こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
ダニングクルーガー効果とは自分の能力や評価を正しく自己評価できず、過大評価をしてしまうことを指します。この状況を放置していると企業にとって大きな問題につながる可能性があるため、ダニングクルーガー効果の特徴や原因を把握し改善に努めましょう。
当記事ではダニングクルーガー効果について概要や具体的な事例を解説します。日頃の人事評価や業務に思い当たるケースがある場合は早めの対策を行いましょう。
ダニングクルーガー効果をわかりやすく解説
ダニングクルーガー効果は人の思い込みによって不適切な判断をする認知バイアスの一種で、自他を問わず能力を正確に判断せず過大評価することです。本章ではダニングクルーガー効果について図解を含めわかりやすく解説します。
ダニングクルーガー効果とは
経験や思い込みから先入観で非合理的な判断をする心理傾向を認知バイアスといいます。ダニングクルーガー効果は認知バイアスの中の一つで、何らかの原因により自分や対象者の能力を正確に判断できず、ビジネスにおいては不利益を招く可能性を持つ懸念要素です。
ダニングクルーガー効果の歴史
ダニングクルーガー効果の歴史は比較的浅く、1999年に心理学者のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが論文を発表し定義されたことが始まりです。二人は学生を対象とした実験の中でいくつかテストを行い、学生たちに自分の点数を予想させた結果、集団に身をおく場合は能力が低い人ほど高い点数をつけることが判明し、この効果を二人の名前をとり、ダニング=クルーガー効果と名付けました。
二人が発表したダニングクルーガー効果は、人々の思考や行動に大きな影響を与えたことから、2000年にはイグノーベル賞の心理学賞を受賞し、近年は様々な箇所で使われています。
ダニングクルーガー効果の曲線について
ダニングクルーガー効果は上記の曲線図で表現されることが多々あります。上記の曲線をダニングクルーガー曲線といい、自信と知識の変化を表現した曲線です。縦が自信を表し、横が知識を意味します。
図を読み取ると、知識が増加すると自信が大きく変化する特徴が確認できます。最初の段階で少し知識をつけただけにもかかわらず自信に満ちた点がありますが、この地点を「馬鹿の山」と呼んでいます。さらに進み、何らかのきっかけで自分の知識の浅さに気づいた場合、人は自信を失い、この地点を「絶望の谷」と呼びます。
一度は絶望したものの知識の浅さを補うために学習をし、成長を実感し始めると人は再び自身に満ち溢れ、知識がついた上で自信を持った地点を「啓蒙の坂」と呼びます。啓蒙の坂に達した後も学習を続けると知識が成熟し、自分の得意不得意が理解できたり事象を客観視できたり、正しい自己評価が可能になった状態です。この地点を「継続の大地」と呼びます。
ダニングクルーガー効果の逆とはどんなもの?
ダニングクルーガー効果の反対語はインポスター症候群です。インポスター症候群では、自身の実力で仕事などを成功させ高い評価を得られたにもかかわらず過小評価する状態を指し、別名で詐欺師症候群とも呼ばれています。
インポスター症候群の場合、自分の努力や実力で何かを成功できても「ただの偶然」「周囲のおかげ」と考えたり、成功し周囲から評価されることを負担に感じたりする状態に陥ります。完璧主義や責任感の強い人が陥りやすいと内的要因の指摘が目立ちますが、生育歴など外的要因も関係しているとの考え方も存在します。
ダニングクルーガー効果の具体例を見てみよう
本章ではダニングクルーガー効果の具体的なケースを紹介します。ダニングクルーガー効果は仕事だけでなく、私たちの生活においても起こりうる可能性があるため自身の言動に照らし合わせてみましょう。
仕事
ダニングクルーガー効果に陥った人は自分を過大評価する特徴から、企業や業務に支障をきたす可能性があります。具体的には下記のシーンが挙げられます。
- 昇進・昇格すると「高報酬の自身は他社よりも優れている」と感じ、威圧的になったり心無い発言をしたりする
- 経営面に携わる人が「自分の判断は完璧だ」と思い込み、企業全体に悪影響を及ぼす
日常生活
ダニングクルーガー効果は日常生活において友人や家族に影響を及ぼしますが、具体的なケースとして下記のシーンが挙げられます。
- 自分は料理が得意だと思い込みホームパーティで「美味しい料理を作って待っているね」とアナウンスし、実際に豪華な料理を振る舞ったが味はそれほど美味しくなく、参加者からの評価が低かった。
投資
