企業に共通する「マネジメント人材不足」の課題 最適解は人材データの活用
―アースメディアでは経営コンサルティングと採用支援を行っており、松本さん個人としても、経営者のサポートをされていますよね。昨今の経営者から寄せられる悩みにはどのようなものがありますか?
松本:「マネジメント人材が採用できない」という相談が多いです。
例えば「中間管理職の人気がなくなった」と嘆く声を聞きますが、そもそも中間管理職は責任が重く、人間関係のジレンマを抱えやすいこともあり、業務の過酷さに待遇が見合わない仕事だと捉える人も少なからずいます。「それならプレーヤーでいたい」と考える人も増えますよね。
―そのようなマネジメント層が不足していることに企業はどのような対策をとるべきでしょうか。
マネジメント層の不足に対して企業ができるのは、データに基づいた意思決定だと感じます。そのためには人材データを活用するタレントマネジメントシステムが必要でしょう。
例えば人材配置では、企業が持つ人材のデータを活用しどの人材が最適かシミュレーションを行いながら、適切な根拠を持ってマネジメント人材を抜擢することが重要です。
また、適性検査の結果を基に性格や適性を理解しながら、誰と業務をしてもらうか、どう配置するかを検討することで、マネジメント層の負担軽減にもつながっていくでしょう。
―タレントマネジメントシステムを活用することで、意思決定の負担を軽減できるということですね。他にはどのようなメリットがありますか。
タレントマネジメントシステムの活用によるメリットの一つは、社員に対して抜擢や昇進の理由を伝えるコミュニケーションが可能になることです。本人や周囲が、「なぜ昇進したのか」が一目瞭然になるのです。「なんとなく選ばれたのでは」などの邪推が生じず、狙いや理由が伝わる。
採用も同じで、「うちのメンバーとどんなところが似ていて、同じ思考を持つ社員がどう活躍しているか」をデータで示せると、採用候補者も、入社後の活躍のロードマップが見えやすくなるでしょう。
もう一つは、「採用・育成・配置・評価」が一気通貫でできるようになることです。これらが分断されていると、「採用したが活かしきれない」という事態が起きることがあります。データを統合して活用することで、社員を見ていくことができると、そのような事態を防ぐことができるのではないでしょうか。
「やりたいことはあるが追いつかない」うまくいっている人事は何が違う?
―経営者や人事担当がデータ活用を行うのが重要とのことですが、活用しきれていないと感じている企業も多いのではないでしょうか。
松本:そうですね。データはあっても活用できておらず、応用への知見が少ないケースがよくあります。そもそも人事部の業務が忙しすぎて、データ整理まで追いつかない場合が多いです。「採用・人事評価・労務」を全て人事部が担当しており、片手間で社員教育まで担っているような企業では、データの活用まで行うのは非現実的だと考えてしまうかもしれません。
その「データを整理する時間がなく、活用できていない」問題を解決できるのが、システムなのではないでしょうか。データを活用するためには、まずデータが「見れば分かる」状態にしておくことが必要です。
―人事業務が忙しすぎて手が回らないのは、多くの人事部の方が抱えている課題だと感じます。その人材不足をシステムでカバーするのですね。他にもうまくいっている人事部の特徴はありますか?
