近年、人材育成においてグリットが注目されています。グリットは複数の要素によって構成される能力です。各要素のバランスを適切に保つと、より効果的な人材育成が可能になります。この記事では、グリットの高い人の特徴や構成要素などを解説するので、ぜひ参考にしてください。
社会で成功するために不可欠なグリットとは?
グリット(GRIT)は、「やり遂げる力」や「果敢に取り組む意思」と表現される概念です。グリットの高い人は、困難な状況でも諦めず、課題解決に向けて粘り強く取り組みます。グリットを定義したのは、心理学者のアンジェラ・ダックワース氏です。ダックワース氏は、「成功を収めた人々は共通して、後天的にグリットを身につけていた」と主張しました。
グリットの高い人の4つの特徴
グリット(GRIT)は、度胸(Guts)・復元力(Resilience)・自発性(Initiative)・執念(Tenacity)の4つの要素から頭文字を取ったものです。
以下では、グリットの高い人の4つの特徴について解説します。グリットの構成要素を理解して集中的に鍛えると、困難を乗り越え、目標達成に向け長期的に努力できる社員を育成できるでしょう。
1.度胸(Guts)がある
度胸(Guts)は、困難や未知の領域に立ち向かう勇気と精神的な強さを指します。ビジネスにおいては、時に大胆な決断が必要です。しかし、決断するためには、ある程度のリスクを許容しなくてはいけません。度胸のある人は自己の能力を信じているため、不確実な状況でも失敗を恐れずに挑戦できます。
2.復元力(Resilience)がある
復元力(Resilience)は、逆境や失敗から立ち直る能力を意味する言葉です。困難な状況に直面しても、復元力のある人は挫けません。しかも、復元力があれば、ストレスや失敗を学びの機会としてポジティブに受け止められます。ストレス耐性の高さと、変化に適応して成長する能力を生かすと、最終的に目標を達成できるでしょう。
3.自発性(Initiative)がある
自発性(Initiative)は、外部からの指示や動機づけがなくても、自ら目標を設定し、努力し続ける力を指します。自発性の高い人は、問題を見つけると積極的に解決策を探り、計画を立てて実行に移すことが可能です。近年、顧客や市場のニーズは複雑化しており、状況に対応できない企業は時代から取り残されてしまうかもしれません。各企業にとって、自発性の高い社員の育成は急務といえるでしょう。
4.執念(Tenacity)がある
執念(Tenacity)は、困難や障害に直面しても、目標に向かって粘り強く取り組み続ける力です。執念のある人は、自分の力だけでは困難な状況でも、他者の協力を得たり、さまざまな方法を模索したりしながら、目標達成に向けて粘り強く行動します。
よいグリットを構成する8つの要素
よいグリットを構成する8つの要素は以下のとおりです。
・情熱
・幸福感
・目標設定
・自制心
・リスク・テイキング
・謙虚さ
・粘り強さ
・忍耐
上記要素は互いに関連し合っています。バランスよく要素を磨き、よいグリットを形成しましょう。よいグリットを持つ人は、広い視野と他者への配慮を兼ね備えており、状況に合わせて行動できます。
各要素のバランスが崩れたときのリスク
強調しておきたいのは、各要素のバランスを保ってこそ、真のグリットが形成されるということです。忍耐力が優れている、情熱だけは人一倍あるなど、単独の要素だけが突出していても成功できるとは限りません。過度の執着や誤った方向への努力を避けるためにも、人材育成に関わる人は社員の成長を注意深く観察し、適切にサポートしましょう。
グリットが注目される理由
グリットが注目される理由は、科学的根拠に基づいているためです。ダックワース氏は教師をしていた際に、学業で成功する生徒に共通する特徴が、生まれ持った知能や恵まれた環境ではないと気づきました。
ダックワーク氏はその後、軍事教育学校の入隊者や、一般企業で働く社員などを対象に研究を続けています。その結果、成功の主要な要因は、長期的な目標に対する情熱と粘り強さであるという結論にたどり着きました。
人材育成に必要なスキル分析とは?最適な育成方法でパフォーマンスを最大に
ダックワース氏考案のグリット測定方法
ダックワース博士は、グリットの測定方法として「グリットスケール」を開発しました。グリットスケールは、「情熱」と「粘り強さ」を測定する10個の質問で構成され、具体的には「私は努力家である」「1度はじめたことは最後までやり遂げる」などの質問が含まれています。質問に対して5段階の数値で回答し、回答の合計点を10で割ったものがグリット・スコアです。