初心者の投資においてもダニングクルーガー効果が見られるでしょう。たとえば、100万円で株式取引を始めて1か月で資産が120万になった場合に「自分には投資の才能がある」と考え、さらに300万を投資したが予測がはずれ、資産を食いつぶしてしまうケースが挙げられます。
容姿
自分の容姿が必要以上に優れていると思い込み自信に満ち溢れた言動をとるケースもダニングクルーガー効果の一種です。より具体的には下記のシーンが挙げられます。
- 周りの意見に耳を傾けず、芸能事務所に応募するが結果は不合格
- 体系に合っていない服や似合っていない髪型をしているが本人は似合っていると思い込んでいる
- 社内交流イベントでなどで異性にアプローチをするが、異性から距離をおかれてしまう
ダニングクルーガー効果で発生する問題
ダニングクルーガー効果はビジネスや日常生活に問題を起こす可能性があります。ダニングクルーガー効果が引き起こす問題は6つです。
自己を過大評価する
自分を過大評価する従業員は、能力以上に仕事を抱え込み納期まで業務が終わらなかったり、周囲の人をトラブルに巻き込んだりする可能性があります。一人の従業員が起こす問題であったとしても、回数を重ねるごとに顧客や同僚からの信頼が低下し、企業全体のモチベーション低下や業績悪化につながるでしょう。
コミュニケーションが難しくなる
ダニングクルーガー効果はコミュニケーションにも支障をきたすでしょう。自分が優れていると思い込んだ人は他人のアドバイスや忠告が耳に入らず、自分の考え方ややり方を貫きます。ほとんどの仕事は従業員同士がコミュニケーションをとりながら進めていくため、ダニングクルーガー効果により人とうまくコミュニケーションがとれない人材を抱える場合は、企業成長に支障をきたす可能性も考えられます。
他者を評価できなくなる
上司が部下を評価する際、ダニングクルーガー効果に陥っていると部下を適切に評価することができず、部下の評価が根拠なく低いもしくは高くされる可能性があるでしょう。上司と部下の関係だけでなく、教師が生徒へ、両親が子へなど様々な状況で起こりえます。
知識不足に陥る
ダニングクルーガー効果により知識不足に陥ることがあります。能力が伴っていないにもかかわらず自分は知識が豊富と勘違いをして、知識を増やす努力を行いません。「馬鹿の山」に形容されるように、少し勉強して理解したつもりになり自身の成長を止めてしまいます。
自身を過大評価したまま年月が過ぎると気づいた頃には手遅れになっている可能性もあるでしょう。自分が根拠のない自信に満ち成長を止めている間に同僚や部下が力をつけ、立場が逆転する事例も見られます。
困難に対処できなくなる
実力に見合わない自己評価は困難に立ち向かう力を失います。「自分はできる人間だ」と思い込んだ状態で壁にぶつかった場合、乗り越える術を知らずうろたえたり逃げ出したりと行動に現れます。ダニングクルーガー効果に陥った人が社内にいると、問題やミスに対して臨機応変に対応できなかったり言動が一致しない人だったりと低評価を受けるでしょう。
詐欺被害に遭いやすくなる
ダニングクルーガー効果に陥り自己評価が高い人は詐欺被害に遭いやすくなります。一見、自信に満ち溢れている姿は詐欺から縁遠いように思えますが、興味がある商品や心の琴線に触れるセールス手法だった場合は、自分の判断や考えに自信があるため、外部の忠告を聞き入れずトラブルに巻き込まれるでしょう。
ダニングクルーガー効果に陥る人は公私共に人の忠告に耳を傾けられず失敗や被害に遭う可能性があります。
従業員評価だけで終わらない、あらゆる人事データを統合して分析
ダニングクルーガー効果を克服し、従業員が適切な自己評価をできることが重要です。そのためには、多角的な視点からの従業員評価を集約し、適切なフィードバックを与えることが有効といえます。タレントパレットは従業員評価に関するデータをデータベースとして見える化できるだけでなく、切り口を自由に変えて分析することで、従業員教育などの人事戦略の策定にも役立ちます。
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ダニングクルーガー効果に陥りやすい従業員の特徴
ダニングクルーガー効果は誰にでも起こりうるものですが、とりわけ陥りやすいタイプの人もいるため、本章ではダニングクルーガー効果に陥りやすいタイプを解説します。従業員に当てはまるタイプの人がいる場合は注視しましょう。
他人の意見に耳を傾けない
他人の意見に耳を傾けられない人はダニングクルーガー効果に陥りやすい傾向にあるでしょう。注意やアドバイスを素直に聞くことができないと学習したり反省したりする機会が減少し、やがては誰も声をかけなくなります。
