企業の人材育成において、キャリアデベロップメントは重要な役割を果たします。しかし、多くの企業はキャリアデベロップメントの実施に苦心しており、その効果を十分に引き出せていません。本記事では、キャリアデベロップメントに取り組むメリットや上手くいかない理由、始め方などを解説します。ぜひ参考にしてください。
キャリアデベロップメントとは
キャリアデベロップメントは、企業が求める人材の育成と、社員が実現したいキャリアプランを両立させる取り組みです。かつては、企業が望む人材像に合わせた育成が一般的でした。しかし近年の人材育成は、社員自身が描くキャリアプランを重視する傾向にシフトしています。
キャリアデベロップメントに取り組むと、社員の意向を尊重しつつ、資格・経験・スキルを計画的に獲得・向上させることが可能です。
キャリアデベロップメントにはキャリアデザインが必要
キャリアデザインは、社員が主体となって計画する、キャリアに加えプライベートな部分も包括した将来設計です。社員は自身が置かれた環境や価値観、結婚やマイホームの購入などのライフイベントを考慮しながら、キャリアデザインを設計します。
キャリアデベロップメントは企業が積極的に関与する取り組みですが、キャリアデザインは基本的に社員個人が取り組むものです。
キャリアデベロップメントに取り組むメリット
企業がキャリアデベロップメントに取り組む理由は、組織力向上のためです。キャリアデベロップメントに取り組むメリットを解説します。
社員の能力やキャリアが見える化される
社員の能力やキャリアが見える化される理由は、キャリアデベロップメントの初期段階において、社員の能力や個性の現状を把握するための現状調査を実施するためです。見える化された社員の能力やキャリアの情報を役立てると、効果的な人材管理が可能になります。
社員個人のキャリアデザインを尊重するアプローチを取ると、企業と社員双方にとって望ましい人材管理を実現できるでしょう。
社員が自ら考え行動するようになる
キャリアデベロップメントによりキャリア形成への意欲が芽生えた社員は、自ら考え行動するようになります。結果として業務効率が上がり、仕事の質の向上が可能です。たとえば、新しいスキルの習得に積極的に取り組んだり、業務改善のアイデアを自発的に提案したりするようになるでしょう。
社員エンゲージメントが高まる
能力を理解すると自信を持って働けるようになるため、社員エンゲージメントが高まります。また、自身で描くキャリアデザインを理解し尊重してくれる企業に対して、社員は信頼感を持つでしょう。信頼関係の構築は、社員エンゲージメントをさらに向上させ、組織全体の生産性と成長に寄与します。
優秀な社員が定着する
キャリアを意識して働く社員は、業務に明確な目的とやりがいを見出すことができ、モチベーションが高まります。モチベーションの向上は、離職防止に効果的です。
さらに、前述のように社員エンゲージメントの高まりも、離職防止に大きく貢献します。組織への帰属意識と満足度が高い社員は、現在の職場環境で成長し、長期的にキャリアを築きたいと考えるためです。
キャリアデベロップメントが上手くいかない理由
意義を正しく認識していなければ、取り組みが成功するとは限りません。キャリアデベロップメントが上手くいかない理由を解説します。
スペシャリストの育成プランと誤解されているため
キャリアデベロップメントの対象となるキャリアは、専門性だけではありません。ジェネラリストの育成にも、キャリアデベロップメントが役立ちます。ジェネラリストは、幅広い分野で知識・スキルを身につけ、オールマイティに活躍できる人材です。
企業はスペシャリストとジェネラリストの双方を確保して、適材適所で活躍させる必要があります。企業の成長のために、ジェネラリストの育成プランにも、キャリアデベロップメントを活用しましょう。
教育プログラムの1つと誤解されているため
「キャリアデベロップメントは、企業が提供するプログラムの1つである」と勘違いした社員は、取り組みに対して受け身になってしまいます。
キャリアデベロップメントの意義を理解してもらうには、全社でキャリア自律を高める取り組みが必要です。組織が個々に期待する役割を明確にする、管理職にキャリア自律の重要性を理解させるなどして、キャリアデベロップメントに取り組む必要性を理解させましょう。
キャリアデベロップメントの始め方
キャリアデベロップメントの始め方を解説します。まずは社員の現状を把握し、企業の方向性を加味したうえで育成計画を検討しましょう。
1.社員の能力や個性を把握する
キャリアデベロップメントの第一歩は、社員1人ひとりの現状を正確に把握することです。1on1面談や、適性検査などを通じて、社員の能力や個性を把握しましょう。得られた情報を統合し分析すると、個々の社員に適した育成プランの基礎を築けます。
