エンパワーメントとは?ビジネスでの使い方やメリット、導入ステップを解説


エンパワーメントとは?ビジネスでの使い方やメリット、導入ステップを解説

エンパワーメントとは、社員に業務における権限を与えることです。実際にエンパワーメントの導入を検討している担当者もいるでしょう。しかし、計画的かつ適切にエンパワーメントを実施しないと、チームの効率や生産性が低下するかもしれません。本記事では、エンパワーメントの意味やメリット、導入手順などを解説します。ぜひ参考にしてください。

エンパワーメントとは?

本来、エンパワーメント(empowerment)は、「力を与える」「自信を与える」などの意味を持つ言葉です。


ビジネスシーンでは、権限委譲や能力開花を促す取り組みを意味します。これは、権限委譲が社員に「力や自信を与える」効果的な方法であるためです。さらに、権限委譲により力と自信を得た社員は、「能力開花」の機会を得られます。


エンパワーメントの使い方の例

エンパワーメントを使用した例文を、以下に示します。


・適切な権限委譲を通じて、エンパワーメント経営を推進する

・社員に対して積極的にエンパワーメントすると、個々の能力開花を促進できる

・エンパワーメントにより個々が成長すると、やがて組織全体が発展する


エンパワーメント・リーダーシップとは?

ビジネスシーンでは、「エンパワーメント・リーダーシップ」という言葉も使われます。エンパワーメント・リーダーシップのポイントは、社員の主体的な行動を促す環境を構築することです。


エンパワーメント・リーダーシップにおけるリーダーは、単なる指示役ではありません。リーダーが社員を適切にエンパワーメントすると、社員1人ひとりがリーダーシップを発揮するようになります。主体的に行動する社員が増えると、組織としてのパフォーマンスが向上するでしょう。


エンパワーメントの歴史

エンパワーメントの概念は、20世紀の公民権運動や権利獲得運動などの社会運動を契機に誕生しました。エンパワーメントの根幹には、「地域社会で抑圧されている人々の重要性を認識し、その力を引き出すべきである」という考え方があります。


社会運動のなかで発展したエンパワーメントの考え方は、近年では介護や福祉の分野だけではなく、ビジネスの世界にまで広く普及しました。急速に変化する環境下で企業が持続的に成長するためには、エンパワーメントの戦略的な導入と実践が不可欠です。


エンパワーメントの2つのアプローチ

エンパワーメントの効果的な導入方法として、構造的アプローチと心理的アプローチについて解説します。


構造的アプローチ

構造的アプローチは、組織構造や権限配分を変更して社員の力を引き出す方法です。たとえば、マネジメント層が担っていた決定権を現場レベルに委譲する行為は、構造的アプローチに該当します。


社員が与えられた権限を効果的に行使するためには、プロジェクトの背景や自社のビジョン、戦略などを十分に理解していることがポイントです。


心理的アプローチ

心理的アプローチは、自己肯定感や自己決定感などといった社員の内面にアプローチする方法です。心理的アプローチでは、権限委譲をした後の、成功体験を通じた自信の構築とモチベーションの向上に重点を置いています。


上司は、適切な課題設定と権限委譲を行い、部下が挑戦し成功する機会を創出しましょう。同時に、適切なサポートとフィードバックを提供して、部下の成長を促進してください。エンパワーメントの適切な導入のためには、構造的アプローチと心理的アプローチの双方が必要です。


エンパワーメントが使われている業界

看護・社会福祉・教育の領域における、エンパワーメントの使われ方を解説します。


看護

看護の領域では「患者や利用者の自立を促進し、その力を引き出すための支援を行う」という意味でエンパワーメントが使われます。


看護スタッフの役割は、患者や利用者が自身の健康課題に主体的に取り組み、可能な限り自立した日常生活を送れるようサポートすることです。サポートにより自己効力感が高まった患者や利用者は、リハビリや治療に対してより積極的かつ前向きに取り組めます。


社会福祉

社会福祉の領域では「サービスを受ける高齢者や障害を持つ人などに対して、自分自身で決断させる」という意味でエンパワーメントが使われます。


社会福祉におけるエンパワーメントの考え方は、過度な保護が利用者の自立を阻害する可能性があるとの認識に基づくものです。仕事や生活において利用者の自立を促すために、社会福祉サービスを提供する側は、サービスの内容や提供方法を慎重に検討する必要があります。


