こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。
予測が困難な時代には、企業も核となるスキルを持って、変化に対応していくことが求められています。競合と比較した際にアドバンテージとなる強みは、ほかの市場に進出する際にも優位に働きます。
今回は、コアコンピタンスとは何か、自社のコアコンピタンスを見つける方法を紹介します。コアコンピタンスを定義し、自社の適切な人材配置を検討中の企業の人事担当者や経営層の人は、本記事を参考にしてみてください。
コアコンピタンスとは何のこと?
コアコンピタンスとは、企業独自の中核になる能力のことを指します。1990年にミシガン大学のC・K・プラハラッド教授とロンドン・ビジネススクールのG・ハメル教授によって書かれた論文「コア・コンピタンス経営」で提唱されました。
競合他社が容易にコピーできない能力、顧客に大きなメリットをもたらす能力、いくつかの市場や製品にも転用して活かすことができる能力であることなど、コアコンピタンスにはいくつかの条件があります。
コアコンピタンスとケイパビリティの違いとは
コアコンピタンスと似た言葉に「ケイパビリティ」という言葉があります。どちらも企業の特筆した能力を指す言葉ですが、それぞれ意味が異なります。正しく意味を理解し、企業のコアコンピタンスとケイパビリティを定義しましょう。
ケイパビリティとは、企業全体の組織力のことです。コアコンピタンスが企業で核となる一つの強みであることに対して、ケイパビリティは組織として持つ強みを指しています。
ケイパビリティの例として、具体的には、製品を作るにあたって発揮される組織力や、優れたビジネスプロセスなどが挙げられます。特定の技術力を持っていても、組織としてノウハウが溜まっていなかったり仕組み化されていなかったりすれば、ケイパビリティとして確立できていません。
コアコンピタンスの特徴
コアコンピタンスとは、競合優位性を持つ特有の能力です。構成する要素としては、顧客に利益をもたらす能力・他社に模倣されにくい能力・複数の商品と市場に応用が利く能力の3つがあります。
それぞれ詳しく説明します。
1:顧客に利益をもたらす能力
まずは、顧客に対して何かしらの利益を与える能力である必要があります。優れた強みを持っていたとしても、顧客に利益を提供しなければ、自社の利益にはつながりません。
営利企業として利益を上げていくには、顧客が求めるものに応えることが第一です。他社が真似できない技能であったとしても、需要のない商品や技術であれば、顧客に対してコアコンピタンスとしてアピールできるポイントにはなりません。
そのため、コアコンピタンスは顧客に利益をもたらす能力であることが前提として挙げられます。
2:他社に模倣されにくい能力
競合相手に簡単に模倣されるようでは、コアコンピタンスにはなり得ません。
コアコンピタンスとは、ほかが簡単に真似できないような圧倒的な能力のことです。市場において、企業が独自性・優位性を確保し、地位を安定させることで、顧客からの信頼を得ることができます。
競合他社が簡単にコピーできるようなスキルの場合は、コアコンピタンスとして発表してもすぐに他社事例に埋もれてしまい、効果的に顧客にアピールできません。企業の価値向上のためにも、競合にない能力で地位を確立させることが重要となります。
3:複数の商品・市場に応用が利く能力
コアコンピタンスは、複数の商品や市場に応用が利く能力であることも重視しています。その能力が一つの商品・サービスにしか使用できない場合、ビジネス環境の変化に弱くなるためです。
新たなテクノロジーが発展する現代では、さまざまなビジネス市場がはやいスピードで変化しています。企業は、こういった変化にうまく適合することが求められています。特定の能力で確固たる地位を築き上げていたとしても、市場が変化し顧客のニーズも変化する可能性があります。
そんな事態にも対応できるように、強い能力はほかに活かせるようなものである必要があります。
コアコンピタンスを活かした経営方法
企業のコアコンピタンスを活かした経営方法は、コアコンピタンス経営と呼ばれます。
変化の激しい現代において、改めて自社の強みを見つめ直し、競合他社に負けない能力を活かした戦略を取ることが重要です。自社のぶれない軸を見つけて競合優位性をとり、また新しい市場や製品に横展開してアプローチすることも大切です。
以下で、コアコンピタンス経営を行うことのメリットと注意点を詳しく説明します。
コアコンピタンス経営を行うメリット
