評価者研修を行う目的と必要なケース|評価者の対象やポイントも解説


評価者研修を行う目的と必要なケース|評価者の対象やポイントも解説

人事評価において、評価者は正しく公平に評価する能力が求められます。適正な評価がなされなければ、社員に不満を抱かせ、モチベーションを低下させるためです。本記事では、評価者研修について解説します。評価者研修の目的、対象者、導入のポイントなどを詳しく紹介するので参考にしてください。


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評価者研修と人事評価の目的

評価者研修は、評価者が正確かつ公平に評価する能力を身につけるための研修です。各企業は独自の人事評価制度を通じて、社員の評価基準を定義しています。評価者の評価能力を向上させ、評価の一貫性と公平性を高める評価者研修は、効果的な人事評価制度を維持するために不可欠です。


評価者研修の導入率は?

産労総合研究所がまとめた資料によると、評価者訓練を実施している企業の割合は、調査対象の7割を超えました。また、被評価者に対する訓練を実施している企業は2割程度でした。被評価者に対する訓練の主な目的は、評価の仕組みや評価につながる行動を取り上げ、評価システムへの理解を求めることです。


※参考:2016年 評価制度の運用に関する調査|評価制度の運用に関する調査|人事労務その他|産労総合研究所


評価者研修の主な目的

以下で解説する内容は、評価者研修の主な目的です。評価制度への理解を深めさせ、評価能力やフィードバック能力を身につけさせましょう。


正しい評価能力を身につけるため

評価者研修の主な目的は、評価者に正しい評価能力を身につけさせることです。評価では、先入観や偏見を介入させず、公平に被評価者を評価しなければいけません。先入観や偏見は、評価エラーによって引き起こされがちです。以下では、主な評価エラーを解説します。


ハロー効果

ハロー効果は、被評価者の印象的な特性が、他の特性の評価に影響を与える現象です。一流企業からの転職者であれば能力が高いかもしれない、大きなミスを起こした人は今回も何か問題があるのではないかなど、よくも悪くも印象的な特性は個別の評価を歪める傾向があります。


中心化傾向

中心化傾向は、極端な評価が少なく中間的な評価が多くなる現象です。中心化傾向は、評価者の評価能力が不足しているときに発生する傾向が見られます。中心化傾向の弊害は、成果の高い社員と改善の余地がある社員の区別があいまいになることです。


寛大化傾向

寛大化傾向は、評価者が被評価者に対して必要以上に高い評価をつける現象です。人間関係を維持したい気持ちや、業務に対する理解不足が寛大化傾向を引き起こします。


逆算化傾向

逆算化傾向は、評価者が最終的な評価結果を先に決めてしまい、そこから逆算して各項目の評価を決める現象です。被評価者を昇格させたい、あるいは賞与に影響が出ないようにしたいといった強い意図がある場合、最終的な評価に向けて帳尻を合わせてしまうリスクがあります。


期末誤差

期末誤差は、人事評価を実施する直前に起きた出来事が、評価に多大な影響を与える現象です。評価期間が長いほど期末誤差は発生しやすくなり、期間全体の公平な評価が難しくなります。


対比誤差

対比誤差は、評価者自身や他の被評価者との比較によって評価が歪む現象です。たとえば、評価者自身の得意分野に関して評価する場合は、被評価者に厳しい評価がつけられやすい傾向があります。一方、評価者自身が苦手とする分野では、評価が甘くなりがちです。


論理誤差

論理誤差は、一般的な論理や憶測で評価を下すことです。たとえば、学歴と能力は比例する、リーダーはコミュニケーションが高いはず、などの思い込みは評価結果を歪める恐れがあります。論理誤差が発生すると、被評価者の多様な側面を適切に評価できません。


評価制度の理解を深めるため

評価制度に対する理解を深めることも、評価者研修の重要な目的です。人事評価制度の内容は企業によってさまざまであるため、自社の評価制度の背景や重視している点を評価者に十分理解させましょう。さらに、人事評価の結果が社員のモチベーションを左右し、ひいては組織の成果にも直結することも評価者に認識させる必要があります。


フィードバックのスキルを身につけるため

フィードバックのスキルも、評価者研修を通じて身につけさせてください。効果的なフィードバックは社員の行動改善を促し、組織内での成長を加速させます。


被評価者の成長を促すためには、フィードバックの質が重要です。単に評価結果を伝えるだけではなく、企業の方針との整合性や部署の目標に対する達成度を踏まえた、具体的で建設的なフィードバックが求められます。


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評価者研修で得られるメリット

評価者研修で得られるメリットを解説します。評価者の評価能力を一定レベルに引き上げ、人材育成効果や個人・組織の成果を高めましょう。


評価スキルを標準化できる

評価者は経験やスキルによってレベルが異なります。評価者研修を通じて評価能力の標準化を図りましょう。研修によって評価者全体のレベルを向上させると、評価に必要な知識とスキルを標準化できます。また、評価スキルの標準化により評価結果のばらつきを抑えられると、社員の納得度が高まるでしょう。


