そもそも人的資本とは
そもそも「人的資本」とは、企業で働く人を資本として捉えたときの表現です。
従来は、企業において社員は「人的資源」すなわち消費財のひとつとして捉えられてきました。この考え方をする場合、人的資源に対してお金を使うことは消費であり、人件費はコストとして捉えられます。
しかし、人的資本は企業の財産である「資本」であるため、人的資本に対して使うお金は、投資として捉えられることがポイントです。企業が経営を行うにあたって「人は必要なものであり、消費するべき資源ではない」という考え方が浸透してきたといえます。
その他の資本との違い
企業の資本には、他に「財務資本」や「製造資本」などがあります。
財務資本にあたるものは、現金資産など財務諸表に記載される金額で、資産として目に見えやすいのが特徴です。製造資本は製品などを作るために必要な、工場などのインフラのことを指します。
これらの資本と人的資本との違いは、何といっても「人であること」そのものです。人的資本は、人件費や社員数といった数値で示すことができますが、その生産力はモチベーションやスキルに関連するため、数に比例するものではありません。
人的資本経営とは
人的資本経営とは人的資本を重視し、効率的に活かすことで、より効率的で高い成果を出せる経営を行うことです。あるいは、そのような経営方法のことを指します。
人的資本経営は「エンゲージメント経営」と言い換えられることもあります。ここでのエンゲージメントとは、社員と企業の間にある愛着、絆といったような意味です。
企業が社員を大切にすることによって、社員は企業に対して愛着心や愛社精神、思い入れといったものを持つようになることを期待しています。そして、相互に成長し合うことで効率良く、高い成果を出すことが目的です。
人的資本経営とその開示が注目される背景とは
現在、人的資本経営が注目されている背景には、以下のような環境があります。
商品市場の変化
まずは、商品市場の変化です。
これまでは、各企業で製造したモノが売れる、製造中心の経済でした。ところが近年、スキル・知識・ノウハウを重視する経済が訪れています。断捨離、ミニマリストなどがブームとなり、モノを所有するよりも、スキルや体験にお金を払う時代へと変化が起こりつつあるのです。
そこで企業としては、提供できるスキルやノウハウを持った社員、アイデアを出せる才能を持った社員など、人財をどのように活かしていくかについての重要性が高まっているといえます。
資本市場の変化
企業の資本価値を見定める、資本市場にも変化が訪れていることが、人的資本経営が注目される一因となっています。
近年、海外市場において企業が投資家から、人的資本に関連する情報の開示を求められるようになりました。この流れは日本にも及んでいます。
2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」では、日本の人事部がこれから人的資本・価値創造のための人材マネジメントに変化していくべきだという示唆がありました。
こうした議論で用いられる人的資本の関連情報とは、企業の人材戦略や人事施策、また人的資本に対する投資などです。これらの情報を正しく把握し、経営戦略に組み込んでいくことが求められているのです。
また、人的資本を開示することで、市場やユーザーからも優良企業のイメージを持たれやすいと考えられています。このため、人的資本経営の実現に力を入れる企業が増えているのです。
労働市場の変化
労働市場もまた変化してきています。
少子高齢化の影響を受け、日本の人口は右肩下がりが続くでしょう。それは企業にとって、人的資本を獲得するための競争が激化していくということを示します。
さらに働く人々のワークスタイル、ライフスタイルが多様化しているため、企業はこれらに対応する必要があります。社員の多様化するスタイルに柔軟な対応をしなければ、人材確保の競争に勝てない恐れがあるためです。
こうしたことを理由に、企業の側でも社員がライフスタイルを大切にできるよう、人的資本経営を行うように変化してきています。
ESGの重要性
企業が人的資本経営を重視するようになった要因としては、もうひとつ、ESGの重要性が挙げられます。
ESGとは、ESG:環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取ったものです。環境への配慮、社会問題への対応、正当な企業統治の3つは、企業が継続的に成長するために不可欠なものとされています。したがってESGへの取り組みも、企業の成長を判断する指標のひとつです。
そして、企業統治のなかには、人的資本に関する取り組みが含まれています。多様な働き方が認められているか(ダイバーシティ)、適切な人材育成がなされているかなどが問われるのです。
人的資本経営を行うメリット
人的資本経営はどのような利点をもたらすものでしょうか。人的資本経営を行うことのメリットを解説します。
企業イメージがよくなる
先に少し触れましたが、人的資本経営を行っていると世間が企業に対して持つイメージが向上するとされています。
米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して情報開示を義務づけるなど、人的資本経営に関する情報を開示する流れは、世界的に高まっています。人材の採用や育成に力を入れている企業は、社員のワークライフバランスも重視していると想定できるでしょう。
