人材マネジメントにおいて「コンピテンシーモデル」が注目されています。コンピテンシーモデルとは、各企業が求める理想的な人材のイメージです。コンピテンシーモデルを作成するには、経営方針とのすり合わせや独自の調査などを実施しなければなりません。この記事では、コンピテンシーモデルの概要に触れたうえで、作成方法や注意点などについて解説します。
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コンピテンシーモデルとは
コンピテンシーモデルとは、自社の理想である人物像を定義したものです。実際に高い成果を出している社員の特性を洗い出し、手本として定めます。自社が人材に対して求めていることが明確になるため、評価基準としても機能させることが可能です。
ただし、コンピテンシーモデルは、企業や部署などによってそれぞれ異なります。環境や労働条件の違いに応じて設定する必要があり、他社や他部署の定義をそのまま取り入れても意味がありません。よって、独自のコンピテンシーモデルを作成する必要があります。
そもそもコンピテンシーとは
コンピテンシーモデルは、コンピテンシーを社内に浸透させるための定義です。コンピテンシーとは、仕事で高い成果を出しているハイパフォーマーの行動特性を表しています。成果を出すために学歴や職歴は関係なく、いかに成果に結びつく行動ができるかどうかが重要です。自社全体の成果を高めるには、コンピテンシーモデルを作成し、社内にコンピテンシーを浸透させる必要があります。
コンピテンシーモデルを活用したい3つのシーン
コンピテンシーモデルは、どのような場面で活用できるのでしょうか。ここでは、3つのシーンについて解説します。
1.採用活動
採用活動における評価基準として、コンピテンシーモデルを活用している企業は少なくありません。応募者にコンピテンシーモデルを照らし合わせると、入社後に成果を出せる人材を見極めやすくなります。
そのためには、面接で「STAR型質問」を実施すると効果的です。「STAR型質問」では「状況(Situation)」「課題(Task)」「行動(Action)」「結果(Result)」の順で質問を行います。具体的な質問の流れをまとめると、以下の通りです。
- 過去にどのような問題があったか?
- なぜその問題が発生したのか?
- 問題を解決するために何をしたのか?
- 自分の行動によりどうなったのか?
2.人事評価
コンピテンシーモデルを基準に人事評価を行っている企業も少なくありません。コンピテンシーモデルをもとに社員を評価すると、担当者の判断や評価基準が一律になります。評価に対して明確なフィードバックがしやすくなり、社員からの納得も得やすいでしょう。高い評価を得るための具体的な目標になるため、社員が意欲的に仕事に取り組めるようになります。
3.人材育成
人材育成においても、コンピテンシーモデルは活用可能です。社員とコンピテンシーモデルを比較すると、課題発見や目標設定がしやすくなります。各社員がハイパフォーマーになるためにどう行動すればよいか明確になり、人材育成の方向性の設定も容易になるでしょう。なお、人材育成を成功させるには、部署や役職などに適したコンピテンシーモデルを設定する必要があります。
コンピテンシーモデルを活用するメリット
コンピテンシーモデルの活用は、人材評価の育成の基準を明確化でき、組織全体のパフォーマンス向上につながります。ここでは、主な3つのメリットを解説します。
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採用・評価・育成の一貫性を実現する
コンピテンシーモデルの導入は、採用や評価、育成の各フェーズに一貫性をもたせます。採用では、求める人物像を明確にしやすくなり、ミスマッチの防止に効果的です。評価は、実際の行動を基準とした具体的で公平な判断が可能です。社員の納得感やモチベーション向上にもつながるでしょう。さらに、育成段階では、強化すべき能力が明確になるため、効率的な研修やOJTの実施が実現できます。
企業の目標達成を加速する
