こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
職能給や職能資格制度とは、従業員がどれくらい業務を遂行できる能力があるかを言語化・数値化した基準を用いた等級制度です。本記事では、職能給や職能資格制度の特徴や仕組み、メリット・デメリットや評価基準などを詳しく解説します。この記事を読むと、人事制度の見直しや改善に役立つ知識が得られます。
職能給とは?
職能給とは、職務を遂行するためのスキルや能力を基にした給与体系を指します。本制度は日本の企業で導入しているケースが多く、特定の技術能力、資格保有、リーダーシップや対人能力などが評価対象となります。
職能給の特徴は、業務成果よりも個人のスキルや能力を基準に給与が決まる点です。そのため、同一企業に長期間在籍するほど、給与が増加するメリットがあります。また、異なる部門に移動しても給与が減少しない特徴もあります。
職能給のメリットとしては、収入が安定して将来の人生設計が立てやすい点が挙げられるでしょう。一方デメリットとしては、個々の業務成果が直接的に給与に反映されにくい点や他社への転職が困難になる可能性がある点が考えられます。
職能給と職務給の違い
職能給は、従業員がどれくらい業務を遂行できる能力があるかを言語化・数値化したものを基準に賃金を決める賃金制度で、勤続年数や役職に応じて賃金が上がる仕組みです。主観的な判断が入りやすく、年功序列や終身雇用と相性が良いです。
一方職務給は、職務の難易度や責任の度合いに応じて賃金を決める賃金制度で、仕事の達成度や実績に応じて賃金が上がる仕組みです。客観的な判断が基準となり、成果主義や同一労働同一賃金とマッチしています。
賃金の決め方が異なる
職能給は従業員の「職業遂行能力」、つまり個々の能力やスキルを基に給与を決定します。仕事に必要な知識や技術、経験、資格などだけでなく、リーダーシップ、協調性、ストレス対応力なども含まれます。
また、勤続年数や業界に対する理解度といった要素も考慮する制度です。年功序列に基づく職能給制度は、実際の業績とは別に経験や能力に基づいて給与が増加する特徴があります。
一方職務給は、職務の難しさや責任の程度を基に給与を決定します。「職務遂行能力」を評価する職能給とは対照的で、職種や仕事の専門性を重視します。本制度は、「成果主義」や「同一労働同一賃金」の原則に沿っています。したがって、同じ難易度と責任の仕事ならば、勤務年数に関係なく、職務の成果に基づいて給与が決定されます。
賃金配分が異なる
職能給制度では、従業員の職業遂行能力が勤続年数とともに向上すると想定し、それに応じて給与も増加します。しかし、このシステムは主観的な判断が入りやすく、給与の分配は上司や人事部の評価に大きく依存します。
一方職務給は、職務の達成度に応じて給与が決定されるため、客観的な基準に基づき、主観的な判断は極力排除されます。
評価基準が異なる
職能給制度の評価基準は、職務遂行能力という非常に広範な要素に基づいているため、評価が曖昧になってしまっています。その結果、実際の業績や職位に関係なく、勤務年数が長いだけで高い待遇を得られる可能性があります。
一方で、職務給では昇進や昇給は仕事の成果や実績に直結します。そのため職務遂行能力が向上したからといって、待遇が必ずしも上がるわけではありません。
職能給のメリット・デメリット
職能給は、従業員がどれくらい業務を遂行できる能力があるかを言語化・数値化した基準に応じて賃金を決める賃金制度であり、勤続年数や役職に応じて賃金が上がる仕組みになっています。企業にとってどのようなメリットやデメリットがあるか解説します。
メリット
職能給のメリットとしては、まず「従業員の定着率向上」が挙げられます。勤続年数や役職に応じて賃金が上がるので、従業員は長く働けば生活の安定性やライフプランを確保できるのです。
また、従業員の能力開発を目的としたジョブローテーションなどの人材育成策も実施しやすくなります。そのため、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めることができて、離職率を低く抑えられるのです。
また「賃金管理の容易さ」もあります。号俸表などの賃金表を基にして賃金を決めるので、賃金管理が容易です。また、様々な観点から評価しなければならない職務給の制度よりも、資格や従業員の属人性から評価できる職能給は賃金を決めやすいというメリットがあります。
デメリット
職能給のデメリットには、「若手人材の流出」が挙げられます。職能給は50~60代の従業員や役職者に有利な制度なので、若手人材や結果を残している人材は自分の成果に見合った処遇を得られないと感じやすくなるのです。そのため、成果によって賃金が決まる成果主義を採用している他社への転職や起業などで流出する可能性が高まります。