人材の育成に役立つ

評価者研修を通じて評価項目への理解を深めさせると、より効果的な人材育成が可能です。業務に必要な能力・知識・資格を明確に理解させると、評価者は被評価者のスキルや能力を適切に把握でき、各社員に適した業務の判断も容易になります。


さらに、適切なフィードバックにより、被評価者は自身の改善点や伸ばすべき点をより明確に理解できるでしょう。


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成果の向上につながる

評価者が適切にフィードバックできるようになると、被評価者は自身が公正に評価されていると感じ、モチベーションやエンゲージメントが向上します。社員の意識が向上すると、組織全体の生産性が向上し、やがて企業の競争力強化へとつながるでしょう。


評価者研修が必要なケース

評価者研修が必要なケースについて解説します。評価が正しく行われていないとき、社員から不満が出たときなどは研修が必要です。


人事評価が正しく行われていない

人事評価が適切に行われていない状況では、評価者研修が不可欠です。評価者の制度に対する理解度を確認し、必要に応じて理解を深めさせることも研修の重要な目的といえます。また、目標達成率と評価には密接な関連性がある点を意識しましょう。社員の目標達成率が低迷している場合、評価者による不適切な目標設定が原因である可能性が考えられます。


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評価に不満の声がある

評価に対する不満の声が寄せられている場合も、評価者研修が必要です。社員の評価に対する不満は、パフォーマンスの低下を招き、離職にまで発展する可能性もあるため迅速に対応しましょう。


まず、不満の元凶が評価制度自体か、それとも評価者の運用であるかを見極める必要があります。たとえば、社員を対象とした評価に関するアンケート調査を実施すると、具体的な不満や改善点の把握が可能です。


人事評価が育成に活用できていない

人事評価が育成に効果的に活用されていない状況でも、評価者研修が改善の糸口となる場合があります。人事評価は単なる社員の評価にとどまりません。人事評価の真価は、人材育成に活用されてこそ発揮されます。人事評価で社員の初期のスペックを明確にできると、育成の余地はあるか、育成によって社員の能力がどの程度向上したかを判断できるためです。


評価者研修の対象者に向いている人

評価者研修の対象者に向いている人について、身につけさせたい内容に触れつつ解説します。


管理職・マネージャー

管理職・マネージャー向けの評価者研修を開催する際は、参加者の経験度合いを考慮して研修内容を設計しましょう。経験が浅い評価者が対象の場合は、評価の基本や制度の概要などの基礎的な内容が適しています。一方、経験豊富な評価者に対しては、応用的な内容を提供しましょう。


人材業界・人事担当者

人材業界で働く人や人事担当者も、評価者研修の対象者となり得ます。評価者研修を受けると、人事評価制度の基本原則や効果的な運用ポイントを習得でき、急速に変化する人事評価の最新トレンドについても学べるでしょう。


経営層

企業の業績向上に向け、経営層も評価者研修に参加するとよいでしょう。人事評価に対して理解を深めた経営層は、評価基準の見直しや変更を計画できます。また、他社における人事評価制度の活用事例も学べると、自社の競争力強化につながる洞察を得られるでしょう。


被評価者

被評価者と評価者とのギャップを減少させるためにも、評価者研修は有効です。評価者研修を受けた被評価者は、どのような行動が評価に結びつくかを学べます。


評価者研修で得られること

評価者研修で得られる内容を解説します。研修を計画する際の参考にしてください。


評価制度への理解

評価者研修を受けると、人事評価制度の意義や重要性、役割、影響についての理解が深まります。自社の人事評価制度を他社のものと比較すると、自社が制度を採用するに至った背景をより明確に把握できるでしょう。さらに、適切な評価方法や効果的な運用方法を習得できると、制度自体の改善や刷新にもつながる可能性があります。


評価者に求められるスキル

目標設定スキルや育成スキル、フィードバックに必要なスキルなども、評価者研修を通じて習得できます。研修を終えると、自身のスキルが評価者として適切に活用できるレベルかどうかを、客観的に判断できるようになるでしょう。


また、自身が行う評価が被評価者に及ぼす影響を理解すると、被評価者の立場や感情に配慮した、より建設的な評価とフィードバックが可能になります。


目標設定の方法

評価者研修を受けた評価者は、被評価者が成果を出せるように、具体的で数値化可能な目標を設定できるようになります。目標設定のポイントは、被評価者の納得を得ることです。被評価者の自主性を尊重しながら適度なレベルの目標を設定できると、被評価者のモチベーションと成長意欲を高められます。


目的達成を支援する能力

目的達成のための思考法やアプローチの方法も、評価者研修を経て理解できるようになります。被評価者が目的を達成するための具体策の検討方法や、成長を促すための適切なアドバイスの仕方を習得させましょう。


評価者が課題に対する答えそのものを伝えてしまうようでは、被評価者の成長につながりません。被評価者自身が解決策を見出せるような質問やヒントを提供し、目的達成を支援する状態が理想的です。


