ISO30414の義務化とは?人的資本における情報開示について解説


ISO30414の義務化とは?人的資本における情報開示について解説

ISO30414とは、人的資本情報開示に関するガイドラインです。人的資本における情報開示が日本でも義務化されたため、ISO30414をきちんと理解しておかなくてはいけません。本記事では、人的資本の情報開示義務について解説します。あわせて、ISO30414についても解説するため、ぜひ参考にしてください。


企業が取り組むべきISO30414への対応とは?概要や最新動向・対策についても解説


人的資本における情報開示義務化について解説

2023年3月期決算から、上場会社に対して人的資本の情報開示が適用されました。そのため、2023年3月31日以降からは、有価証券報告書に人的資本に対する情報を記載することが、義務づけられています。


情報開示が義務化された内容としては、「育児休業の取得率」「男女間の賃金差」「女性管理職の比率」などが含まれています。人的資本の情報開示義務が適用されている企業は、これらの情報をステークホルダーに対して公開しなければいけません。


人的資本とは

人的資本とは、人が持っているスキルや能力、知識、資質などを「資本」と捉える考え方から生まれた言葉です。従来は、人材を「コスト」または「資源」として捉える考え方が主流でした。しかし、人的資本では人材を資本として考えるため、人材採用は投資にあたります。


このように、人的資本に投資して中長期的に企業の価値を向上させる経営を、人的資本経営と呼びます。人的資本経営においては、企業の成長性や収益力を確保・向上させるための効果的な投資が重要です。


内閣官房・非財務情報可視化研究からも、人的資本可視化指針が公表されるなど、人的資本や人的資本経営への注目が高まっています。


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人的資本の情報開示における義務化の対象となる会社とは

人的資本の情報開示における義務化は、すべての企業が対象となっているわけではありません。義務化の対象となるのは、有価証券報告書の提出義務がある企業に限られます。


有価証券とは、株式や債券、小切手などのことで、それ自体に財務的な価値がある証券・証書のことです。また、有価証券は物的証券・資本証券・貨幣証券の3種類に分けられます。上場企業は有価証券報告書を内閣総理大臣へ提出しなければいけません。したがって、上場企業には人的資本の情報開示義務があります。


提出する必要があるにもかかわらず、有価証券報告書を提出していない場合には、罰金もしくは科料を受けることになるため、提出義務がある場合には忘れずに提出しましょう。


義務化によって開示することになった項目とは

人的資本の情報開示が義務化されたことによって、どのような項目を開示しなければならなくなったのでしょうか。人的資本においては、新しく2項目についての記載が義務付けられています。有価証券報告書に必須の記載項目は以下のとおりです。


・人的資本:人材育成方針、社内環境整備方針

・多様性:女性管理職比率、男女間賃金格差、男性の育児休業取得率


人的資本の情報開示に関するこれまでの動きとは

人的資本の情報開示に関するこれまでの流れをまとめたため、参考にしてください。


ISO30414の策定

ISO30414とは、ISOによる国際的な基準規格のことです。詳細については後述します。


人材版伊藤レポート2.0の発表

経済産業省では、2020年9月に「人材版伊藤レポート」を公表しました。その後も人的資本や人材に関する注目度が高まっており、それを受けて2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」が公表されたという流れがあります。


このレポートは、経営戦略と人材戦略をどのように連動させるか、という観点から書かれたレポートです。2020年版では人材戦略に求められる視点や、共通要素がまとめられていました。一方で、2022年版ではさらに内容を深堀し、人的資本の重要性の認識や人的資本経営をどのように実行に移すのか、などが提示されています。


コーポレートガバナンス・コードの改訂

コーポレートガバナンス・コードは、2015年に金融庁と東京証券取引所が策定しました。ガバナンスを構築する際に守るべき原則がまとめられています。ガバナンスとは、健全な経営のために企業が行う管理体制のことです。コーポレートガバナンス・コードは2021年6月に改正されており、以下の内容が追加されました。