2.キャリアに対する希望をすり合わせる
キャリアデベロップメントの成功に向けて、企業の求める人材像と、社員の目指す姿をすり合わせましょう。社員は自身が作成したキャリアデザインを提出し、企業は求める人材像を提示します。企業と社員のコミュニケーションを通じて、組織と個人、双方を成長させる育成プランを見つけてください。
3.具体的な配属や研修を計画する
社員1人ひとりについて、キャリアを実現できる配属先を選び、具体的な研修を計画します。適した施策がなければ、導入を検討しましょう。また、前述のように、企業活動はスペシャリストだけでは成り立ちません。専門性だけではなく、広範囲で能力を高めるように育成計画を立ててください。
4.配属や研修を実施する
育成計画に基づき、配属や研修を実行に移します。社員本人にとって早急なスキルアップが求められる場合はもちろん、企業戦略の見直し、人事異動や組織編成のタイミングでも、配属や研修を取り入れるとよいでしょう。
取り組みが適切かどうかを確認するため、定期的に進捗を確認してください。必要であれば軌道修正が求められます。
5.定期的に見直す
企業が求める人材像が変化した場合、キャリアデベロップメントの計画を適切に見直す必要があります。同時に、社員個々のキャリアに対する考えや、意向の変化も定期的にチェックしてください。1on1面談やアンケート調査を通じて、組織と社員双方に意義のあるキャリアデベロップメントを継続させましょう。
キャリアデベロップメントに関連する制度と意義
キャリアデベロップメントを進めるにあたり、各種制度の整備が不可欠です。関連する制度とその意義を解説します。
キャリア面談をする意義
キャリア面談は、社員が望むキャリア形成に必要なスキルや取り組みを話し合う面談です。キャリア面談を通じて、企業は社員のキャリアに対する考え方を理解し、同時に社員自身の気づきや課題認識を促せます。結果として、社員のキャリア自律を効果的にサポートすることが可能です。
キャリア面談を成功させるためにも、日頃から信頼関係を構築しましょう。十分な信頼関係がない状態では、社員の本音が分かりません。有意義な話し合いに向けて、常日頃からコミュニケーションを取ることが大切です。
キャリア面談の目的や効果とは?上司が準備するべきことも併せて解説
社内FA制度を導入する意義
社内FA制度は、社員が自身の強みを積極的にアピールし、希望する部署への異動や転籍を実現する人事制度です。社員の意向に沿った配置が実現すると、キャリア自律の促進につながります。また、自ら選択した部署に異動した社員は、高いモチベーションを維持し、生産性の向上が期待できるでしょう。
つまり、社内FA制度は、個人と組織の双方にとって有益な方法といえます。ただし、すべての希望が叶うわけではありません。希望が実現しなかった社員のモチベーション維持にも配慮が必要です。
自己申告制度を導入する意義
自己申告制度は、自己評価や希望職種などキャリアに関する幅広い意向を、社員自身が企業に対して表明する制度です。企業は自己申告された内容をベースに、キャリアデベロップメントの方向性を加味しつつ、適材適所の人材配置を決定します。
社員のニーズを反映すると、より効果的な育成計画を立案できます。ただし、申告内容をそのまま受け入れるのではなく、企業のニーズや客観的な評価と照らし合わせ、バランスの取れたキャリアデベロップメントを検討することが重要です。
ジョブ型人事制度を導入する意義
ジョブ型人事制度は、職務に基づいて人材を採用し、責任と役割に応じて報酬を決定する制度です。ジョブ型人事制度を導入することで、キャリアデベロップメントの道筋が明確になります。ジョブ(職務)の定義を通じて、キャリアの目標とそこに至る過程をジョブと紐付けて具体的に示せるためです。
また、自社のジョブと類似した職務が労働市場に存在すると認識した企業は、社員のキャリア形成をサポートすると同時に、人材流出を防ぐようバランスを取らなくてはいけません。結果としてジョブ型人事制度の導入は、キャリアデベロップメントの実現につながります。
ジョブ型雇用で失敗する3つのケース!メリット・デメリットや導入企業の事例について
キャリアデベロップメントに取り組む注意点
キャリアデベロップメントは社員や組織の成長に不可欠ですが、効果を得るには注意すべき点があります。
雇用の流動性を意識して人的資本を取り扱う
近年は終身雇用制度が衰退し、時間をかけて育成した人材が流出する恐れがあります。長期的に人材を育成するキャリアデベロップメントは、雇用が流動化している現状を考えると注力しすぎるのは問題です。
短期的な成果と長期的な人材育成のバランスを取りつつ、キャリアデベロップメントに取り組みましょう。また、社員の流出を防ぐために、社員エンゲージメントを高める取り組みにも力を入れる必要があります。