評価力

評価者研修では、実践方式で評価力を身につけられます。実践してみると、人事評価で起きやすいエラーや、自身の評価の癖を確認できるでしょう。また、評価者間での認識のすり合わせも可能です。評価者間で評価基準や評価プロセスに関する共通の認識を持てると、組織として評価力が向上し、評価者に左右されない一貫した評価ができるようになります。


面談・フィードバックスキル

評価者研修を通じて、相手の気持ちを聞き出し、次回に向けての期待や注意点を簡潔に伝える能力も身につきます。適切な対応を実践できると、被評価者と円滑にコミュニケーションを取れるでしょう。コミュニケーションを通じて評価者と被評価者の間に信頼関係が構築されると、被評価者にアドバイスやフィードバックを前向きに受け入れてもらえます。

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評価者研修のポイントと注意点

ここでは、評価者研修のポイントと注意点を解説します。自社での開催が難しければ、外部研修も検討しましょう。


目的を明確にする

評価システムや評価者の現状に関する課題を洗い出しておくと、明確な目的を設定しやすくなります。設定した目的に応じて、実施すべきプログラムを決めましょう。


講義だけではなく実践的に行う

評価者研修では、講義だけではなく、模擬評価やロールプレイングなどの実践も必要です。実践を通して研修内容の理解が促進され、ハロー効果や中心化傾向のように起きやすいエラーを体験し、影響を実感できます。同時に、実践を通じて自身の評価の癖を把握することも可能です。


実践を通じて評価プロセスの複雑さと重要性を体験すると、評価者の研修への参加意欲が高まります。その結果、より評価の質が向上するでしょう。


評価者に合わせたプログラムを組む

評価者個人の経験と評価スキルを分析したうえで、評価者研修のプログラムを検討しましょう。研修プログラムがマッチしなければ、個人の主観や評価の癖(バイアス)に気づけるとは限りません。たとえば、評価者の経験やスキルが十分でない場合は、評価スキルを向上させる基礎的な研修や教育プログラムが効果的です。


ある程度の経験やスキルを持つ評価者に対しては、より高度なプログラムを提供しましょう。主な評価エラーの分析や、自己診断を通じたバイアスへの気づき、ロールプレイングを通じた高度な改善トレーニングなどを、プログラムに盛り込んでください。


フィードバックや振り返りを行う

評価者研修の継続的な改善を図るために、研修後のフィードバックと振り返りのプロセスを実施しましょう。研修の実施自体が目的へとすり替わらないためにも、振り返りのステップは重要です。


評価者には定期的に啓蒙する

評価者に対して、役割の重要性を定期的に啓蒙しましょう。評価者には、常に公平かつ一貫した態度で評価を行う責任があるためです。特に普段の業務でも社員との関わりを意識しておく必要がある管理職には、評価基準や指針を定期的に共有してください。


継続した啓蒙活動は、評価プロセスの質を保ち、組織全体における評価制度の信頼性と公平性を強化させます。


外部研修を取り入れる

自社で効果的な評価者研修プログラムを設計・実施することが困難な場合、外部研修の活用がおすすめです。外部の企業や団体は、評価者研修に特化したプログラムを用意しています。外部研修の主なメリットは、以下のとおりです。


・専門家による講義や実習を受講できる

・社内に蓄積されていないノウハウを学べる

・客観的な視点を獲得できる

・担当者が研修を計画・実施する負担を抑えられる


人事評価制度研修を提供している企業・団体

なかには、人事評価制度研修を提供している企業や団体もあります。ここでは各企業・団体について、概要や研修の特徴を解説します。


一般企業

評価者研修をはじめとして、多くの一般企業が人事評価制度研修を提供しています。オンライン研修を実施している企業であれば、受講者のスケジュール調整の負担を減らせるでしょう。また、人事評価や人材育成に役立つクラウドサービスを提供する企業も見られます。


社労士事務所

社労士事務所は人事労務管理の専門家です。人事制度構築のコンサルティングを請け負う事務所も多いため、人事評価制度研修では評価の基本から学べるでしょう。また、研修の実施に加え、評価制度の策定から運用までサポートする事務所も見られます。


コンサルティング会社

人事制度コンサルの一環として、人事評価制度研修を提供するコンサルティング会社も数多くあります。行動経済学の考え方を応用した独自の課題設定や、実際の企業での成功事例や失敗例をもとにしたケーススタディにより、コンサルティング会社ならではの研修を受けられるでしょう。


一般社団法人

一般社団法人は、企業向け、公務員向けの人事評価制度研修を実施しています。企業向けの研修では、人事評価の見直しのポイントや、被評価者とのコミュニケーションの取り方などを学べます。


学校法人

学校法人も人事評価制度研修を実施しています。たとえば、産業能率大学総合研究所では、実際の現場に即した映像教材を使った、特色ある人事評価制度研修を生み出しました。


まとめ

評価者研修を実施すると、評価者は評価制度に対する理解を深めつつ、評価能力を高められます。人事評価制度の正しさが疑われたり、評価に不満の声が上がったりする状況であれば、評価者研修を行うべきです。自社で効果的な評価者研修の設計・実施が困難であれば、外部研修も視野に入れましょう。


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