・管理職における多様性の確保に対する考え方と自主目標の設定

・多様性確保への人材育成や環境整備方針、実施状況の開示


非財務情報の開示に向けた政府研究会の発足

2021年以降、政府内に2つの研究会が発足しており、人的資本の情報開示に関する議論が進められています。発足した2つの研究会は以下のとおりです。


・非財務情報の開示指針研究会:2021年9月に発足。気候変動と人的資本に関する方針や指針の議論を行っている

・非財務情報可視化研究会:2022年2月から定期的に開催されている。非財務情報の開示に関する指針やルール策定に向けた議論が行われている


義務化されるISO30414とは何か

ISO30414とは、2018年にISO(国際標準化機構)から出版されたもので、人的資本情報開示におけるガイドラインです。ISOによって出版されたISO30414では、人材マネジメントの11領域について58の測定基準が示されています。


ISOでは2011年に、人材マネジメントの企画を開発するための技術委員会が発足されました。技術委員会の標準化作業を経て、2018年にISO30414というガイドラインが出版されたという流れです。


ISO30414は組織や企業における人的資本の情報開示について定めた、世界で初めての国際規格として知られています。グローバル化が加速化しているため日本企業としても、国際的な規格に沿った人的資本の情報開示が必須だといえるでしょう。


ISOとは何か

ISOとは、国際標準化機構(International Organization for Standardization)のことです。スイスのジュネーブに本部を置き、国際的な標準規格を制定する役割を持っています。ISOの目的は、国際間の取引を標準化することです。標準化によって取引がスムーズに進むことを目指しています。


ISOでは複数の文書を出版しており、ISO30414はISO内の技術委員会「TC 260」から出版されました。30400番台で複数の文書が出版されていますが、ISO30414は14番目のドキュメントです。


ISO30414の記載項目とは

ここでは、ISO30414に記載されている項目を表にまとめたため、参考にしてください。


領域 内容
コンプライアンスと倫理 苦情や懲戒処分の種類や数など
コスト 人件費や採用コスト、平均報酬額など
多様性 年齢や性別、経営陣の多様性、障がい等の多様性など
リーダーシップ チーム当たりの人数、経営陣やリーダーへの信頼など
組織文化 エンゲージメントや社員の満足度、定着率など
組織の健康・安全・福祉 勤務中の死亡者数、労災による時間損失や件数、トレーニング参加率など
生産性 利益や売上高、社員1人当たりの利益など
採用・配置・離職 人員補充までの時間、社内調達率、離職率など
スキルと能力 人材開発・育成の総コスト、1人当たりの平均教育時間など
後継者育成 社内昇進と社外からの採用の割合、後継者育成率など
社員の可用性 社員数や社外労働力規模、欠勤率など

ISO30414必要とされる背景とは

ISO30414が必要とされる理由は何なのでしょうか。ここでは、ISO30414が必要となる背景について解説します。


投資家からの開示要求が強まったため

まずは、投資家からの開示要求の強まりが挙げられます。ソフトウェア産業やサービス産業などが主流となるなか、無形資産を持つ企業は増加傾向です。投資家としては、有形資産は財務諸表で確認できるため把握しやすくなっていますが、一報の無形資産は情報の開示がされていませんでした。


人材情報などの無形資産は確認できないため、企業の成長性などの判断が難しい状況だったといえます。そのため、無形資産に関する情報も開示してほしいという要求が強まりました。


ESG投資が注目されているため

ESG投資への注目の高まりも、ISO30414が必要とされる理由の1つです。ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取った言葉です。


会社として継続的に成長するために、ESGの観点が必要だといわれています。そのため、ESGを重視する会社が増えているだけでなく、ESGを重要視する投資家も増加傾向にあるようです。労働環境の改善に向けて注力することで、会社の持続可能性を高めることができると注目を集めています。


ISO30414における取り組みの現状とは

ISO30414への取り組みは現状どうなっているのでしょうか。ここでは、海外と日本の現状について解説します。


海外の現状

アメリカのSEC(証券取引委員会)は、2019年11月に人的資本情報の開示を義務化に踏み出します。アメリカでは従来も人的資本に関する開示義務がありましたが、従業員数のみでした。しかし、人的資本情報開示の義務化によって、その他の人的資本情報の開示も求められるようになります。ただし、開示する項目や分量は明確化されていない現状です。


