こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
企業統治(コーポレートガバナンス)は、株主やステークホルダーの利益を優先しつつ、企業価値を高めていく際に欠かせません。この記事では、企業統治の目的や生まれた背景、コーポレートガバナンスコードを遵守しつつ企業統治を強化する方法を紹介します。
上場や海外進出をお考えの経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
企業統治(コーポレートガバナンス)とは
企業統治はコーポレートガバナンスとも呼ばれ、企業の公正な運用を目的とした概念および経営方法を指します。自社だけでなく、株主や顧客・従業員・地域社会にも配慮した意思決定を行わなければなりません。企業統治(コーポレートガバナンス)を実施する企業は、社外の管理者を設置し、経営リスクとなる事案が発生しないよう監視体制を敷く必要があります。
企業統治が生まれた背景
企業統治(コーポレートガバナンス)が日本で求められるようになったきっかけは、バブル経済崩壊後、企業による不正や不祥事が次々に発覚したことです。
適切な企業統治がなされていない会社は、仕事が属人化しがちで、不正や横領といった不祥事が起こりやすくなります。こうした状況を正すため、多くの企業で企業統治が求められるようになりました。
また、外国人投資家が日本企業の株を多く持つようになったことも、企業統治が強く求められるようになった理由のひとつです。投資家の信頼を得るには、株主の利益を守る企業統治が欠かせません。
内部統制との関係
企業統治と混同されやすい言葉に、「内部統制」があります。企業統治と内部統制は、健全な経営を行うための取り組みという点では同じです。
ただし、内部統制が企業内部の人間を対象に作られる制度や手法を指すのに対し、企業統治(コーポレートガバナンス)では外部にも目が向けられます。企業統治は企業内部はもちろん、株主や顧客にも、企業の在り方を示すものです。企業統治(コーポレートガバナンス)は内部統制よりも上位の概念であり、考え方や行動規範の基本となるものといえるでしょう。
一方で、企業統治そのものは規律や規範を守るために具体的な統制を求めたり、基準や規則に違反することに対して制裁を求めたりするものではありません。どちらかといえば、そのような役割は内部統制に含まれるため、内部統制を用いて企業統治(コーポレートガバナンス)を達成するという理解が適当でしょう。
コンプライアンスとの関係
コンプライアンスは法令遵守という意味で、企業統治(コーポレートガバナンス)と深く関係しています。ビジネスにおける「コンプライアンス」は社会規範や道徳、ステークホルダーの利益・要請への真摯な対応といった意味でも使われます。
ただし、コンプライアンスは経営者目線で会社を見たときに意識したいことといえます。一方で企業統治は、株主やステークホルダーから見た企業の在り方として使われることが多いようです。
とはいえ、コンプライアンスは内部統制を行ううえでも重要です。企業統治の実施にあたって、コンプライアンス意識の向上は従業員に徹底すべきことといえます。
企業統治(コーポレートガバナンス)の目的
そもそも、企業統治(コーポレートガバナンス)はなぜ必要なのでしょうか。ここでは、その目的や必要とされる理由を解説していきます。
企業価値と株主の利益向上
ビジネスにおいて、企業価値を高めることは重要です。現代のビジネスにおいては、ただ利益を出しているだけでは不十分といえます。多くの企業は契約を結んで取引を行い、自社の利益を生み出しているため、企業間の強固な信頼関係が不可欠です。加えて、近年の株主や地域といったステークホルダーは、信頼できる会社かどうかを自分で見極めるようになっています。
こうした背景もあり、企業は大小を問わず、透明性のある経営を行う必要があります。もちろん、不正や違反には確固たる態度で公正な立場を取り、信頼できる企業であることを示さなければなりません。企業統治は信頼を築き、企業価値を高め、株主の利益向上を目指すために必要なものといえます。
企業の不祥事を防ぐ
企業統治(コーポレートガバナンス)が必要とされる主な理由は、企業の不正防止です。企業統治を行わない企業では、透明性のある経営が行われず、業務の属人化も進みます。経営の透明性が失われると、長年その職に就いている人間が権力を持つようになります。自分の得になることや、法的にグレーまたはアウトな行為を陰で行うようになることもあるでしょう。
そのような行為が明るみに出ると、本人だけでなく企業の信頼も損なわれるでしょう。こうした事態を防ぐために、企業は情報開示を積極的に行い、常に客観的な監査を受ける必要があります。
