労務管理の定義とは
労務管理の定義とは、労働に関するさまざまな手続きや施策を管理することです。たとえば賃金に関するものや、福利厚生に関するものなどが労務管理にあたります。
具体的に労務管理においては、労働時間の把握、賃金システムの見直しなどをおこなうことが多いです。その目的は、社員が活躍しやすい環境を整えることにあります。
労務管理は人事部でおこなうこともあるため、とりわけ人事管理とは混同されやすいですが、まったく異なる仕事です。人事管理は人材についてスキルや能力を把握し、適切な配置をおこなったり、場合によっては新しく採用したりします。労務管理は人事について触れることはなく、社員のスキルや能力にも関連しません。
労務管理の歴史
日本における近代的な労務管理は、まだ歴史が深いとはいえません。戦後の高度経済成長期には年功序列の雇用形態が運用されてきた日本でも、しだいに能力主義がもてはやされるようになりました。その後、決定的な状況の変化をもたらしたのがバブル崩壊です。
バブル崩壊後、終身雇用という雇用形態もまた姿を消し、雇用の流動化が起こりました。こうした変化に対応するため成果主義を導入する企業が増え、成果主義を実現するために、従来にはない新しい視点の労務管理が必要とされたのです。
現在の労務管理は労働時間や給与を通して、社員の過不足や適材適所であるかどうか、また成果に見合った報酬であるかどうか等を管理する役割を持ちます。
労務管理に関連する法律一覧
労務管理に関わる法律には、たとえば、以下のようなものがあります。
- 労働基準法
- 労働組合法
- 労働契約法
- 最低賃金法
- 男女雇用機会均等法
- 労働安全衛生法
- 労働施策総合推進法
これらの法律は総合して「労働法」と呼ばれますが、「労働法」という名称の法律はありません。
労使の契約においていかなる契約を結んだとしても、労働法に該当する各法律で定められた最低基準を満たさないものは無効となります。労務管理においても同様で、常に労働法が優先されることに留意しなければなりません。
労務管理の重要性
労務管理は、企業の発展という観点からも大いに重要性を持っているといえます。
なぜなら、労務管理ができていないと社員のモチベーションが低下する要因になるためです。社員のモチベーションが低ければ、企業は長期的な発展が難しいでしょう。こうしたデメリットを避けるためにも、労務管理をきちんとおこなうことは重要です。
労務管理の具体的な業務内容
労務管理を担当する部署は、実際どのようなことを業務としているのでしょうか。労務管理の具体的な業務内容をまとめました。
労働時間の管理
まずは、社員の労働時間の管理です。給与のために管理するという理由もありますが、社員が所定の労働時間内で働いているかを確認する意味もあります。
所定の労働時間とは、労働基準法における労働時間のことです。労働基準法では第36条に、通称「36協定」と呼ばれる労働時間に関する規定があります。36協定は時間外労働と休日労働に関連する法規です。具体的な内容としては、時間外労働の上限を「年間720時間以内」「1カ月平均は80時間以内」とするなど、いくつかの制限を設けています。
就業規則の管理
就業規則とは、社員の労働条件と、勤務上のルール、双方を文書にまとめたものです。
労働基準法では、常時10人以上を雇用する場合、労働基準監督署への就業規則の提出が必要であることが定められています。就業規則が適切に管理されていることによって、企業と社員の間におけるトラブルを未然に防ぎ、スムーズな職務遂行が可能になるといえるでしょう。
給与・福利厚生の管理
労務管理のひとつとして、給与や、福利厚生の管理がおこなわれます。
労働保険料徴収法、所得税法など、各法の取り決めを満たした給与明細を発行するのが、労務管理の仕事です。企業によっては勤務日数、出勤日数、出勤時間などをこと細かにまとめているところもあります。
福利厚生に関しては健康保険などの法定福利のほかに、企業が社員の心身リフレッシュを通して生産性を上げるため独自に設定した、法定外福利の管理が挙げられます。
安全衛生の管理
労働安全性衛生法に基づく安全衛生の管理も、労務管理の一環です。
安全衛生とはたとえば、健康診断の実施が挙げられます。健康診断の結果は、社員に通知しなければなりません。通知にともない、必要があれば社員への健康維持のための保健指導、通院等の適切な措置もうながすことになります。
労務として健康診断の結果を医師からヒアリングしたり、必要に応じて所轄の労働基準監督署長への報告をおこなったりすることもあるのです。
労使関係の管理
労務管理は、労使協調体制を目指す役割を担うこともあります。具体的には、労働組合の代表者との団体交渉などが労務管理に含まれます。