コアコンピタンス経営を行うメリットとして、新しいサービス・製品が創出しやすいことが挙げられます。コアコンピタンスとして確立された高度な技術力は、たとえば工業分野で得た技術であったとしても、医療分野といったほかの分野に応用できるといったことが多くあります。強みを活かして、新たな領域に進出することも可能です。自社特有の技術を活用してほかの企業と連携し、新たなサービスや製品開発につなげることもできます。
また、市場の変化に対応できるといったメリットもあります。他社が模倣できないほどのビジネス上の長所は、特定の商品が優れているわけではなく、根本にある技術力です。そのため、市場が変化したとしても、技術をうまく活用して新たな商品を開発するといった柔軟に対応することができるでしょう。
コアコンピタンス経営を行う際の注意点
コアコンピタンス経営を行ううえで、いくつか注意しておきたい点があります。それは、技術者の離職によって影響を受ける可能性があること、応用可能な技術の開発は難度が高いことです。
事業を支える核となる技術は、特定の技術者によって生み出されていることがあります。その技術を扱える人がいなくなることで、自社のコアコンピタンスがなくなってしまう可能性も大いに考えられます。
また、さまざまな分野で応用できる技術を確立させることは難易度が高く、すぐに生み出せるものではありません。
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自社のコアコンピタンスを見つけるために必要な視点とは
コアコンピタンス経営は、市場の変化に対応するためにも重要なやり方です。自社の核となる能力を見つけるためには、どうすれば良いのでしょうか。
コアコンピタンスを確定させるための必要な視点として、以下の5つがあります。それぞれ詳しく説明します。
1:模倣可能性
模倣可能性とは、保有している技術が他社に模倣されにくいかという視点です。
特徴として前述したとおり、コアコンピタンスは競合他社が簡単にコピーできないような技術である必要があります。顧客が市場のなかでどの企業のサービス・商品を選ぶか考えた時に、自社の商品・サービスを選択できる理由となる、競合と比較した際の圧倒的な強みが必須です。
他社にないものを持っていることで、コアコンピタンスとしてアピールできるようになります。
2:代替可能性
代替可能性とは、企業が保有している技術にオリジナル性があり、替えが利かないかという視点です。
たとえ競合他社によって簡単に模倣されないような技術であったとしても、ほかの技術によって代替できるものであれば、競合から優位性を保てるものにはなりません。なにものにも代えが利かない、オンリーワンの技術力を保持していることが重要です。
ほかにはない、代わりがない技術であることが、コアコンピタンスとして確立させられる技術のポイントです。
3:移動可能性
移動可能性とは、保有している技術がさまざまなサービス・商品に応用できるかという視点です。
コアコンピタンスの特徴でも示したとおり、技術力はほかの市場や製品にも流用できるものである必要があります。確立された特定の技術は、ほかの分野においても活かせるノウハウが多くあるでしょう。
たとえば、物流システムをコアコンピタンスとして持つ企業は、特定の商品を売るだけでなく、ほかの商品を売ることにも活用できます。複数のサービスや商品の事業を支える核となる技術力である必要があります。
4:希少性
希少性とは、保有している技術が市場において珍しく希少かという視点です。
市場に同様の技術が多く存在していれば、それぞれの強みを比較することが難しく、競合に対して優位に立つことも困難です。珍しい能力を持っていることで、競争力は強くなります。
一般的には、1の模倣可能性や2の代替可能性が満たされていれば、希少性もあると見なされます。他社が真似できず、代わりになるものもなく、稀な能力であれば、市場のなかで不動の地位を手に入れることができるでしょう。
5:耐久性
耐久性とは、保有している技術が短期間で廃れないか、価値が保ち続けられるかという視点です。
模倣や代替ができず、希少なものであり、短期間でなくなってしまうようなものであれば意味がありません。ほかの市場にも応用が利くような技術であったとしても、うまく転用する前になくなる可能性もあります。
確立された能力は、長期間にわたって優位に立つ必要があります。また、長くトップであり続けることは、顧客からの信用を得る点でも有効です。
コアコンピタンスを見つける方法
コアコンピタンスを考えるうえでの視点がわかったところで、実際に見つける手順を紹介します。
まずは強み・弱みの分析をして、強みの部分を評価し、最後にコアコンピタンスとなる強みに絞り込むことです。それぞれ詳しく説明します。
自社の強み・弱みを分析する
まず、自社の強み・弱みを分析しましょう。ブレインストーミングやSWOT分析などによって、強み・弱みを洗い出すことができます。