また「経営環境への対応力低下」というデメリットもあります。勤続年数や役職に応じて賃金が上がるので、50~60代や役職者の人件費が高くなるのです。そのため、景気変動や市場変化などに対応するために人員削減や賃金カットを行う必要が生じた場合、抵抗感や反発を招きやすくなります。
職務給のメリット・デメリット
職務給は、従業員の能力や年齢を問わず担当する業務の内容にあわせて給与が決まる仕組みを指します。近年注目される成果主義に近い評価方法で、採用する企業が増加しています。
本章では職務給におけるメリットとデメリットを解説します。
メリット
職務給のメリットには、「従業員のモチベーション向上」を挙げることができます。職務給は成果主義的な評価方法であるため、勤続年数や立場にかかわらずよい成果を上げれば、給与に反映されます。そのため、結果や成果物に対して見合った報酬を受け取ることができ、モチベーションの維持や向上につながるでしょう。
また「従業員価値の向上」というメリットもあります。結果や成果物が評価されるため、よい仕事をすることが求められ、結果的に業務レベルの向上につながるのです。日々の仕事のクオリティ向上に努めて、でスペシャリスト人材の育成や活用が進む点もメリットの一つです。従業員価値が向上すれば、優秀な社員が集まりやすくなるメリットもあります。
デメリット
職務給のデメリットとして、「若手人材の流出のリスク」が挙げられるでしょう。成果を上げることでモチベーション向上に役立つ職務給ですが、結果や成果を上げられないと評価や給与は高くなりません。そのため、なかなか成果を出せずにいる従業員は企業に対する忠誠心や愛着が薄れ、離職につながる恐れがあります。
また評価方法が細かくなるため、評価にかかるコストが高くなりかねません。職務給では、業務に関する成果物や結果が評価の対象です。
勤続年数や役職のようにどの従業員にも当てはまる指標ではないため、一人ひとりの成果に対して適切に評価を付けていく必要がありますので、コストや手間がかかります。
職能給が適用される制度を職能資格制度という
職能給が適用される制度を職能資格制度といい、資格を持っていれば業務に役立つ能力があることを示します。本章では、職能資格制度について解説します。
職能資格制度の内容
職能資格制度とは、仕事の専門性や技術を証明するための制度です。ある特定の職業における知識や技術を持っていることを証明する資格を取得すれば、業務をこなす能力があると認められます。
そのため、職能資格制度は就職活動や企業内における昇格だけでなく、自分自身のスキルアップにも役立ちます。資格を取得するための勉強や練習を通じて新たな知識や技術を身につけられたり、資格を持っていると自信につながったりするでしょう。
特にITエンジニアなどの職業では、プログラミング言語やシステムを扱う能力を証明するために、様々な資格試験が存在します。資格を持っていると、求人を探す際に自分の技術レベルを証明する手段になるので、企業に自分のスキルを理解してもらう手助けになるでしょう。
職能資格制度の昇給制度
職能資格制度における昇給制度には、昇格昇給と習熟昇給の2つが挙げられます。それぞれの制度について解説します。
昇格昇給
昇格昇給とは、上位等級に昇格した時点で賃金が引き上げられる方法です。例えば、A等級からB等級に昇格した場合、B等級の最低賃金以上になります。昇格するためには、各等級に定められた職能資格基準を満たす必要があります。
昇格昇給のメリットは、従業員のモチベーションやスキルを高める点です。自分の能力が評価されると、仕事への意欲ややりがいがアップします。また上位等級になると、より多くの責任や権限が与えられます。
習熟昇給
習熟昇給とは、同一等級内で賃金が上がる方法です。たとえば、A等級内でA1号俸からA2号俸になれば賃金が上がります。習熟昇給は毎年の定期昇給で行われる場合が多く、勤続年数や成果によって決まります。
習熟昇給のメリットは、安定した環境で働ける点です。同一等級にいる限り賃金が下がらないため、毎年給与の増加が見込めます。また、長期的な人材育成にも有効で、10年や20年という時間をかけて管理職や熟練工などを育てられます。
職務等級制度・役割等級制度との違い
職務等級制度と役割等級制度は仕事の価値によって等級を決める点では共通していますが、重視する点に違いがあります。それぞれの違いについて詳しく解説します。
職務等級制度は「職務」に注目する
職務等級制度では、担当する職務内容や難易度によって等級を決めます。たとえば、部長や課長などの管理職は、一般従業員よりも高い等級です。職務の価値が大きいほど、賃金も高くなります。
職務等級制度のメリットは、人件費の抑制に役立つ点や成果主義的な経営方針にマッチする点です。一方デメリットには、役職が変わらなければ賃金が上がらない点や人事異動が柔軟ではない点が挙げられます。
役割等級制度は「役割や成果」に注目する