グリット・スコアが高いほど、グリットが高い傾向です。なお、同じ回答者でも、測定時点の状況しだいでスコアが変動する可能性があります。
組織としてグリットの高い人材を育てる方法
組織としてグリットの高い人材を育てる方法を解説します。挑戦の機会を提供しながら、失敗を学びの機会として捉える文化を醸成し、人材育成の効果を高めましょう。
小規模な成功体験を連鎖させる
グリットを育成するために、社員に小規模な成功体験を積み重ねる機会を提供しましょう。たとえ些細な成功でも、それぞれの経験が社員の自己肯定感を高める重要な要素となります。
自己肯定感が向上すると、個人は自己研鑽への意欲を高め、より熱心にスキル向上に取り組むようになるでしょう。粘り強く学習したり練習したりする過程で、グリットが育まれていきます。また、成功体験に裏打ちされた自信があれば、「自分ならできる」という信念で困難に向き合うことが可能です。
挑戦の機会を与える
グリットを高めるために、社員に適切な挑戦の機会を与えましょう。1人1人の状況を把握し、現在の能力よりもやや難しい課題や、これまでとは畑違いの業務に取り組ませると、グリットの育成に効果的です。
たとえ結果が思わしくなくても、挑戦の過程で得られた経験や学びが、グリットの向上につながります。最初は挑戦自体をネガティブに捉えていた社員でも、機会を重ねるごとに前向きな気持ちを持つでしょう。困難を前向きに捉える習慣がつくと、グリットはより一層強化されます。
グリットの高い人を見習わせる
グリットの高い人を社員のロールモデルとして活用すると、組織全体のグリット向上に効果的です。グリットの高い人の業務への取り組み方、目標設定の手法、判断基準や価値観を観察して模倣するうちに、社員は自身のグリットを自然に高められます。
最初は単純な模倣で構いません。模倣を繰り返すうちに、徐々にグリットの高い人の行動パターンや価値観などを理解できるためです。加えて、グリットの高い人から、直接的なフィードバックをしてもらうとよいでしょう。経験に基づいたアドバイスや、困難を乗り越えるための具体的な戦略は、グリットの育成を大いに後押しします。
長期的な目標を掲げる
グリットは一朝一夕に身につくものではないため、長期的な視点での人材育成が求められます。組織は社員に長期的な目標を示し、業務やキャリア形成に意義を見出せるようサポートすべきです。短期的な目標も重要ですが、目の前の課題に没頭するうちに、視野が狭まり目指す方向を見失う恐れがあります。
長期的なビジョンがなければ、社員はいずれ疲弊してしまうでしょう。人材育成担当者は、社員が日常的に長期的な目標を意識できるような環境を整えてください。
区切りを設けて挑戦させる
挑戦の機会を設ける際は、適切な区切りと評価のタイミングも設定しましょう。単に「できるまで粘る」という姿勢では、誤った方向に努力を続ける危険性があります。そもそも、適切に「諦める」ことは重要なスキルです。状況を適切に判断し、必要に応じて方向転換や撤退を決断する能力は、長期的な成功には不可欠といえます。
挑戦を中止する決断をした社員には、その経験から学ぶ機会を提供しましょう。得られた教訓を生かすと、次の機会に成功できる可能性が高まります。区切りを機に計画を立て直して再挑戦する経験を通じて、社員にやり抜く力を身につけさせましょう。
業務以外の活動を推奨する
業務以外の活動も、グリットの向上に役立つ可能性があります。社員本人が興味ある課外活動なら、熱意を持って続けやすいためです。課外活動には、サークル活動、スポーツ、語学学習、ボランティア活動などが含まれます。
社員が課外活動に取り組む時間を確保するためには、業務の効率化が不可欠です。企業としては、以下のような取り組みを検討しましょう。
・業務プロセスの見直しと最適化
・不必要な会議や報告の削減
・適切な業務分担と負荷バランスの調整
・デジタルツールやAIを活用した業務の自動化
グリットの高さを称賛する
グリットが高い人を評価し尊重する文化を、社内に醸成しましょう。人の考え方や行動は環境に大きく影響されるためです。
よいグリットを構成する8つの要素の1つに「謙虚さ」があるように、グリットが高い人は、往々にして自らの行動を積極的にアピールしない傾向があります。組織は、グリットの高い人を適切に認識し、称賛する仕組みを整えましょう。