社会的な地位向上
企業統治(コーポレートガバナンス)は、社会的地位の向上も目的としています。2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)では、サステナビリティに関係する課題への取り組みも含まれました。具体的には、脱プラスチックや食品ロスを減らすための取り組み、異常気象・環境破壊抑制への取り組みなどです。
自社の短期的な利益だけを追求するのではなく、社会全体として持続可能なビジネスを目指す姿勢を示すことで、企業の社会的地位を向上させる狙いもあります。
海外のコーポレートガバナンスとの違い
海外と日本では、企業統治(コーポレートガバナンス)の目的が異なります。アメリカやイギリスなどでは、株主の価値を向上させることが企業統治の主たる目的となっています。ヨーロッパでは、法律によってコーポレートガバナンスの遵守が定められている地域もあるようです。
一方、日本の企業統治には法的拘束力がありません。公的な強制力はないため、あくまでも企業の自主的な取り組みという位置付けです。また、日本では株主だけでなく、ステークホルダー全体の権利の保護や、競争力の強化などを重視している点も、海外の企業統治と異なります。
コーポレートガバナンス・コードとは
ここからは、企業統治に欠かせないコーポレートガバナンス・コード(CGコード)について解説します。コーポレートガバナンス・コードは、金融庁と東京証券取引所が公表しているコーポレートガバナンスのガイドラインです。全部で73の原則がありますが、特に大切なのは以下の5つの基本原則です。
原則1.株主の権利・平等性の確保
この原則のもと、企業は株主総会の決定を尊重し、伝えるべき情報を早めに開示します。それが、株主が持つ権利を平等に行使できる経営につながります。自社利益の確保を目的に、企業が自社にとって不利益な情報を隠蔽するという不祥事を避けられるでしょう。
例えば株主総会で可決された案件でも、相当数の反対があれば原因を分析しますし、株主と対話したうえで対応を行わなければなりません。
また、株主が十分な時間をかけて検討できるよう、情報を早めにWebサイトなどで開示することや、経営陣・取締役会の保身を目的とした買収防衛策を講じてはならないことなどが「株主の権利・平等性の確保」に含まれています。
原則2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
株主以外のステークホルダーには、従業員や顧客、取引先や債権者、地域社会などが含まれます。ステークホルダーと協力して健全な事業活動を行いながら、社会や業界全体にメリットをもたらす経営が求められているのです。
具体的には、中長期的な目線で企業価値を向上させる経営理念の策定や、環境問題・サステナビリティに関する課題への積極的な取り組みなどが求められます。
原則3.適切な情報開示と透明性の確保
この原則では、会社にとって不利益な情報も含めて、株主に適切に情報を開示することが求められます。財政や経営に関する情報以外にも、企業統治の考え方や取り組み方、経営幹部や取締役の報酬の決め方、監査役の指名方法などの情報も開示しなければなりません。
原則4.取締役会等の責務
取締役会等の責務には、経営陣を客観的な立場で監視し、環境を整えて株主の権利を守ることが含まれます。具体的には、以下のような行動が求められます。
・経営理念や経営戦略に関する決定を行う際に、経営陣の委任範囲を明確にし、情報開示を行う
・健全な経営精神に基づくインセンティブ報酬制度を設定する
・CEOの選任・解任に関して、客観性のある決定を下し、その情報を開示する
原則5.株主との適切な対話
株主との適切な対話とは、会社を継続的に成長させることを目的とした、建設的な意見交換のことです。株主総会以外でも、話し合える機会を積極的に作らなければなりません。
具体的には投資家説明会の実施や、IR活動(投資判断に必要となる情報の提供)の充実などが求められます。また、取締役会や経営陣の幹部に株主の意見を伝える機会を増やすことも大切です。
さらに、社内に株主の意見を反映する体制を作ることや、インサイダー情報(企業の未公開情報)を適切に管理できる体制を作ることも求められます。
コーポレートガバナンス・コードを遵守しなかった場合
ヨーロッパと異なり、日本の企業統治には法的拘束力がありません。よって、コーポレートガバナンス・コードに違反した場合でも、法的な罰則が科されることはありません。ただし、上場企業がコーポレートガバナンス・コードの原則に違反した場合や、遵守する姿勢が見られない場合は、東京証券取引所にその理由を説明する必要があります。