ブレインストーミングは、企業のなかの複数人で自社の強みを思いつくままに抽出する手法です。話し合うことで、個人で考えても思い浮かばないような発見も出てくるメリットがあります。クオリティよりまずは量を出すことを重視しており、多角的な視点で自社を見つめ直すことに有効です。
一方でSWOT分析は、自社の内部要因(強み・弱み)と、自社をとりまく外部要因(機会・脅威)をそれぞれ書き出し、照らし合わせながら分析する手法です。4つの要素に分けて整理することで、現状を正しく把握することができます。
これらの手法を使って、自社の強み・弱みを言語化していきます。
強みを評価する
強み・弱みが分析できたら、分析で出てきた自社の強みを細かく評価する必要があります。
前述した特徴であった、顧客に利益をもたらすか・他社に模倣されにくいか・複数の商品と市場に応用が利くかといった視点や、模倣可能性・代替可能性・移動可能性・希少性・耐久性の5つの視点をもとに、強みがこれらに該当するものであるか評価していきます。
コアコンピタンスになり得る強みを絞り込む
最後に、評価した強みのなかでコアコンピタンスになり得るものを定め、企業の方針を決めます。
強みの洗い出しや評価で見えてきた自社の強みは、コアコンピタンスとなる可能性が高いもののはずです。最後の絞り込みでは、将来的な視点も含めて長期的に耐久できる・模倣されない能力か、本当の意味で自社の顧客を満足させられる能力かなどを考えていきます。
自社のコアコンピタンスを確立するためのポイント
自社のコアコンピタンスとして見出したものは、市場のなかで長く確立させていく必要があります。確立するためのポイントとして、組織力を高める、自社技術・人材の育成に努める、時代に合わせて変化させるなどが挙げられます。
企業としてコアコンピタンスを定義し支えていくためには、強い組織力も重要です。商品・サービスを生産するために、企業の連帯感やスピード感を持つことが求められます。企業としての総力があれば、自社技術・人材を企業で育てていくことに注力しましょう。技術力を絶やさないため、後継者を育成することが大切です。
企業が組織力や技術力、人材力を備えたうえで、時代の変化に必要に応じて対応することも必須となってきます。長期的な目線で地位を築くために、企業も都度変えていくことで、コアコンピタンスを築き上げることができます。
企業におけるコアコンピタンスの事例
自社のコアコンピタンスを見極める際には、他社事例も参考にすることができます。以下で、本田技研工業株式会社のエンジンの事例、トヨタの生産システムの事例、富士フィルムの精密技術の事例の3つを詳しく紹介します。
事例1:本田技研工業株式会社のエンジン
本田技研工業株式会社は、1970年に自動車による排気ガスの規制を受けて、低公害エンジンを開発しました。その際に発表した新型エンジン「CVCC」は、アメリカの環境保全局からも認定を受けています。
この時に誕生した技術力を活かして、現在では芝刈り機・除草機など、環境に配慮したそのほかの機械製品も生産しています。燃費性能に優れたエコロジカルな製品の製造を実現できる能力は、本田技研工業株式会社のコアコンピタンスとして打ち立てています。
事例2:トヨタの生産システム
トヨタは必要なものを必要な分だけ生産するシステムによって、生産時のコストを削減してコアコンピタンスを作りました。
自動車の生産過程において、徹底的に無駄を排除し、生産を効率化させたやり方は、トヨタの豊富な経験や技術力が為せるわざであるため、競合他社が真似しようと思っても真似できるものではありませんでした。
トヨタの生み出した生産システムは、「トヨタ生産方式」として世界中で知られる生産の考え方となっています。
事例3:富士フィルムの精密技術
富士フィルムは、写真分野に用いられてきた研究・技術力を活かして、化粧品・美容分野に進出しています。
富士フィルムにはカメラを製造するうえで必要とされる精密技術や、フィルムに使用する高品質なコラーゲンを生み出す技術のほか、画像処理技術や光学技術、化学技術、バイオ技術などがあります。これらの技術を活かして、カメラだけでなく医療機器や化粧品、健康食品などの製品を開発しています。
一つの製品を作るために得た技術をほかの業界にうまく活用して、幅広い業界で活躍する企業となりました。
まとめ
コアコンピタンスとは、企業の核となる強みです。コアコンピタンスを再定義し、コアとなる技術をほかのサービス・商品にも活かして時代の変化に対応することが大切です。また、技術を支える技術者の存在も重要となります。
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