松本:うまく回っている人事部は、「人事部で全てを背負い込まない」ことを大事にしています。採用に関しても広報部と一緒に行ったり、事業部に委ねたりして、人事はあくまで「サポート」という立場を取っています。
例えばエンジニアなどの専門職採用では、候補者に納得してもらうことは、やっぱり人事には難しいケースも少なくありません。現場メンバーと直接話す方が説得力も増しますし、実際にそのやり方で成功している企業は多い印象です。現場に採用目標を持たせている企業もあり、「マネジメント以上の役職になるためには、月間何人以上のカジュアル面談が必要」などの数字目標を課しているケースもあります。
また、社内のリソースが確保できなければ、外部のリソースを借りたりシステムを導入したりして、人事が業務過多にならないようにしているのです。
社員を会社の「ファン」にすることがもたらす好循環
―経営と人事の現状の課題についてお話いただきましたが、これから企業が持続的な成長を続けるために、目指すべき方向性について教えてください。
松本:人材採用コストが上昇し、求める人材の獲得が一層難しくなった昨今では、「社内外に会社のファンをどれだけ作れるか」が鍵になると感じます。
例えば、ある外資有名チェーンの事例。特徴的なのが「アルバイトスタッフにそのブランドのファンが多い」ことなんですよね。その結果、アルバイトとして働いていた学生がそのまま正社員になっていくという理想的な状況が作れています。別の会社に就職したとしても、ファンであれば今後その元アルバイトとの間にビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。
―社員を会社のファンにするためには、どんな働きかけが重要になっていくのでしょうか。
松本:まずは経営陣の自己開示です。私も会社員時代に経験があるのですが、頑張っている経営者の姿を見ていると、自然と「協力しよう」「多少つらい局面があってもみんなで頑張ろう」と思えるものです。
そのためにも、経営陣がSNSなどで情報発信をすることはとても有効な手段です。会社のことが好きな社員を意図的に増やし、また、好きになる可能性がある人にアプローチして採用することが大事だと感じます。
―「リファラル採用」はまさに好きになる可能性がある人を採用するための手段ですよね。
松本:そうですね。しかし、リファラル採用を行っている企業の中には、誤った手法を取っているケースもあります。
例えば「紹介者に高すぎる報奨金を渡す」というもの。報奨金が高すぎると、小遣い稼ぎに、よく知らない相手に声をかけてしまうなんてこともありえるかもしれません。そもそも、やり方を間違えると、職業紹介に関する法令的にもグレーになってしまいます。
深い関係性でない人が入ってくるだけでなく、誘われた人は入社後にギャップや不満を感じる。やり方を間違えると目的から大きく外れる上、社内にアンチが増えることにも繋がるのです。リファラル採用を行う場合は、「会社のことが好きな社員が、一緒に働きたいと感じる相手に声をかけること」という軸をブラさないやり方を模索する必要があります。
―会社のファンになりそうないい人材を採用するのは、かなりハードルが高いような気もします。
松本:自社にとってどんな方がいい人材と言えるのかを、まず定義することからはじめる必要があります。「いい人材」の定義は会社によって異なります。ここで重要なのは、データから「こんな人がほしい」と定義することです。単に「地頭が良い人」「コミュニケーションに長けた人」だけでは、他社と同じ定義になってしまいますから。
とはいえ、ベーシックな共通点としては「自律型」が挙げられるのではないでしょうか。今後の社会では、自分で改革する、自分で動ける人は必須項目です。
―「自律型」の人材を採用するためのポイントはありますか?
自律型の採用では「自社独自の知見が得られる」と囲い込もうとするのは逆効果です。
「このスキルは他の会社や社会で通用するから、うちで学んだらいい」というメッセージの方が数倍も採用候補者には魅力に映るでしょう。スキルが身についた結果、転職や独立をする人がいるかもしれませんが、それはあくまで一部。広く使えるスキルを与える方が、人材を社内で囲い込むのに比べて信頼関係を築くことができ、その結果ロイヤリティも上がります。それが「いつでも辞められるけど、今は辞めない」という望ましい状態を作り出せるのです。
―企業を成長させるための採用に関して、他に重要なポイントはありますか?
同時に、採用では「アルムナイ」、つまり離職・退職者の門戸を開いておくことも重要だと感じます。かつては多くの企業が「会社を辞めるか続けるか」と、ゼロイチの雇用形態を取っていましたが、昨今は「辞めても業務委託で関わる」というやり方なども徐々に増えています。会社に対するロイヤリティが高ければ、会社を離れた場合でも、取引先として商談を運んできてくれるケースも期待できます。
昔は「辞めた人は敵」という考えもありましたが、そういった会社だと今後成長するのは難しいと感じます。人材を囲いこみ、短期的な会社の利益を追求するのではなく、社員、ひいては社会全体の利益を追求できる会社こそが、今後成長していくのではないでしょうか。