コーポレートガバナンス・コードを遵守できない理由を説明できない場合は、東京証券取引所の上場規則違反に該当するため、「理由の説明義務に違反した企業」として公表されるかもしれません。そうなれば、企業の信用は失墜します。法的拘束力や罰則はないものの、コーポレートガバナンス・コードは守らなければならないものといえるでしょう。
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企業統治(コーポレートガバナンス)の課題
日本では企業統治が求められるようになりましたが、企業統治には課題もあります。ここでは、企業統治を行う際の問題について解説します。
社外監査による事業スピードの低下
コーポレートガバナンス・コードを適用しない場合は、社内の経営陣のみで意思決定を行うことができます。一方でコーポレートガバナンス・コードを適用すれば、社外の取締役や監査役を設置する必要があるため、どうしても意思決定が遅くなるでしょう。
また、施策に問題がある場合や、株主が不利益を被る可能性がある場合は、取り組みやプロジェクトが中止されるケースもあります。
コストの増加
企業統治を行う際には、それまでの社内体制を見直したり、一新したりする必要が生じるかもしれません。
また、コーポレートガバナンス・コードの遵守にあたっては社外の取締役・監査役の設置が必要で、採用コストや異動コストもかかります。企業統治を行う準備だけで、コストがかさむかもしれません。
株主やステークホルダーへの依存
企業統治の目的は株主やステークホルダーの利益還元・優先であるため、会社が株主やステークホルダーに依存してしまうおそれもあります。会社の利益とマッチすれば良いサイクルが生まれますが、場合によっては短期的な利益を求められ、企業が中長期的に成長するチャンスを逸してしまうかもしれません。
グループ会社に向けたガバナンス整備も必要
企業統治を行うためには、本社だけでなくグループ会社全体のガバナンスやコンプライアンスの強化が必要です。株主やステークホルダーは、グループ会社が不祥事を起こすと不利益を被るからです。
企業はグループ会社も含めた内部統制を進め、企業統治を目指す必要があります。その時間やコストが膨らみ、通常業務に支障をきたすかもしれません。グループ会社が多ければ多いほど、企業統治の難易度は上がるでしょう。
企業統治(コーポレートガバナンス)の強化方法
最後に、企業統治を進めるためにできることを紹介します。
内部統制の構築と強化に取り組む
企業統治を行うために、内部統制の仕組みを構築しましょう。
例えば、以下のようなことに取り組みが考えられます。
・適切な監視体制を敷いて、従業員のコンプライアンス違反がないかどうかをチェックする
・社員のエンゲージメントを高める取り組みを行う
・経営陣と現場の従業員の風通しを良くする仕組みを作る
社外取締役や社外監査役だけが参加する委員会を設置する
コーポレートガバナンス・コードの適用までいかなくても、経営に第三者を入れることは考えてみてもよいでしょう。
例えば社外取締役や社外監査役を設置し、客観的な立場で監視する体制を敷けば、経営陣の不正や不祥事を未然に防げるでしょう。また、社外取締役や社外監査役のみが参加できる委員会を設置し、ある程度の権限を持たせば、監視体制を強化できるかもしれません。
執行役員制度を導入する
取締役に代わって執行役員制度を導入すれば取締役と執行役が分離されるため、企業統治に向けた管理体制を整えやすくなるでしょう。また、執行役員制度をうまく導入できれば、取締役会は経営の意思決定だけを行う機関として独立できます。取締役の人数を絞り込み、優れた経営判断ができるスペシャリストチームにできるでしょう。
コーポレートガバナンス・コードを浸透させる
企業統治を行うためには、経営陣だけでなく従業員や株主も含め、経営に関わるすべての人がコーポレートガバナンス・コードを理解し、積極的に取り組む必要があります。
コーポレートガバナンス・コードの内容を丁寧に説明し、意思決定の判断基準にしましょう。短期間ですべてを変えるのは難しいかもしれませんが、丁寧な説明と理解を求める取り組みを続けていけば、制度をスムーズに移行できるはずです。
まとめ
企業統治(コーポレートガバナンス)は上場企業にとって必要不可欠なものですが、近年は中小企業でも取り組むところが増えています。
特に近年はSNSの普及によって経営戦略の幅が広がっているため、経営規模に関わらず不祥事や不正に対するリスクマネジメントが求められています。取り組めることから、企業統治を進めていくとよいでしょう。
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