他人から指摘を受けられなくなると人は成長の機会を逃すでしょう。他人の意見を聞き入れず成長が止まった人は社会人としても一人の人間としても停滞し「私は優れているにもかかわらず評価されない。会社が悪い」と結果的に不満がたまりやすい状態に陥ります。
他責思考で考える
他人に責任を押しつける他責思考の人もダニングクルーガー効果に陥りやすい傾向にあります。他責思考の人は当事者意識や責任感が弱く、同じミスを繰り返したり、楽観的に物事を考えたりする特徴を持つため、問題が起きた際に真っ先に保身に走り反省や改善を行いません。常に問題を避け、対処法を学習できないことから正しい自己評価が困難です。
他責思考の反対語に自責思考があります。自責思考は問題が起きた際に、問題の原因は自分にあるのではないかと考え問題の原因を探す思考です。そのため自責思考の人は問題が起きても、それを自分の成長に活かします。企業においては顧客のためを第一目的にしているケースが多いため、他責思考よりも常に自責思考を身につける習慣が大切です。
他人との交流の機会がない
ダニングクルーガー効果は他人の意見に耳を傾けない人が陥りやすいですが、それに加え他人と交流する機会が少ない場合も可能性が高まります。近年普及したリモートワークのように家や特定の空間に一人ないしは少人数で仕事をすると、以前まで当たり前にあった社員同士の会話が減り、客観的な意見を取り入れづらくなるでしょう。
目標が定まっていない
目標が定まっていない、あるいは目標がない人もダニングクルーガー効果に陥りやすいでしょう。目標設定がある場合、ゴールから逆算してやるべきことを進められますが、あてもなく業務に取り組む場合は目先の事象だけに囚われ、視野が狭くなったり思考が凝り固まったりします。
業務において目標設定は企業成長だけでなく従業員の育成にも必要不可欠です。企業の目標を実業務に落とし込み、各従業員が取り組むと全体の成長につながります。ダニングクルーガー効果の防止だけでなく、企業の永続的な成長のためにも従業員には常に目標設定する習慣づけを行いましょう。
完全に理解したと錯覚している
ダニングクルーガー効果の曲線にあるように、知識をつけ始めた頃は少しの知識で満足し自分は事象を完全に理解したと錯覚し、自分の能力を過大評価しダニングクルーガー効果に陥りやすい状態に近づきます。
具体的には、上司が新入社員に仕事内容を説明する場合をイメージしましょう。新入社員に対して上司は最初に仕事の大まかな流れを説明し、その後に詳細な説明をする予定でしたが概要の時点で完全に理解したと錯覚した部下は「すべて理解理解できましたので業務を進めます」と上司の説明を遮ります。
上記のケースでは、次に上司が説明しようとした中に取引先企業との細かなルールがあるにもかかわらず聞かなかった結果、トラブルに発展する可能性も考えられます。ダニングクルーガー効果に陥らないためには、日頃から人の話を最後まで聞く習慣や常に数歩先を考えて行動する想像力が大切です。
原因を追究しない
ダニングクルーガー効果に陥りやすい人は、原因を追究しない人です。問題が起きたとしても問題に向き合わず、解決した後に振り返ることをしません。その結果、同じ過ちを幾度となく繰り返します。
原因を追究する習慣がない人は、失敗だけでなく成功を収めた時も同様です。なぜ成功したかを考えないため、次に成功を掴めず苛立ちを覚えたり他責思考に陥ったりします。
従業員のダニングクルーガー効果を改善する対策
本章では従業員がダニングクルーガー効果に陥っている場合の改善方法を紹介します。早めのケアを実施すると、企業への影響だけでなく本人の思考法向上に効果が期待できるでしょう。
交流を多く持たせる
ダニングクルーガー効果を改善する方法として、対象者に他者との交流を多く持たせましょう。一人で仕事をしていたり、決まった人としか話をする機会がなかったりする場合には偏った考え方になります。その結果、新しい考え方や思考を得る機会を逃したり、自分の考えを改める機会が失われたりするため自尊心を守ろうと過大評価が起こります。
具体的には、年齢や出身、職業や立場など自分と考えや思考が違う人との交流を積極的に持つとダニングクルーガー効果の改善が可能です。企業の場合は定期的に研修会や同業種の交流会に参加を促す方法がよいでしょう。
メタ認知能力を高めさせる
メタ認知能力は自分を客観的に認知し、自覚する能力を指します。つまり、ダニングクルーガー効果を防ぐには、自分の理解度や知識を客観的な状況把握が必要です。メタ認知能力を高めるにはメタ認知トレーニングを活用します。
たとえば、入社3年目の社員を集め全員にいくつか同じ質問を行います。質問にどれだけ回答でき、どれだけ正しかったのか客観的に把握してもらうなど、自分を客観視する習慣を従業員に定着させましょう。各従業員は自分と他者との違いや自分の強み・弱みを知ることでダニングクルーガー効果に陥らないだけでなく、スキルアップの機会を設けるきっかけにもなり得ます。