社員1人ひとりの行動と企業の戦略的目標を結びつけることで、組織全体の成果につながります。達成意欲や主体性といった行動特性を明確にし、評価や育成に反映させます。社員のやる気やエンゲージメントが高まり、困難な目標にも粘り強く取り組めるでしょう。また、リーダーやムードメーカーの行動もモデル化すると、チーム全体のモチベーション向上が期待できます。
社員のモチベーションを向上させる
社員に求められるスキルや行動が明確になり、評価への納得感が高まります。これにより、社員は自身の成長目標をもちやすくなり、自発的なスキル向上やキャリア形成に意欲的に取り組むようになります。さらに、公平な評価体制が整えばモチベーションが向上し、組織へのエンゲージメント強化や離職防止が可能です。
コンピテンシーモデルを活用するデメリット
コンピテンシーモデルの導入や運用には、注意すべきデメリットも存在します。以下では、主な3つのデメリットを解説します。
理想に偏りがちになる可能性
コンピテンシーモデルは理想的な行動像を設定しやすい反面、現実との乖離が起きやすい課題があります。抽象的すぎるモデルは運用や評価に活かしづらく、かえって形骸化を招くリスクにつながるでしょう。事業成果や実現可能性を重視しながら、具体的な行動基準への落とし込みが重要です。
作成後の見直しが必須
コンピテンシーモデルは一度作成すれば終わりではなく、継続的な見直しと改善が必要です。市場や組織の変化により、当初有効だった評価項目が機能しなくなる場合もあります。たとえば、テレワークの普及により、従来の評価基準が実態に合わなくなった企業も少なくありません。変化に対応するには、ハイパフォーマーの行動を見直し、現状に即した評価基準へとアップデートする柔軟な運用が求められます。
導入初期に時間とコストが必要
コンピテンシーモデルの導入には、多大な時間とコストがかかります。業務や職種ごとに個別のモデルを作成する必要があり、ハイパフォーマーの行動分析やヒアリング、運用設計までの工程も複雑です。実際の運用に乗せるための計画や仕組みづくりも欠かせません。準備不足のまま導入すると、形骸化してしまう恐れもあるため、初期段階での綿密な設計が必要です。
コンピテンシーモデルの3つの種類
主なコンピテンシーモデルは3種類です。それぞれについて解説します。
理想型のモデル
自社の経営方針や戦略をもとにし、自社の理想の人材像をコンピテンシーモデルに落とし込む方法があります。社内にハイパフォーマーがいなくてもコンピテンシーモデルを作成可能です。ただし、現実離れした高すぎる理想にならないよう、注意しましょう。
実在型のモデル
社内に実在するハイパフォーマーをもとに、コンピテンシーモデルを作成する方法もあります。高い成果を出している社員にヒアリングし、どのような行動が成果を生み出すか検証してモデルを作成する流れです。実際に成果を出している方法や理由をベースにするため、現場の状況や環境に合うコンピテンシーモデルを作成できます。
ハイブリッド型のモデル
理想型と実在型を組み合わせ、コンピテンシーモデルを作成する方法も有効です。実在するハイパフォーマーの行動特性に対し、自社の理想である人材像の特徴を加えます。まだ成果を出せていない社員だけでなく、すでに高い成果を出している社員にとっても、参考になるコンピテンシーモデルを作成できる方法です。
コンピテンシーモデル作成を成功に導く6つのプロセス
コンピテンシーモデルは、どのように作成するのでしょうか。ここでは、6ステップに分けて解説します。
1.事前準備【目標設定・対象者の特定・リソース確認】
コンピテンシーモデルを作成する前に、まずは導入の目的や自社の方向性を明確にし、目指すべき成果を具体的に設定しましょう。協力を得るべき対象者を特定し、対象社員には目的や方向性、最終目標を共有します。作業に必要な人員や時間、情報収集の手段など、リソースの確認も欠かせません。自社の実情に即したコンピテンシーモデルを作成するには、念入りな事前準備が重要です。
2.調査の実施【市場調査・業界動向・競合分析】