教育

教育現場では「子どもが自発的に行動して自身の力を伸ばせるようにアプローチする」という意味でエンパワーメントが使われます。


教育現場でエンパワーメントを効果的に実践するポイントは、教師がすべての情報を一方的に与えるのではなく、子ども自身に考えさせ、試行錯誤を通じて学ぶ機会を提供することです。


エンパワーメントの8つの原則

エンパワーメントを取り入れる際には、以下の8の原則を意識することが大切です。


(1) 目標を当事者が選択する。

(2) 主導権と決定権を当事者が持つ。

(3) 問題点と解決策を当事者が考える。

(4) 新たな学びと、より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する。

(5) 行動変容のために内的な強化因子を当事者と専門職の両者で発見し、それを増強する。

(6) 問題解決の過程に当事者の参加を促し、個人の責任を高める。

(7) 問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。

(8) 当事者のウェルビーイングに対する意欲を高める。


業界によってエンパワーメントの目的は異なる場合がありますが、上記原則は業界を問わず普遍的に適用できます。


※引用:エンパワメント科学:新たな実践知の展開に向けて | 国際発達ケア:エンパワメント科学研究室


エンパワーメントが重要視されている理由

エンパワーメントが重要視されている理由を、近年のビジネスを取り巻く環境に触れつつ解説します。


ビジネスにおいて柔軟な対応が求められるため

エンパワーメントが重要視される理由の1つが、VUCA(ブーカ)と呼ばれる時代の到来です。VUCAとは、ビジネスや社会において未来予測が困難な状況を表します。


近年のビジネス環境は、まさにVUCAであるといえるでしょう。急速なITの進化、突発的に発生する自然災害など変化の激しい時代において、企業が柔軟かつ迅速な意思決定を行うためには、現場社員の判断力が重要です。エンパワーメントを通じて社員に適切な権限委譲をすると、企業は状況に応じた素早い対応が可能となります。


戦力となる人材を育てるため

人材育成の観点からも、エンパワーメントは重要視されています。少子化や労働力の都市部への集中に起因する人材不足は、多くの企業が直面する課題といえるでしょう。企業が成長し続けるためには、組織で活躍できる人材の育成が不可欠です。


エンパワーメントを通じて、社員に責任ある役割と意思決定の機会を提供すると、より効果的かつ効率的な人材育成が可能になります。


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エンパワーメントのメリット

エンパワーメントのメリットを解説します。エンパワーメントにより、企業を支える社員の主体性やモチベーションを底上げしましょう。


社員の主体性が向上する

エンパワーメントは、社員の主体性を高める効果的な手法です。適切なアプローチを受けた社員は、自ら考え行動し、決断するようになるためです。主体性の向上は、社員の判断力や問題解決能力といった、重要なスキルの促進にもつながります。


また、上司の指示を待つだけの姿勢から脱却して自ら課題に取り組む機会を得ると、社員は自身の潜在能力に気づけるでしょう。


社員のモチベーション・エンゲージメント向上につながる

エンパワーメントに取り組むと、社員のモチベーションとエンゲージメントの向上にもつながります。社員の能力や適性に合わせて責任ある業務を任せると、自信と自己効力感が育まれ、仕事へのモチベーションが高まります。


加えて、仕事で力を発揮してやりがいを感じた社員は、企業に対して帰属意識や愛着を持つようになるでしょう。


離職の防止につながる

エンパワーメントの積極的な推進により、社員のモチベーションとエンゲージメントが向上すると、仕事への満足度と組織への帰属意識が高まり、結果として離職を避ける傾向が強くなります。


人材流出を防ぎ組織の競争力を維持したい企業にとって、エンパワーメントは有効な施策といえるでしょう。エンパワーメンの推進は、長期的な視点で見ると、社員の能力開発と組織の持続的成長を同時に実現する戦略になり得ます。


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迅速な意思決定ができる

エンパワーメントに取り組むと、組織全体の意思決定プロセスが迅速化します。現場の社員に適切な権限と責任を委譲すると、上層部の判断を待たずに判断できるためです。


迅速な意思決定能力は、競合他社との差別化を図るうえで重要な要素となります。顧客ニーズの変化や市場動向に対して迅速かつ的確に対応できると、ビジネスチャンスを逃さず、潜在的な損失の回避にもつながるでしょう。