人的資本を重要視している情報を公開することで、投資家はもちろん、社会的に良いイメージを与えられるのも事実です。
投資家が積極的に投資してくれる可能性がある
現在の市場では、人的資本に投資する企業に注目する投資家が増えています。そこで、人的資本経営に注力していることがわかると、積極的な投資を促すことができる可能性も高まるでしょう。
投資家に株を多く買ってもらえれば、株価上昇が見込め、企業としての価値がアップするといえます。そうすることで、さらに人的資本などに投資できる資金も集まりやすくなります。投資家の投資を促す人的資本経営は、企業にとって良いサイクルの創出が期待可能です。
生産性が向上する
企業が人的資本に投資することで、社員の質がアップし、生産性が高まる可能性があります。
例えば、企業が社員のスキルアップを援助し、さらにワークライフバランスが充実するよう気配りを行うとしましょう。すると、社員のスキルが高まるとともに、会社に貢献しようという気持ちも刺激されるため、より生産性の高い仕事をしようと努力する傾向が見られます。結果的に、持続的に企業を成長させることが可能です。
このためにはまず社内の人材情報を整理し、経営陣や人事部門、現場のマネージャーまでが正しく社内の人的資本の状況を捉えられるようになることが必要です。
人的資本経営を成功させるポイント
人的資本経営を成功させるには、いくつかのポイントがあります。人的資本経営を成功させるポイントについて解説します。
経営戦略と人材戦略を結びつける
日本企業の多くは経営戦略と人材戦略が結びついていないといわれています。しかし本来、事業と組織は表裏一体であって、経営戦略は人材戦略と深い関わり合いのあるものと認識しなければなりません。
たとえば経営計画の見直しに取り組む際は、人材戦略もあわせて確認することが大切です。一橋大学大学院経営管理研究科 一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤邦雄氏によれば、人材戦略には「3つの視点と5つの共通要素」が必要です。その3つの視点の筆頭が「経営戦略と連動しているか」を確認しましょう。
次いで、経営戦略と現状の人材戦略とのギャップを、具体的に把握できているかが重要になります。また、人材戦略によるプロセスが企業文化として定着しているかどうかもチェックしましょう。
エンプロイーエンゲージメントを導入する
エンプロイーエンゲージメントとは、社員エンゲージメントとも呼ばれ、社員が企業に対して信頼感や帰属意識、愛着を抱くことを示しています。
エンプロイーエンゲージメントのメリットは、社員による企業への貢献意欲の向上、離職率の低下などです。企業に対して愛着を持って真摯に仕事をするため、事業成果が好転するというメリットもあります。
エンプロイーエンゲージメントを高めるためには、たとえば研修・教育体系を整備する、リモートワークを導入するといった方法が挙げられます。社員にメリットをもたらすことで、社員が企業に貢献する流れを作り出せるでしょう。
人的資本の世界的な動きを紹介
ここで人的資本の世界的な動きをチェックしておきましょう。
SDGs
近年、環境問題でもよく取り上げられるようになったSDGsとは、「Sustainable Development Goals(SDGs:持続可能な開発目標)」のことです。SDGsには17の大きな目標がありますが、このなかに働き方改革や、ESGの取り組み強化などが含まれます。
17の目標のうち、どれかひとつに人的資本経営が含まれるわけではありませんが、非常に関連性が高いのは、8番目の目標である「働きがいも経済成長も」であるといえます。経済成長は持続可能なものでなくてはなりません。持続的に経済成長を実現させるためには、成長を担う「人」が健康で、かつ適切な所得を得なければならないでしょう。
SDGsではさらに環境問題への配慮や、社会問題に対する姿勢など、ESGへの取り組みが求められ、世界的に人的資本経営の重要性が高まっていることを示しています。
ISO30414
ISOとは国際標準化機構のことで、ISO30414はISOによって定められた「人的資本の情報開示に関する規格」です。
ISO30414はISOによって2018年12月に発表されました。内容はコンプライアンスと倫理、コスト、ダイバーシティなどの11項目にわたります。
これらの項目は事業タイプや性質を問わず全ての組織に適用が可能で、国際スタンダードとして設定されています。設定の目的としては、労働力の持続可能性を投資家などのステークホルダーに対して示すことが挙げられるでしょう。
したがってISO30414に基づいた情報開示は、人的資本に対する組織の透明性を確保するものであり、また同時に、企業が国際規格に対応できる信頼性を示すものともいえます。
まとめ
人的資本経営は、社員を企業にとっての大切な資本と捉え、社員とともに企業が成長を果たそうとする考え方です。人的資本経営を行うには、企業の経営戦略と人材戦略とを上手に結びつけ、また社員からのエンゲージメントを確保することが大切です。
人的資本経営を成功に導くためには、自社の人材をしっかりと把握、分析する必要もあります。人事データを最大限に活用できるツールを活用するのもおすすめです。たとえば、タレントマネジメントシステム「タレントパレット」なら、人材を一元管理し研修や採用を支援することで、人的資本経営を実現に導きます。
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