役割等級制度では、職務における役割や成果によって等級を決めます。たとえば、営業マネージャーは、部下の指導や売上目標の達成などの役割や成果に応じて高い等級になります。
役割等級制度のメリットは、職務等級制度よりも人事異動が柔軟である点や個人の能力や貢献度を評価できる点です。一方デメリットは、役割や成果の評価基準が明確でない点や組織内で不公平感が生じる点が挙げられます。
職能管理だけで終わらない、あらゆる人事データを統合して分析
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職能資格制度のメリット
職能資格制度は、従業員がどれくらい業務を遂行できる能力があるかを言語化・数値化した基準にして等級を決める制度です。本制度のメリットを解説します。
長期的な人材育成が見込める
給与が勤続年数に応じて上昇するため、従業員は長期的に働き続ける安心感を持ちやすいです。住宅の購入や子供の教育費用の計画など、個々のライフプランを立てやすく、長期的に勤務する人材が増えるでしょう。そのため、長期的な人材育成が期待できるのです。
幅広い知識を身につけられる
職能資格制度は全般的な職務能力を評価しますので、ゼネラリストの育成に適しています。つまり、従業員は幅広い知識を習得できるメリットがあるのです。
企業の変化に対応しやすい
職能資格制度では従業員の能力と役職が別に評価されるため、企業の組織改編や人事異動への対応が容易になります。たとえば、欠員が出たり新たなプロジェクトがスタートした場合にも、適切なレベルの従業員の再配置が可能です。このように、人事における柔軟性の高さもメリットといえるでしょう。
職能資格制度のデメリット
次に職能資格制度のデメリットを解説します。
人件費の負担が大きい
勤続年数とともに等級が向上する特徴から従業員にとっては安定感や未来の見通しが立ちますが、企業にとっては人件費が大きく膨らむリスクを抱えることになります。等級が下がらない原則から、高い等級の従業員が多くなると人件費が増加してしまうのです。
能力評価の判断が難しい
職能資格制度では、従業員の能力と役職が分けて評価されます。したがって企業の組織変動や人事転勤への適応力を高めるメリットがありますが、能力の評価基準が難解となるデメリットもあるのです。
若手従業員の意欲低下が考えられる
職能資格制度では勤務年数が評価の一部を占めるため、自然と年齢が高い従業員の給与が高くなる傾向があります。長期的な人材育成には良い面もありますが、一方で若手社員の活力ややる気を削いでしまう可能性もあるのです。
職能資格制度の評価基準は3つ
職能資格制度では能力評価、情意評価、成績評価という3つの評価基準が用いられます。それぞれの基準について詳しく解説します。
1.能力評価
能力評価は業務における知識やスキル、理解力、分析力を評価する方法です。従業員が職務に対してどの程度熟練しているか、また新たな課題をどのように解決できるかといった面で評価されます。
また、従業員が必要なスキルを身につけるための指針を提供する役割も果たします。そのためスキルアップのためにはどんなことに注力すべきかを理解するための手助けになります。
2.情意評価
情意評価は職場での態度や行動を評価する方法で、従業員が他の人々とどのように働いているかをチェックします。具体的には、規律性、協調性、リーダーシップなどの項目が評価対象になります。
情意評価は主観的になりがちなので、多角的な評価が必要です。上司だけでなく同僚や部下からのフィードバックも考慮に入れたり、どのような行動が評価されるのかという基準を設けたりする必要があります。
3.成績評価
成績評価は、一定期間の業績や業務達成度を測定する方法です。具体的な目標を設定し、どの程度達成しているかによって評価します。数値目標の達成や特定のプロジェクトの完成など、明確な結果を基に評価が行われるのです。
成績評価では達成感を得られやすいため、従業員のモチベーションを高めることができます。また企業にとっても、組織の目標達成に対する明確な進捗状況を示せる側面があります。
職能資格制度の昇格の仕組み
職能資格制度では従業員の能力を評価する仕組みとして、職能資格基準が設けられています。職能資格基準とは、従業員の資格等級を設定して資格等級ごとに求められる基準を定めたものです。
職能資格基準において昇格するためには、上位の等級に見合った職務遂行能力を発揮できる能力があることを証明する必要があるのです。その証明方法には、入学方式と卒業方式という2つの方式がありますので、詳しく解説します。
入学方式
入学方式は、高い等級に進むために必要な知識や技術を企業内もしくは外部の教育・研修を通じて獲得する方法です。具体的には、各種教育・研修を完了し、必要な資格や免許を取得したり、能力評価試験や面接にパスしたりすれば、次の等級に昇進できます。