ハイパフォーマーを事前に選定し、行動特性の調査を実施しましょう。役職や部署ごとに選定を行い、それぞれの環境や条件に適した行動特性の見極めが重要です。自社の市場における立ち位置を把握するため、市場調査や業界動向の把握、競合企業の人材戦略に関する情報も収集しておくと、より実効性のあるコンピテンシーモデルの設計が可能です。本人だけでなく、周囲へのヒアリングも実施することで、精度の高いデータが得られます。調査の丁寧さが、モデルの質を大きく左右します。
3.評価項目を作成【能力・行動特性・職務スキル】
調査で把握したハイパフォーマーの能力や行動特性、職務スキルをもとに、評価項目を作成します。この段階では、コンピテンシーディクショナリーを活用すると効果的です。コンピテンシーディクショナリーとは、能力や行動特性を6つの領域と20項目に分類し、整理や体系化するためのフレームワークです。調査結果をもとに必要な能力や行動、スキルを分類することで、自社に最適な評価項目を抽出しやすくなります。具体的な評価項目の例は後述しますので、あわせて参考にしてください。
4.自社の方向性を反映【企業戦略・組織の文化・業務プロセス】
ハイパフォーマーへのヒアリングをもとに作成した評価項目は、現状の業務プロセスや成果には即していても、企業戦略や将来的な組織の方向性が反映されていない場合があります。特に企業として変革期や、新たな事業戦略に取り組む場合には、自社のビジョンや組織の文化も踏まえた評価項目が重要です。
設定した評価項目は、戦略との整合性や実際の業務プロセスとの適合性を見直しながら、必要に応じて補完や修正を加えましょう。ただし、ハードルが極端に高くなりすぎないよう注意が必要です。
5.評価項目のレベル分け【基準設定・レベル別評価】
評価項目を設定したら、それぞれの項目についてレベル分けをしましょう。基準設定を行うことで、評価の客観性と納得性が高まります。一般的には5段階でレベルを設定するケースが多く、たとえば、以下のレベル分けができます。
- 指示されたことを指示されたタイミングで行う
- やるべきことを自らの判断で適切なタイミングに行う
- 現状を踏まえて必要な行動を選択し、実践する
- 状況を変化させるため、自ら考えて行動する
- 新たな価値や仕組みを生み出すために行動する
このように、段階的な評価基準を設けることで、社員の成長段階に応じた評価と育成が可能です。
6.評価シートを作成【評価シートの設計・フィードバック体制】
評価シートを作成しておくと、採用面接や人事評価の場面で一貫した基準に基づいた判断が可能です。特に、1人の担当者が複数の社員や候補者を評価する場合、評価シートがあると情報の記録や比較が容易になり、公平性も保ちやすくなります。
評価シートには、評価項目、レベル分け、各レベルの評価基準を明確に記載し、誰が見ても判断できる設計が大切です。さらに、評価後のフィードバックに活用できるよう、コメント欄やフィードバック内容の記入欄を設けておくと、成長促進にもつながります。
コンピテンシーモデル作成時の評価項目例
コンピテンシーモデルを作る際に設定できる評価項目はさまざまです。ここでは、評価項目の例を解説します。
自己認知能力
自己認知能力は、自分の能力を理解し、適切に行動できているか評価する項目です。職種や役職を問わず、多くの社員に求められます。たとえば、他人への思いやり、誠実さ、ビジネスマナーなどが自己認知能力です。
意思決定能力
意思決定能力は、自分の行動に責任を持って行動できているか評価する項目です。積極性も重視されています。具体的には、フィードバックやアドバイスなどを受け入れる素直さ、目標達成に対するこだわり、自分で考えて行動に移すチャレンジ精神などです。自己認知能力と同じく、どの職種や役職でも重要な能力といえます。
対人能力
対人能力は、顧客や取引先と接する際に、相手の立場に配慮した行動ができているか評価する項目です。たとえば、好感度やプレゼンテーションのスキルなどが該当します。相手から信頼を得られると好感度が高まり、相手を納得させるにはプレゼンテーションのスキルが重要だからです。特に、営業や販売などの部署で重視されています。
組織・チームワーク力
