効率的なキャリア開発の手段として、キャリアラダー制度の導入が進んでいます。キャリアラダーとは、企業内でのキャリアアップを実現するための仕組みのことです。この記事では、キャリアラダーの基本情報やメリット・デメリット、注意点を解説します。キャリアラダーの導入手順や業界・職種別の活用事例もまとめているので、ぜひ参考にしてください。
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ビジネスにおけるキャリアラダーとは?
キャリアラダーとは「キャリア(経歴)」と「ラダー(はしご)」の2つを組み合わせた言葉です。ビジネスにおけるキャリアラダーは、はしごを登るようにキャリアアップできる能力開発のシステムを指します。
段階的に仕事の内容・スキル・目標が定義されているため、客観的な評価がしやすく、人事評価制度との連携も容易です。優秀な人材を確保・育成できる仕組みとして、キャリアラダーへの注目が高まっており、さまざまな業界で導入が進んでいます。
キャリアラダーの起源と日本での普及
キャリアラダーの歴史は古く、1970年代にアメリカで導入が始まったといわれています。日本でキャリアラダーの考え方が普及したのは1980年ごろです。現在では、一般企業でも広く受け入れられている制度ですが、もともとは看護職を対象としたものでした。実際に、看護学ではキャリアラダーに関する論文も数多く発表されており、医療や介護の現場でも積極的に活用されています。
キャリアラダーとほかのビジネス用語との違い
キャリアラダーと似た言葉として「キャリアパス」「クリニカルラダー」の2つが挙げられます。それぞれの用語の意味や、キャリアラダーとの違いを見ていきましょう。
キャリアパスとの違い
キャリアパスとは「キャリア(経歴)」と「パス(道筋)」の2つを組み合わせた言葉です。企業における異動や昇進のルートを明らかにすることで、どのようにキャリアを築いていくのかという方向性を示しています。キャリアパスでは職種間の異動も含まれますが、キャリアラダーは基本的に大きく仕事内容が変わることはありません。
キャリアラダーは、専門職としてスキルを磨くことに重きを置いています。一方、キャリアパスは営業部門で成果を上げたのち、本社部門で管理職に昇進するなど、職種は限定されません。キャリアパスと比べると、専門性が高い医療系やIT系などの職種に向いているシステムといえます。
クリニカルラダーとの違い
クリニカルラダーは、知識や経験を向上させるためのシステムです。看護職で用いられることが多く、主にキャリア開発の評価で活用されています。最近では看護職のほかにも、アパレル業界や外食産業など活用されるシーンが広がってきました。
キャリアラダーとクリニカルラダーは、どちらも社員のキャリアを形成する手段ですが、それぞれ目的が異なります。前述したとおり、キャリアラダーの目的は優秀な人材の確保と育成です。対するクリニカルラダーは、社員の知識や経験を向上させることを目的としています。クリニカルラダーは5段階のレベルがあり、実践を通してスキルを高めていくことが可能です。ただし、場合によってはキャリアラダーとクリニカルラダーを分けず、同じような意味で使われていることもあります。
キャリアラダーの導入が進んでいる業界・職種
もともとは看護職を対象としたキャリアラダーですが、近年さまざまな業界での導入が進んでいます。ここでは、キャリアラダーの導入が進んでいる職種として「アパレル・外食産業」「看護」「エンジニア」の3つをピックアップしました。
アパレル・外食産業
アパレル・外食産業は、キャリアラダーとの相性がよい業種です。たとえば、アパレルの大手企業では、早くからキャリアラダーを導入しています。段階ごとにジョブ(職務)が明確に定義されていて、非正規から正社員へ一気通貫するキャリア開発を実現しました。報酬もジョブに応じて設計されているため、働き方を見直すきっかけにもなっています。
看護
看護職では、キャリアラダーをいち早く取り入れています。公益財団法人日本看護協会により、業界の指針となるキャリアステップも構築されました。共通した指標があることで、転職の際も個人のスキルレベルが把握しやすくなり、採用に役立てることが可能です。また、キャリアラダーを活用することで、業界全体として現場で活躍できる人材を育成し、スキルを底上げすることにも成功しています。
エンジニア