エンパワーメントのデメリット

エンパワーメントのデメリットを解説します。不適切なエンパワーメントは、企業にとって悪影響となります。


企業の方向性と個人の判断がズレる可能性がある

企業の方向性や取り組みが不明確な状態でエンパワーメントを導入すると、社員の判断と企業の意図にズレが生じる可能性があります。意思決定のばらつきは提供するサービスや品質の低下につながり、顧客満足度の低下や信頼失墜に至るかもしれません。


意思決定のばらつきを回避し、組織の一貫性を維持するために、明確なルールや指針を設けたうえでエンパワーメントを実施しましょう。


権限委譲には向き・不向きがある

権限委譲には個人の適性がある点に留意しましょう。社員を適切に評価せずにエンパワーメントを実施しても、能力を引き出せるとは限りません。上司の指示に沿って行動することを好む社員もいれば、意思決定に大きな責任を感じてしまう社員もいます。社員の個性が変われば、適したアプローチも変わるでしょう。


エンパワーメントを人材育成に活用する際は、各社員の強みと成長可能性の慎重な見極めが必要です。


チームとしてのまとまりが薄れてしまう場合がある

社員1人ひとりが主体性を持って動くようになると、個々の行動が分散し、チームの一体感が損なわれる可能性があります。また、権限委譲がリーダーの責任回避と誤解された場合、メンバーの不満や不信感が募る恐れがあることもデメリットです。


チームの結束力を維持し、良好な人間関係を保つために、リーダーは権限委譲の範囲と責任を明確に定義してください。さらに、面談やチームミーティングを通じて密なコミュニケーションを図り、チーム内の課題を迅速に把握し適切に対応しましょう。


女性におけるエンパワーメント原則とは?

女性におけるエンパワーメント原則についても確認しておきましょう。WEPs7つの原則と、活用するメリットを解説します。


WEPs7つの原則とは?

WEPsは、女性のエンパワーメント原則です。企業がジェンダー平等と女性のエンパワーメントを経営の核に取り入れる際は、WEPsが指針として役立ちます。


WEPs7つの原則は以下のとおりです。


1)トップのリーダーシップによるジェンダー平等の促進

2)機会の均等、インクルージョン、差別の撤廃

3)健康、安全、暴力の撤廃

4)教育と研修

5)事業開発、サプライチェーン、マーケティング活動

6)地域におけるリーダーシップと参画

7)透明性、成果の測定、報告


※引用:女性のエンパワーメント原則(WEPs)|内閣府男女共同参画局


WEPsを活用するメリット

企業がWEPsを活用すると、社内のジェンダー平等が促進され、社員の満足度向上や多様な人材の活用が期待できます。結果的に、組織の創造性と生産性の向上につながるでしょう。


WEPsの活用は、SDGsの達成にも貢献する取り組みです。特にゴール5「ジェンダー平等の実現」に関して、WEPsの活用は直接的に影響をもたらします。


エンパワーメントを取り入れるステップ

エンパワーメントを取り入れるステップを解説します。組織全体の合意を得て、エンパワーメントの導入を円滑に進めましょう。


1.エンパワーメント推進を周知する

いきなりエンパワーメントを始めるのではなく、まずは社員に対してエンパワーメント推進に取り組む旨を周知してください。ただの周知で終わらず、リーダーが力強いメッセージを伝える必要があります。


エンパワーメントを成功させるためには、組織全体の協力が不可欠です。明確なビジョンと具体的な行動計画を示し、組織全体のエンパワーメントへの理解と意欲を高めましょう。


2.目標に対して合意を得る

組織全体の理解と意識を統一するために、エンパワーメントに関する体系的な勉強会や実践的な研修を実施しましょう。同業種や類似規模の企業におけるエンパワーメントの導入事例を共有すると、社員は導入後の姿をより具体的にイメージでき、モチベーションが高まります。


また、エンパワーメントに対して、率直な意見や疑問を述べられる場を設けてください。不安や懸念を解消し、社員の理解と納得を得られると、より効果的にエンパワーメントを推進できます。