入学方式のメリットとしては、従業員が主体的に学び、スキルアップを図ることができる点や教育・研修の内容や評価基準が明確であれば公正な評価が可能となる点があります。一方デメリットとしては、教育や研修に要する時間とコストがかかる点と現場でのパフォーマンスが必ずしも向上するわけではない可能性がある点が考えられます。
卒業方式
卒業方式とは、現在の職務で高等級に適応可能な能力を示すことによって昇進する制度です。具体的には、職務成果、業績、上司や同僚からの評価などを基にその人の能力が評価されます。その評価が高ければ、次の等級へと昇進できます。
卒業方式のメリットとしては、実際の職務経験に基づく能力評価が可能な点と教育や研修に比べて時間や費用がかからない点があります。一方デメリットとしては、評価基準が主観的であいまいになりがちである点や仕事内容や環境によっては十分に能力を発揮するのが難しい場合もありうる点が考えられるのです。
職能資格制度の降格の仕組み
職能資格制度で降格する仕組みは基本的にありませんが、懲戒処分や人事上の措置として降格される場合があります。また降格される場合には、就業規則や労働契約に根拠や基準が明記されているかどうかを確認する必要がありますので、詳しく解説します。
降格は基本的に起こらない
職能資格制度では、一度到達した職務遂行能力が引き下げられる事態は想定されていません。また労働契約でも、資格や等級を引き下げる降格は基本的に認められません。
降格する場合には、就業規則に降格があることを明記し、特別な労働契約上の根拠を持たせておく必要があります。同様に、賃金の減額も別途労働契約上の根拠が必要です。
懲戒処分で降格する
従業員が就業規則や法律に違反したり従業員のミスで企業に大規模な損失を与えたりした場合に、懲戒処分として降格するケースがあります。たとえば、パワハラやセクハラをしたり、無断欠勤が頻発したり、個人情報を漏らして企業が損害賠償を求められたりするなど様々なケースが存在します。
懲戒処分で降格する場合にも、就業規則に懲戒処分の種類や基準を明記しておく必要があります。なお、懲戒処分に伴う減給はその後の昇給が難しくなるケースが多いです。
人事上の措置として降格する
人事異動などを理由として等級を降格することもあります。たとえば、異動後の部署の規模や必要とされる能力を考慮し、適切ではないと判断される場合などが考えられるでしょう。また本人の能力面から役職に不適切であると判断された場合には、その役職から外すといった降格が行われる場合もあります。
人事上の措置として降格する場合には、就業規則に人事異動の基準や手続きを明記しておく必要があります。また等級が引き下げられると同時に賃金の減額が発生する場合には、就業規則にその旨を明記しておかなければなりません。
職能資格制度導入の流れ
職能資格制度を導入するには、必要な手順があります。それぞれの手順について詳しく解説しますので、チェックしてください。
等級数を決定する
企業は何段階の等級に分けるかを決めて各等級ごとに求める能力、すなわち「期待能力」を定義します。期待能力とは、「上司から指示された仕事ができる」「自分で仕事を考えてできる」「後輩に仕事を教えられる」など、職務における重要なスキルや能力です。期待能力は誰が見てもわかりやすく明確でなければなりません。
職能資格制度を導入するには、まず役職に合った等級を定めて全体の等級数を設定する必要があります。それぞれの等級ごとに求められる期待能力などを決定しておきましょう。
評価基準を作成する
評価基準では、「情意評価」「能力評価」「成績評価」の3つの観点から評価されます。「情意評価」では従業員の仕事への意欲や姿勢から評価を行い、また「能力評価」では従業員の知識やスキルを評価します。さらに「成績評価」は従業員の業績や成果を評価します。
これらの評価項目は数値化され、定量的に測定可能です。明確なプロセスによって評価が客観的かつ公平になり、従業員間の比較や競争が平等に行われます。
職能要件書を作成する
「職能要件書」とは、企業が従業員に期待する期待能力を等級別に具体的に書き出した文書です。期待能力は具体的な行動や成果に落とし込まれ、全ての職務に通用する内容である必要があります。
また期待能力は明確で客観的であり、達成可能なものでなければなりません。職能要件書を作成すれば、従業員は自分がどの等級に位置づけられているか、また何を達成すれば次の等級に昇格できるかを明確に理解できるのです。
まとめ
職能給は、従業員の「職務遂行能力」を基準に賃金を算出する賃金制度です。職務遂行能力とは、職務に対する知識や技能、経験といった明確なスキルだけでなく、リーダーシップや協調性、ストレス耐性といった数値化しづらいスキルも含まれます。
職能給を適切に運用するためには、人事に関するデータを正確に管理する必要があります。そこで役立つのが、タレントパレットです。
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