労務管理はあくまでも企業側の立場です。しかし、ときに企業と社員との間に立ち、労使関係の管理を担う立場にもなり得ます。労働条件についての意見交換をする、意見を労働協約としてとりまとめて合意を交わすといったことも、労務管理の業務のひとつです。
無論、極力こうしたトラブルにならないよう、労働条件について妥当なものであるかを管理することも必要でしょう。
諸手続きの管理
労務の仕事には、手当金などが絡む諸手続きの管理が含まれます。
これらの多くは、社員のライフイベントと深く関わっているものです。結婚のために氏名が変更になった場合は、社内の書類だけでなく健康保険などに変更が生じます。引っ越しがあれば通勤手当の変更だけでなく、家賃補助など福利厚生にも関わる変更が想定されるでしょう。
ほかには社員が出産すれば出産手当金、育児休業給付金、保険料免除の申請など、労務に関連する手続きは多岐にわたります。
その他の業務内容
労務管理には、上に挙げたもの以外にもさまざまな業務内容があります。
たとえばパワハラ、セクハラなどの違法行為対策が、労務管理のひとつです。現在は「ワークプレイスハラスメント」、つまり職場における嫌がらせ行為と位置づけられるこれらの行動は、企業が健全な組織として存続するために、常に気配りと対応が必要な分野といえるでしょう。
ほかには保険関係の脱退手続き、休職手続きなども、労務管理の業務に含まれます。
忘れてはいけない法定三帳簿の管理
労務の仕事のなかには、労働基準法によって保管が義務づけられている帳簿、「法定三帳簿」の管理が含まれます。法定三帳簿について、詳細を解説します。
労働者名簿
まず労働者名簿です。これは社員情報を集約したもので、名称のとおり、社員の名簿となっています。
労働者名簿には、社員の氏名、住所、生年月日などを記載してまとめなくてはなりません。企業でひとつではなく、事業所ごとに作成することも定められています。
賃金台帳
賃金台帳は、給与の支払いに関する情報をまとめたものです。こちらも事業所ごとの作成となります。
賃金台帳には、社員の氏名と性別、基本給・手当や労働日数などを記載しなければなりません。休日労働や、深夜労働の時間数も記入することが義務づけられています。
出勤簿
出勤簿は、社員の労働時間を集約したものです。
「出勤簿の作成」としては、労働基準法で義務づけられているわけではありません。しかし、企業側で労働時間の把握が義務づけられているため、出勤簿が必要になります。
出勤簿には、出勤日、労働日数、出勤・退勤時刻などを記載します。
労務管理に必要なスキル・資格とは
労務管理に必要なスキルや資格について、把握しておきましょう。
まず、労働法規に関する知識は必須事項となります。しかし、労務管理は法規に関連する書類の作成や管理、手続きだけが仕事ではありません。労使の間に入って交渉をおこなったり、さまざまなトラブルを未然に防いだりすることも重要です。
そこで、情報収集力、問題解決能力、コミュニケーション能力といったものも必要になります。
資格の面では、必須の資格はありません。知識が増え、労務管理の仕事に有効活用できる資格としては、ビジネス・キャリア検定試験や労務管理士といったものがあります。労務の管理者である、あるいはこれから労務管理を目指すのであれば、資格の取得を検討してもよいでしょう。
労務管理における注意点とは
労務管理にはいくつか注意点があります。労務管理における注意点を解説します。
社員への周知を忘れない
まずは企業の社員に周知を忘れないようにすることが大切です。
特に就業規則などのルールは作成するだけでなく、きちんと周知することで、社員に規則を守ってもらえるようになるでしょう。
一方、就業規則などは社員をルールで縛り過ぎないように注意しながら、定期的に見直すことも重要です。仕事の状況、現場の様子も、常に変化しています。就業規則が現場に即しているかどうかに留意し、変化に応じてルールを適正化するよう気をつけましょう。
社員に正しく理解してもらうことを意識する
労務管理の立場にいる者として、社員に労務の仕事を正しく理解してもらうことを意識しなければなりません。労務管理を正しく理解してもらえない場合、適正に管理できなくなってしまうこともあり得ます。
労務管理は社員の勤怠などを管理するため、社員よりも「立場が上」と受け取られやすい立場にあります。労務管理をおこなっていると、立場が上になったような錯覚を起こすかもしれません。したがって、社員に対して優越な立場を取らないように、特に留意する必要があるでしょう。
まとめ
労務管理の仕事は、企業において社員の労働時間や労働の状況、給与、就業規則などを管理する、非常に重要なものです。また労務管理は人材マネジメントにも大いに関連しています。どのような社員が所属しており、いかなる業務をおこなうかを把握するのも、労務管理の一環でしょう。
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