現在は、米国連邦議会によって「Workforce Investment DisclosureAct of 2021」という法案が審議されています。この法案では、ISO30414に準拠した情報開示が必要だとされており、成立が待たれている状況です。


欧州では、2017年度から一定の条件を満たす企業について、人的資本情報の開示が義務化されています。数年後には上場するすべての企業が対象になる予定ですが、現状ISO30414への準拠は義務ではありません。


日本の現状

日本では、2021年6月のコーポレートガバナンス・コードに人的資本を開示すべきである、と示されています。欧米諸国の動きを見ながら、罰則を設けずに進めるべきか、それとも罰則ありで進めるかを検討している段階のようです。


日本では、コーポレートガバナンス・コードが示されたことで、罰則なしのままでも、人的資本情報の整備をすべきと考える企業が多い傾向にあるため、罰則なしのまま進む可能性もあります。


2022年7月頃には、政府が人的資本の情報開示に役立つ指針を発表しました。開示した方がよい経営情報19項目については、4つの基準で分類して開示を求めるとされています。ISO30414への取り組みは今後も変動していく可能性が高いため、引き続き最新情報に目を向けて情報をキャッチアップしていくことが重要です。


ISO30414に準拠して情報開示するメリット

ISO30414に沿って情報開示を行うことは、メリットもあります。ここでは、2つのメリットを解説します。


投資の方向性を定量的に検討できる

国際的な規格であるISO30414をもとにして人的資本を数値化することで、どの部分に投資すべきかを議論しやすくなります。採用や育成、配置などは数値化する指標が曖昧で、どの部分に注力すればよいのか判断に難しい状況にありました。しかし、ISO30414の示す指標に基づいて人的資本を数値化すれば、どこに投資すれば効果が最大化できるかの議論がしやすくなります。


また、情報開示に準拠するための流れで、数値の管理や整備を行うことで活用しやすくなるでしょう。


採用力が向上する

ISO30414に準拠することで、採用力の向上も期待できます。ISO30414に基づいた人的資本の情報開示を行うことで、求職者に対して人材育成に投資しているかどうかという情報提示が可能です。


近年では、「会社で自分が成長できるかどうか」を重視する人が増えています。ISO30414に準拠して人的資本情報を開示することにより、会社として選ばれやすくなる可能性があるため、人材確保に有利に働く可能性があるでしょう。


ISO30414に準拠した情報開示を進める手順

ISO30414に準拠した情報開示を進める際には、以下の3ステップで進めましょう。


まずはデータを収集する

情報開示を進めるには、データの収集が欠かせません。人事に関するデータはもちろんのこと、会社の財務状況や従業員の健康状態、コンプライアンスに関するデータなど、人事領域以外のデータも収集しましょう。さまざまなデータを集めることになるため、他部署との連携が欠かせません。


また、エンゲージメントやリーダーシップなど、数値化が難しい定性的な項目に関しては、アセスメントツールなどを活用しながら、定量化する方法がおすすめです。


KPIを明確にする

自社におけるKPIを明確にすることも重要です。KPIとは重要業績評価指標(Key Performance Indicator)のことで、目的達成のためのプロセスにおいて、達成度合いを計測・評価するための指標を指します。また、KPIを明確化する際に、原因となる指標と結果となる指標をあわせて把握することも大切です。


たとえば、エンゲージメントの向上によって離職率が下がるという場合は、エンゲージメント向上が原因指標で離職率低下が結果指標となります。このように、それぞれの関係性を確認していくことが重要です。


アクセスしやすいデータ管理が必要

情報開示の際には掲載するための情報を用意するだけでなく、会社として収集した情報を経営に活かす必要があります。データを収集するだけでは、経営や人事などの施策などに活かすことは難しいでしょう。


そのため、BIツールなどを活用して、データにリアルタイムでアクセスできるような、管理体制を構築することが大切です。リアルタイムでアクセスできるようにすることで、データの分析や活用などがしやすくなります。


まとめ

ISO30414とは、人的資本情報の開示に関する国際的なガイドラインです。日本でも、上場企業に関しては人的資本の情報開示が義務化されました。ISO30414に準拠した人的資本の情報開示を行うことで、投資の方向性を定量的に検討しやすくなったり、採用力の強化につながったりするでしょう。


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