多い給与体系では、ゆっくり作業して残業した方が得だという考えに至りやすいです。1つの業務に費やす時間が増え、労働生産性が低下しやすくなります。
評価制度はどうやって作るべき? 評価制度の作り方を具体的に解説
個人の裁量に限りがある
決裁権が役職者に集中している企業では部下の裁量が限られ、労働生産性を低下させる原因になります。また、チームで仕事に取り組む場合は仕事が遅いメンバーに合わせる必要があり、個人の裁量では仕事を進められません。そのような状況では、社員が業務をこなすだけになったり、想定通りに仕事ができなかったりし、モチベーションも低下する可能性があります。
DX・デジタル化が遅れている
DX・デジタル化の遅れも、日本で労働生産性が上がりにくい理由の1つです。紙の書類を大量にコピーして各支店へ郵送したり、手作業で各種申請や承認などを行ったりしている企業も少なくありません。その場合、時間や労力が多くかかるうえにヒューマンエラーも起きやすい状態です。日本の労働生産性を上げるためには、アナログで対応している業務を早期にDX・デジタル化する必要があります。
日本の労働生産性が低いことが招く弊害とは?
労働生産性が低いとさまざまな問題につながるため、注意が必要です。ここでは、具体的にどのような弊害があるか解説します。
コストの増加
労働生産性が低い状態が続くと、成果が出るまでに多くの労働力や労働時間が必要になります。その結果、コストもかさみがちです。長時間労働や残業には人件費がかかるため、労働量を上回る成果が出なければ無駄なコストが多くなります。長時間労働が常に行われているとモチベーションや集中力も低下しやすく、生産性をさらに低下させる可能性が高いです。
社員への負担
生産性が低い状態が続いている場合、社員の負担も多くなります。過度な残業や休日出勤が発生すればモチベーションが低下し、労働生産性はさらに低下するでしょう。仕事の負担が心身に影響を与えれば、離職につながる恐れもあります。必要な労働力を確保できなくなると、労働生産性がさらに低下しかねません。
経済力の低下
労働生産性が低下すると、企業の経済力も低下するリスクがあります。企業として稼ぐ力が十分でない場合、労働時間に対して適切な成果を出せず、思うような売上や利益を出せません。そのような企業が多くなれば日本全体の経済力が低下し、国際的な競争力も失う可能性があります。
日本の低い労働生産性を改善する方法とは?
日本の低い労働生産性を改善するには、どうすればよいのでしょうか。ここでは、労働生産性の低さを改善する方法について解説します。
経営層の意識改善
企業の労働生産性を改善するには、経営層の意識改革が重要です。問題がある評価制度や労働環境などの改善を進めるには、経営層が状況を理解する必要があります。経営層が当事者意識と危機感をもって施策に取り組むと、スムーズな改善を実現しやすいです。
評価制度の改善
適切な評価制度は、社員のモチベーションを向上させるために有効です。特に、長時間にわたって働くほど給与が上がる仕組みは避け、適切な賃金計算の基準を設ける必要があります。業務プロセスを改善し、個人のスキルに基づいて成果を上げると評価される制度を構築しましょう。また、成果に応じたインセンティブを設けたり、労働生産性に関する評価軸を追加したりしても効果的です。
労働環境の改善
長時間労働や残業が多いなら、労働時間の管理を強化すべきです。まずは、特定の部署や個人に負担が偏っていないかチェックし、体制を見直しましょう。長時間労働や残業が減り、休暇をとりやすい状況になれば、社員の心身によい影響をもたらします。その結果、労働生産性が向上する可能性が高いです。
付加価値の改善
労働生産性を改善するには、自社の付加価値そのものを見直して利益を高める方法もあります。たとえば、安く売る前提を見直したり、価格設定が商品やサービスに見合っているかチェックしたりしましょう。また、他にも以下の改善に取り組むと効果を期待できます。
・人件費の削減
・外注費の削減
・新商品や新市場の開拓
・業務効率化
DX ・デジタル化の推進
労働生産性を高めるには、DX ・デジタル化の推進も欠かせません。手作業、手集計、繰り返しの単純作業などは、IT ツールにより対応すると精度や速度の向上を期待できます。また、定型業務については自動化も可能です。人的ミスの防止にもなり、大幅な労働生産性の向上を目指せます。
DX戦略とは何?必要とされている理由や成功させるポイントなどを紹介
スキルの尊重
労働生産性を上げるには、社員個人のスキルの尊重も大切です。チーム単位で業務を進めている場合、個人で仕事に取り組める体制に変えることで、生産性の向上に期待できるでしょう。補足ですが、国内でも労働生産性を高める目的で成果主義を取り入れている企業が増えています。
システムの活用
業務効率を高めるには、システムを活用すると効果的です。システムは、部署や職種の課題に応じて選択しましょう。具体的には、以下のツールの導入がおすすめです。
・マーケティング:MAツール
・営業:CRM(顧客管理システム)
・経理:経費精算システム
・労務:勤怠管理システム
・人事:人事管理システム
アウトソーシングの活用
自社のリソースですべてをカバーできなくても、アウトソーシングを活用すれば労働生産性を高められます。特に、専門性の高い人材が自社にいない場合、アウトソーシングの活用により大幅な生産性の向上を見込めるでしょう。人材不足で即戦力を確保できなかったり、指導や育成が困難であったりするケースでも有効です。
まとめ
日本は世界の国々に比べて労働生産性が低い状況です。主な理由として、従来の日本独自の評価制度や仕事に対する考え方などが挙げられます。労働生産性が低いままでは、社員の負担が増加したり、経済力が低下したりする可能性が高いです。労働生産性を上げるには経営層が危機感をもち、制度や環境を改善しなければなりません。
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