グリットを称賛するポイントは、目標達成に至るまでの過程や努力にも着目し、称賛に値する具体的な行動や姿勢を明確に伝えることです。可視化されたよいグリットは他の社員のロールモデルとなり、組織全体のグリット向上につながります。
人材育成に必要なスキル分析とは?最適な育成方法でパフォーマンスを最大に
グリットを引き出す5つのアプローチ
グリットを引き出すには、組織的かつ戦略的なアプローチが必要です。以下に紹介する5つの方法を適切に組み合わせて、組織全体のグリット向上を図りましょう。
定期的にSMARTな目標を立てさせる
社員に定期的にSMARTな目標を設定させましょう。SMARTは、定量化可能で具体的な目標を立てるためのフレームワークで、以下の要素により構成されています。
・S:Specific(具体的)
・M:Measurable(測定可能)
・A:Achievable(達成可能)
・R:Relevant(関連性がある)
・T:Time-bound(期限付き)
SMARTの注意点は、以下のとおりです。
・定期的に目標を見直し、必要に応じて調整する
・現実的な範囲で、難易度を適切に設定する
・目標決定に時間をかけすぎない
・無理に、SMARTの5つの要素を満たさなくもよい
SMARTの法則を活用した目標の立て方とは?活用する際のポイントについても解説
目標を細分化させる
グリットを引き出す効果的な方法の1つが、目標の適切な細分化です。目の前の目標に集中できると、社員はモチベーションを維持しやすくなります。また、大きな目標は、実現困難に思えるかもしれません。目標を細分化すると、実現までの行動をイメージしやすくなるため取り組むハードルを下げられます。小さな成功体験を重ねるうちに、自分に自信を持てるようになるでしょう。
ただし、目標の細分化には適度なバランスが必要です。過度に細分化しすぎると、全体の方向性が見えにくくなり、かえってモチベーションを損ねる恐れがあります。
目標管理制度(MBO)とは|運用方法や手順、導入のメリット・デメリットも解説
努力する理由を与える
資格取得手当や表彰制度、昇進などの具体的な見返りは、困難な目標に立ち向かうための強力なモチベーションとなります。努力するメリットが明確かつ具体的であれば、社員は失敗のリスクを過度に恐れず、目標に向かって進み続けられるでしょう。加えて、こうした制度を整備すると、社員の帰属意識や組織への貢献意欲を高める効果も期待できます。
ただし、報酬や昇進といった外からの動機づけに頼りすぎないよう注意が必要です。仕事自体のやりがいや成長の実感など、社員の内側から湧き出る意欲も育みましょう。
社員のコミットメント力を強化する
社員のコミットメント力の強化も、グリットを引き出す重要な要素です。コミットメントとは、目標や組織に対する強い責任感を意味します。コミットメント力が高い社員は、目標達成に向けて粘り強く努力を続けることが可能です。困難や障害に遭遇しても、簡単には諦めず、創造的な解決策を見出そうとします。
社員のコミットメント力を高めるには、以下のアプローチも有効です。
・適度な難易度の目標を設定し、社員の意欲を高める
・組織の理念やビジョンを明確に共有し、個人の目標と組織の方向性を一致させる
・働きやすい環境を整備し、社員が仕事に集中し、最大限の力を発揮できるようサポートする
細かな戦略を立てさせる
グリットを引き出すために、社員に細かな戦略を立てさせましょう。具体的かつ詳細な戦略を立てるほど、目標達成への道筋が明確になり、実現可能性が高まります。戦略立案のポイントは、数値目標を取り入れ具体性を持たせることです。例えば、「売上を増やす」という漠然とした目標ではなく、「6か月以内に売上を20%増加させる」といった具体的な目標を設定させましょう。
さらに、以下の要素も戦略立案の際に重視してください。
・役割分担を明確にする
・タスクの重要度と緊急度を考慮し、順序付けを行う
・必要な時間、資金、人材などの獲得方法を具体化する
まとめ
社会で成功を収める人々は、高いグリットを持つ傾向が見られます。グリットとは、長期的な目標達成に向けて努力を持続し、困難な状況でも諦めずに粘り強く取り組む能力です。グリットを高める取り組みは、個人の成長だけではなく、組織全体の競争力向上につながるでしょう。
タレントパレットは、多くの導入実績を持つタレントマネジメントシステムです。HRテック分野で蓄積された豊富な経験と最新の知見を基に開発され、導入時だけではなく、運営段階でもコンサルティングの知見を生かしたサポートを受けられます。グリットの高い人材を育てたいとお考えの人は、ぜひタレントパレットの導入をご検討ください。