組織・チームワーク力は、よりよい組織やチームを目指すために行動できているか評価する項目です。チームの意欲を掻き立てるためのムードメーカーとしてのスキルや、コミュニケーション能力などが当てはまります。チームで業務に取り組む機会が多い部署で重要です。
戦略力
戦略力は、原因や課題を追求したり、最適な解決策を導き出したりできるか評価する項目です。たとえば、問題の本質を見極める分析能力、客観的な視点で解決策を検討するロジカルシンキング、新たな視点を取り入れるアイデア力などが含まれます。企画部をはじめ、クリエイティブな部署でよく取り入れられている項目です。
業務遂行力
業務遂行力は、業務に必要なスキルや知識があり、定められた範囲で迅速に業務を進められているか評価する項目です。誰にでも分かりやすく情報を伝えるための文章力や、優先順位を意識して行動できる計画性などが該当します。業務を管理する立場に求められる能力であり、管理職や役職者を評価するために設定されます。
情報収集・整理力
情報収集・整理力は、状況に応じで情報を適切に活用できているか評価する項目です。具体的には、必要な情報を着実に集める能力や、情報を活用するための情報整理能力などが挙げられます。管理職や管理職候補など、さまざまな情報を分析して活用する立場の人材に求められる能力です。
指示・統率力
指示・統率力は、成果を出すために必要な指示を出したり、チームをまとめたりする力があるか評価する項目です。たとえば、チームのメンバーに合わせて業務を割り振り、進捗を管理できる業務管理能力が該当します。また、社内規則やルールを熟知し、適切に指導できる能力も重要です。チームリーダーに選出される人材に対して設定されます。
コンピテンシーモデル作成時の注意点
コンピテンシーモデルを作成する際は注意点もあるため、以下で詳しく解説します。
ハイパフォーマーの模倣だけでは成果につながらない
コンピテンシーモデルを作成する際は、ハイパフォーマーの行動特性をそのまま落とし込むのではなく、環境や条件も考慮した柔軟なモデルを作成する必要があります。ハイパフォーマーと同じように行動しても、他の人材が成果を出せるとは限らないからです。ハイパフォーマーの行動理由に注目し、多くの人が実際に目指せるコンピテンシーモデルを作成しましょう。
作成後も見直しや更新が必要になる
自社に合うコンピテンシーモデルが完成しても、経営状況が変化すれば合わなくなる可能性があります。コンピテンシーモデルは数年単位で見直し、必要に応じて更新しましょう。経営戦略や経営方針が変わった場合も、随時コンピテンシーモデルを更新する必要があります。
コンピテンシーモデルの理解に役立つ書籍
コンピテンシーモデルを理解するには、書籍の活用もおすすめです。たとえば、アメリカでベストセラーとなった「実戦コンピテンシーモデル」では、コンピテンシーモデルの作成や導入を実践するための方法が解説されています。実例も掲載されているため、はじめてコンピテンシーモデルを作成する際も参考になるでしょう。
コンピテンシーモデルの作成を効率化する方法
コンピテンシーモデルを作成するには、ハイパフォーマーを選定したうえで、行動特性の調査や分析を行う必要があります。ただし、工数や時間がかかる可能性が高いため、作業を効率化するにはタレントマネジメントシステムの活用がおすすめです。
タレントマネジメントシステムを活用すれば、人事データを一元管理でき、コンピテンシーの洗い出しもスムーズに進められます。たとえば、タレントパレットでは人事データの分析や活用により、さまざまな課題解決を実現できます。詳しい資料を以下よりご確認ください。
まとめ
コンピテンシーモデルを作成すると、成果を出せる社員を育成するために役立ちます。すでに成果を出しているハイパフォーマーの行動を参考にしつつ、自社の経営方針や戦略も踏まえてコンピテンシーモデルを作成しましょう。
タレントパレットは、多くの大手企業で導入されている先進的なタレントマネジメントシステムです。人事データの一元管理に加え、効果的な人材育成、最適な人材配置、公正な人事評価を実現します。コンピテンシーモデルの作成にも役立つため、ぜひ導入をご検討ください。