IT人材の不足が深刻化しているなかで、キャリアラダーを活用したキャリア形成に注目が集まっています。たとえば、フリマアプリを運営している企業のエンジニア部門では、働き方や認識のズレをなくすためにキャリアラダー制度が導入されました。「Engineer Ladder」と呼ばれる同社のキャリアラダーは、外部にも広く公開されています。Engineer Ladderにより、エンジニアとしてあるべき姿が共有され、人事評価に対する満足度向上も実現しました。
キャリアラダーがもたらすメリット
ここでは、キャリアラダーがもたらすメリットを3つ紹介します。
キャリアステップの提示
キャリアラダーの導入により、それぞれの職種ごとに明確なキャリアステップを示すことが可能です。スキルアップのために「何をすべきか」「何が不足しているか」が明確になることで、目標を持って日々の業務に取り組めるようになります。社員が主体的に行動するようになると、組織としての生産性の向上も期待できるでしょう。
公平性や客観性の保持
レベルごとに指標があり、公平性や客観性が保持できる点もキャリアラダーのメリットです。同じ職種についている人であれば、雇用形態にかかわらず平等にチャンスが与えられているため、納得しやすい評価制度が構築できます。必要なスキルや経験を細かく設定することで、評価のばらつきを防止することも可能です。
モチベーションや目的意識の向上
段階的な目標が設定されていることで、社員がステップアップの道筋を立てやすくなります。キャリアラダー制度を導入するメリットは、個人の成長だけに留まりません。身近に「このような人になりたい」というロールモデルが存在すると、仕事に対するモチベーションが向上し、職場としての一体感も生まれます。キャリアラダーが組織に浸透することで、評価制度への理解が深まり、意欲を持って業務に取り組めるようになるでしょう。
キャリアラダーがもたらすデメリット
ここでは、キャリアラダーがもたらすデメリットを2つ紹介します。
業種や組織によっては導入が難しい
キャリアラダーは、すべての業種や組織に適したシステムではありません。キャリアラダーの導入に向いているのは、専門性が高く、部署間の異動が少ない職種です。総合職や総務など、ジェネラリストとしての役割が求められる職種や組織においては、効果を発揮できない可能性があります。さまざまな業界で導入が検討されているキャリアラダーですが、組織の風土や現場のニーズを理解し、自社に適した形での運用を目指しましょう。
導入にコストと時間がかかる
制度の導入にコストと時間がかかる点も、キャリアラダーのデメリットです。社員が納得できる指標を設置するためには、人事部だけで決めるのではなく、各部署にヒアリングや助言を得る必要があります。
また、新しい取り組みを成功させるためには、人的リソースの確保も欠かせません。企業の規模が大きくなるほど、決めなければいけない項目は多くなるため、コスト・時間・人員に関する計画をしっかりと立てておくことが重要です。
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キャリアラダーの導入手順
キャリアラダーは、社員の評価に関わる重要な指針となります。一度設定したら簡単には変えられないため、中長期的な視点で考えていくことが大切です。ここでは、キャリアラダーの導入手順を5つのステップに分けて解説します。
1.キャリアを階層化しキャリアステップを構築する
まずは、キャリアに必要な技術や知識を洗い出してみましょう。洗い出した項目は、キャリアアップの流れに沿って適切な順序に並べ替えることで、キャリアが階層化できます。このとき、階層間のレベルをできるだけ一定に保つのがポイントです。
はしごのように無理なく登れるようなステップを設定することで、スムーズなキャリア形成が実現しやすくなります。反対に、階層間で求められるスキルや経験にばらつきがあると、キャリアラダー制度への不満が高まり、モチベーションも低下しやすくなるため注意が必要です。
2.評価システムを構築・整備する
次に、キャリアステップと連動した評価システムを構築していきます。キャリアラダー制度を導入するにあたって「キャリアが上がったのに評価が変わらない」という状況は、避けなければなりません。
具体的には、キャリアがワンランク上がるごとに、給与や賞与に反映させるといった仕組みが必要です。売上金額や受注件数といった定量的な成果のほかに、数値化できない定性的な観点も意識しながら、評価システムを整備していきましょう。
3.キャリア研修を実施する
評価システムが構築・整備できたら、レベルに合わせたキャリア研修を実施します。どれだけ時間をかけて制度を作り上げても、意図が社員に伝わらなければ、適切な運用はできません。研修のはじめに、キャリアラダーを導入した理由や企業としてのビジョンを示すと、目的意識を持ちやすくなります。