3.情報共有・権限の委譲を実行する

エンパワーメントの推進を宣言し、目標に対して合意を得た後は、情報共有に移ります。エンパワーメントのポイントは、企業の経営に関するさまざまな情報を共有しておくことです。企業の経営戦略、財務状況、市場動向など、知るべき情報にアクセスできる社員は、適切な判断を下せる可能性が高まります。情報共有まで完了したら、権限の委譲を実行しましょう。


4.上司や組織からのフォローを行う

権限の委譲後は、社員の行動の自由を認めつつも適宜フォローしてください。たとえば、判断を誤ったり、トラブルが発生したりしたときは、改善策を一緒に考えるとよいでしょう。適切なフォローにより成功体験を得られると、社員の自己肯定感や自己決定感が高まります。


エンパワーメントを導入する際のポイント

エンパワーメントを導入する際のポイントを解説します。人材のスキルを見極め、権限を与える範囲を慎重に検討しましょう。


社員のスキルを把握して適切な人材を見極める

スキルに見合った権限の委譲を行うためには、社員の能力を把握しなければなりません。社員のスキルを把握するためには、タレントマネジメントシステムなどを用いたスキル分析が必要です。


以下の資料では、人材育成に必要なスキル分析について、育成担当者やマネジメント層が意識しておきたい前提と、具体的な手法が解説されています。


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まずは一部の業務から権限を与えてみる

いきなりすべての業務の権限を社員に与えてしまうと、過度のストレスを感じたり、どう判断すべきか迷ってしまったりするかもしれません。


まずは、社員のスキルに合わせて限定的に権限を与えてみましょう。徐々に権限の範囲を拡大していくと、社員の自信と能力を無理なく育成できます。たとえば、日常的な業務判断から始めて、徐々に重要な意思決定へと権限の範囲を拡大しましょう。


権限を委譲する範囲を決めておく

権限委譲の範囲を明確に定義しないと、社員が誤った判断を下すリスクが高まります。単なる業務上の混乱にとどまらず、組織に大きな損失をもたらすかもしれません。


権限委譲によるリスクを抑えるには、委譲する権限の範囲、意思決定のガイドライン、そして責任の所在の明確な設定が不可欠です。同時に、適切な管理体制とフォロー体制を構築し、社員の判断をサポートしましょう。


社員の成功体験を増やす

権限委譲の初期段階では、経験不足から失敗が生じる可能性が高くなります。上司は社員に適切なサポートとガイダンスを提供し、成功体験を積み重ねられるよう支援してください。失敗を学びの機会として捉え、建設的なフィードバックを行いましょう。過度に失敗を恐れさせたり厳しく批判したりすると、社員が自信を失い、人材育成に悪影響を及ぼす可能性があります。


社員からのホウレンソウは徹底する

権限委譲は、業務の丸投げとは異なります。状況を把握するため、ホウレンソウを徹底させてください。リーダーの役割は、社員に定期的かつ的確な現状報告を求め、判断に誤りがあれば、建設的なフィードバックを通じて方向修正を行うことです。判断の誤りは一見ネガティブに感じられるかもしれませんが、適切に対応すれば社員の成長を促進するチャンスとなります。


社員のスキルを効率よく把握するなら「タレントパレット」

社員のスキルを効率よく把握するなら、タレントパレットがおすすめです。タレントパレットとは、多彩な機能を搭載したタレントマネジメントツールです。


タレントパレット上でスキルマップを作成すると、自己評価・上司評価により社員のスキルレベルを見える化できます。蓄積したスキルデータを確認すると、人材育成の効果も分かるでしょう。また、社員の成長を継続的にモニタリングする機能を活用すると、急速に成長している社員や、サポートが必要な社員を特定できます。把握した社員のスキルをエンパワーメントに役立てましょう。


まとめ

エンパワーメントとは、社員に業務における権限を与えることです。エンパワーメントが成功すると、主体性がありモチベーション・エンゲージメントが高い社員が増える結果、企業の成長につながります。


タレントパレットは、多くの導入実績を持つタレントマネジメントシステムです。HRテック分野で蓄積された豊富な経験と最新の知見をもとに開発され、導入時だけではなく、運用段階においてもコンサルティングの知見を生かしたサポートを受けられます。エンパワーメントに関する取り組みをお考えの人は、ぜひタレントパレットの導入をご検討ください。


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