取り組みが正当に評価される人事評価制度を整備する
自社の人事評価制度がキャリアデベロップメントと合わないと、社員のモチベーションが低下します。キャリアを高める行動が評価につながる、透明性と公平性が確保された人事評価制度を整備しましょう。
特に、年後序列の側面が強い人事評価制度は見直しが必要です。年齢や勤続年数よりも、能力や成果、キャリア開発への積極的な姿勢を重視する評価基準を検討しましょう。
ジョブ型人事制度にこだわりすぎない
前述したとおり、ジョブ型人事制度は、キャリアデベロップメントを現実的なものにする制度です。しかし、ジョブ型人事制度のジョブの定義や範囲によっては、キャリアデベロップメントの範囲が縮小化します。
また、ジョブ型人事制度にこだわりすぎると、キャリアデベロップメントに必要な人事異動ができない、契約外の業務を断られるなど、不具合が起きる可能性があるでしょう。必要に応じてハイブリッド型人事制度も検討すると、キャリアデベロップメントの機会を確保しつつ、組織としての柔軟性も維持できる可能性があります。
効率的な成長に向けマインドセットを重視する
マインドセット研修を実施すると、社員のモチベーションが高まり成長が促進されます。特に、企業の上層部や管理職を対象に行われたマインドセット研修は、企業の環境や文化に大きな影響をもたらすでしょう。
上層部や管理職の意識や行動の変化が組織全体に波及すると、部下たちにも前向きにキャリアアップに取り組む姿勢が浸透します。
マインドセット研修の具体的な研修内容と実施するポイントを解説
集合研修とOJTを組み合わせる
集合研修とOJTを組み合わせて、効果的に社員を育成しましょう。たとえば、前述のマインドセットや知識の習得は、集合研修向きの内容です。一方、日々の業務を通じて先輩社員からの指導を受けるOJTでは、実践的なスキルが育ちます。また、集合研修で学んだ内容をOJTにてアウトプットすると、より深い理解と定着が促進されるでしょう。
海外で通用するキャリアデベロップメントを計画する
人材のグローバル化が進んでいるなかで、日本の基準でキャリアデベロップメントを計画すると、国際競争力の低下や優秀な人材の流出につながる可能性があります。現地の文化や商習慣、法規制を理解したうえで、海外の拠点での教育体制を整え、現地で通用する基準を検討しましょう。
AIに依存した人事評価にしない
近年、さまざまなビジネスシーンでAIが活用されるようになりました。しかし、人事評価への導入に関しては慎重な対応が求められます。一部の社員が納得できず、モチベーションが低下する可能性があるためです。
事前に、最終的な意思決定はヒトが行うことや、AIの役割や人事評価のプロセスなどを説明して、AIを上手く取り入れられるように工夫しましょう。評価者に対しても、AIの結果をそのまま受け入れず、適切に解釈し活用するよう指導することが大切です。
人材育成に必要なスキル分析とは?最適な育成方法でパフォーマンスを最大に
キャリアデベロップメントに取り組む企業の事例
タレントパレットを活用して、キャリアデベロップメントに取り組む企業の事例を解説します。参考にして、自社の取り組みを検討しましょう。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスは、キャリアデベロップメントの一環として、3年に1度という高頻度で計画的な配属替えを実施しています。また、社員アンケートをベースにしたキャリアデザインシートを活用し、データ分析を通じて社員1人ひとりのキャリアパスを可視化しました。
西部ガスホールディングス株式会社
西部ガスホールディングス株式会社は、キャリアデザインシートを導入し、社員が自身のキャリアに対する思いや目標を、明確に表現できる仕組みを整えました。さらに、TPI適性検査による客観的な能力評価や、eラーニング機能を活用した自主的な学びの場を提供するなど、多角的なアプローチでキャリア開発を促進しています。
まとめ
キャリアデベロップメントは、社員のキャリアデザインを重視した人材育成です。キャリア面談で社員のキャリアに対する意向を把握し、企業の求める人材像との方向性をすり合わせて、キャリアデベロップメントを進めましょう。なお、社員の能力やスキルを一元管理する際は、タレントマネジメントシステムが役立ちます。
タレントパレットは、HRテック提供企業が提供する、大手をはじめ数多くの企業が導入するタレントマネジメントシステムです。コンサルティングの知見も駆使して、お客さまの課題を解決します。キャリアデベロップメントを推進中の人は、ぜひタレントパレットの導入をご検討ください。
人材育成に必要なスキル分析とは?最適な育成方法でパフォーマンスを最大に