また、キャリア研修は社員が意欲的に取り組める内容にすることがポイントです。研修の難易度を変えて成長を実感できるようにしたり、ロールモデルとなるような人物を講師として招いたりするなど、工夫してみましょう。
4.マネジメントや面談で活用する
キャリアラダー制度は、導入するだけではなく現場で活用することが大切です。キャリアラダーは、評価面談や1on1ミーティングにも応用できます。現場で適切に運用するためには、管理職の理解と協力が欠かせません。
キャリアラダーを意識しながら日々のマネジメントを行えるよう、管理職向けの研修の実施なども検討してみましょう。キャリアラダーに基づいて具体的な助言ができるようになると、社員も改善点や必要なスキルを認識しやすくなり、効率的にキャリアを形成していけます。
5.効果を検証する
新しい制度の構築後は、効果を検証し、ブラッシュアップを図ることが重要です。キャリアラダーに関しても、制度を構築し、導入して終わりとなるわけではありません。一定の期間が経過したら、現場へのヒアリングなどを通して効果を検証し、人材育成に役立っているのかをチェックします。
「スキルアップにつながっていない」「評価がしづらい」といった声がある項目については、原因を追究し、改善策を講じましょう。
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業界・職種別のキャリアラダー活用事例
キャリアラダーは、業界や職種に合わせてカスタマイズすることで、効果を発揮しやすくなります。ここでは、業界・職業別の活用事例をまとめました。
アパレル
職種間の異動が少ないアパレルでは、効率的な人材育成を実現するためにキャリアラダーが活用されています。契約社員やパート社員など、さまざまな雇用形態の人が働いている場合には、非正規雇用者にも適用できる制度を構築しなければなりません。非正規雇用者もキャリアラダーの対象とすることで、働き手はモチベーションを維持しながら正社員までの道を目指せます。企業としても、スキルや経験を積んだ優秀な人材の確保に役立てることが可能です。
医療・介護・看護
医療・介護・看護業界では、キャリアラダーに基づいた階層別の研修プログラムが用意されています。研修プログラムの内容は施設によって異なりますが、階層が抱える課題を解消できるように体系化しているのが特徴です。ステップに応じて必要な内容を習得できるので、効果的かつ実践的なスキルの習得が実現できます。
エンジニア
キャリアラダー制度により、エンジニアと企業間の認識のズレを最小限にできます。満足度の高いシステムを構築するためには、現場の課題を明らかにし、自社が求める人材像と照らし合わせることが大切です。カスタマイズしたキャリアラダーの詳細を外部にも発信することで、採用活動におけるミスマッチの減少にもつながります。
キャリアラダーを導入する際の注意点
最後に、キャリアラダーを導入する際の注意点を3つ解説します。
導入目的を明確にする
キャリアラダーを導入する際は「最終的に何を達成したいのか」という目的を明確にしなければなりません。自社に足りない点や、今後強化していきたい点を整理しながら、一貫性のある仕組みの構築を目指しましょう。導入に時間と手間がかかるため、社員の負担にならないよう、余裕のある計画を立てます。
評価のハードルを高く設定しすぎない
次のキャリアステップに進むためのハードルを高くしすぎると、仕事に対する意欲が失われる恐れがあります。キャリアを階層化する際は、努力すれば達成できるレベルの目標の設定を心がけましょう。キャリアラダーに無理を感じると「現状維持でよい」と考える社員が増えて、組織としての生産性にも悪影響を及ぼします。
頻繁に内容を変更しない
キャリアラダーの内容を頻繁に変更するのは好ましくありません。変更の回数が多いと目指すべき目標が曖昧になりやすく、効率的にキャリアを形成できなくなります。サポートする側の人事部門、管理職の負担も大きくなる点にも留意しなければなりません。効果を検証後、改善策を講じる際は、慎重な判断が求められます。
まとめ
キャリアラダーは、もともと看護職のキャリア形成の手段として発展してきましたが、近年活用の場が広がってきました。キャリアラダー制度を導入することで、キャリアの道筋が明確になり、目的意識を持って日々の業務に取り組めるようになります。
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