認知の歪みに気づかせる
上司がいくら指導や指摘を行っても本人の固定概念が強く、聞く耳を持たない場合もあります。対象者が意見を聞き入れない場合は、数字や表など明確なデータを使うと説得力が高まるため効果的です。
データを用いて説明する際にはバランスに注意しましょう。あまりにも理論的になると聞いている側は知識のなさを指摘されていると感じ、モチベーションの低下につながります。相手の表情や仕草を常に観察しながらデータを使った指摘とポジティブフィードバックを織り交ぜて認識の歪みに気づかせましょう。
フィードバックを与える
ダニングクルーガー効果を改善するためはフィードバックが重要です。ダニングクルーガー効果に陥る人は反省や改善を行いません。そのため、意図的にフィードバックの機会を作りましょう。適切なフィードバックを習慣化すると考えや知識の蓄積がかないます。
従業員がダニングクルーガー効果傾向にある場合、最初は週に数回や終業前などに一日のフィードバックをする機会を作るとよいでしょう。そしてフィードバックをする際は「どのように考えて行動をしたのか」を問いかけます。質問された対象者は自分を客観的に見ることができたり思考する習慣がついたりしてダニングクルーガー効果を脱することができるでしょう。
自分に原因があると考えさせる
ダニングクルーガー効果に陥る人は他責思考の傾向が強く出るため、自分に原因があるにもかかわらず責任から逃れるために他人に責任を押しつけます。
ダニングクルーガー効果に陥る人が考え方を改めるには、問題が起きた時に「自分に全く責任がなかったのか、もしくは自分が行動を起こしていれば、この問題は起きなかったのではないのか」など、他の対応を行った時をイメージさせると効果的です。トレーニングを経て、少しでも自分に責任があった、問題が回避できたと気づけるようになれば、日頃の仕事態度や言動も自然と変化するでしょう。
ダニングクルーガー効果に似た言葉
ダニングクルーガー効果自体は1990年代に発表された比較的新しい用語ですが、古くからダニングクルーガー効果を表した言葉や表現がいくつか存在します。かつての人々も知識の習得と過大評価に悩んだ背景を伺い知れるでしょう。
ソクラテス
ソクラテスは古代ギリシャ時代に哲学者として活躍した人物です。ソクラテスが残した言葉に「無知の知」があります。
無知の知は、自分の無知を自覚する概念を指し「自分の無知さに気づいた人は、気づかない人よりも優れている」という意味です。反対に自分は何でも知っていると考えていれば、物事を正しく判断することはできません。この言葉はダニングクルーガー効果の過大評価と共通する部分があります。
シェイクスピア
シェイクスピアは16〜17世紀時代に劇作家・詩人として活躍した人物です。シェイクスピアの残した下記の言葉もまたダニングクルーガー効果に似たニュアンスを含んでいます。
「愚か者は自身が賢者だと思い込が、賢者は自身が愚か者であることを知っている」
この言葉はダニングクルーガー効果の仕事ができない人ほど仕事ができると考えていると共通する部分があるでしょう。自分が賢い人でありたいなら、驕ることなくいつまでも謙虚でいる必要があることがわかります。
ラッセル
ラッセルは20世紀に数学者・哲学者として活躍しノーベル文学賞を受賞した人物で、彼が残した言葉は下記のとおりです。
「私たちの時代における苦しみの一つは、確信を持っている人間は愚かさに満ちており、想像力と理解力を持っている人間は疑いと執拗さに満ちていることだ」
自信を持っている人間は愚か者です。想像力と理解力がある人間は自分を疑いながらも粘り強さもあることを伝えています。この言葉はダニングクルーガー効果の過剰な自信は愚かさを表し、失敗や不利益を招くことと共通する部分があるでしょう。
まとめ
従業員がダニングクルーガー効果に陥ると組織に大きな影響や損失が出る可能性があります。ダニングクルーガー効果の予防や、万が一ダニングクルーガー効果に陥った場合にすぐに対応するためには人材データの管理が重要です。
タレントパレットでは分析結果から経営や人事課題を解決するための根拠ある施策が打てる機能があり、従業員のダニングクルーガー効果を未然に防ぎます。さらに、タレントパレットでは従業員向けのeラーニング・研修の管理もできるため、正しい知識を身につけて人材育成につなげたい場合はぜひ資料請求からお問い合わせください。
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