キャリアデザインは、社員が理想とするキャリアを表したものです。キャリアデザインシートに理想を書き出してもらうと、企業の採用や育成に役立てられます。キャリアデザインシートを社員に作成してもらう際は、具体的な記載内容について把握しておくべきです。本記事では、キャリアデザインの必要性とともに、例文や設計方法などについて解説します。
採用・育成に役立つキャリアデザインとは?
キャリアデザインとは、将来のライフステージの変化を考慮しつつ、仕事内容、働き方、身につけたいスキルなどの理想を明らかにすることです。単に理想の未来をイメージするだけでなく、実現するための具体的なプロセスも考える必要があります。
そのため、キャリアデザインを考える際は過去の自分と向き合い、現状を理解したうえで理想を掲げるべきです。実現可能な範囲で目標を決め、何をすべきか考えましょう。従来は終身雇用が当たり前でしたが、現在では仕事や働き方の選択肢も広がっています。キャリアデザインは、そのような状況で自分が求めるキャリアを確認するために重要なツールです。
キャリアデザインとは?設計の3要素や手順、メリット・デメリットなどを徹底解説
キャリアデザインに似た用語との違いとは?
ここでは、キャリアデザインに似た用語について、意味の違いを解説します。
キャリアパスとキャリアデザインの違い
キャリアパスとは、理想のキャリアを実現するための道筋のことです。キャリアデザインは社員自身が自分の理想について考えますが、キャリアパスは企業が主体となっています。キャリアパスは、社内の特定の部署やポジションに就くために、必要なスキルやプロセスを企業がまとめたものです。
企業によっては、社内テストの合格や資格取得などをキャリアパスに盛り込んでいます。キャリアパスを社内で実現するには、企業が示すキャリアパスを社員に理解してもらい、それに沿った行動ができる仕組みづくり重要です
キャリアプランとキャリアデザインの違い
キャリアプランとは、理想のキャリアを実現するために必要なスキルや経験を積む計画です。一方、キャリアデザインでは、将来の理想的な姿を実現するため、キャリア全般の方向性を考えます。
キャリアプランは将来の働き方に関する具体的な計画であり、キャリアデザインを実現するための手段の1つです。キャリアデザインを作成したら、キャリアプランを立て、行動を起こす必要があります。
キャリアデザインシートを活用する目的
社員にキャリアデザインを考えてもらうには、キャリアデザインシートへ書き出す方法が一般的です。キャリアデザインシートとは、キャリアデザインに必要な要素を項目として示し、分かりやすく可視化したツールを指します。
本人以外が見ても内容を把握しやすいため、企業の人事や上司も社員のキャリアデザインを理解することが可能です。キャリアデザインシートを活用する具体的な目的について、以下で解説します。
キャリアデザインの可視化ができる
キャリアデザインシートは社員がキャリアデザインを考える機会をつくり、企業が生かす際に役立ちます。キャリアデザインシートに書き込むとキャリアデザインを可視化でき、共有できるからです。過去の経験、現状と向き合った形跡、求める将来像、希望するキャリア、取得したいスキル・資格なども具体的に把握できます。
社員のキャリアに対する考えを上司や人事担当者が管理しやすくなり、教育や育成に生かすことが可能です。キャリアデザインシートで把握した内容は、今後の行動の評価基準にも役立ちます。
定期的に評価と見直しができる
キャリアデザインシートを作成すれば、社員自身が定期的に見直したり、上司や人事の評価を受けやすくなったりします。定期的に自分の状況をチェックして目標を的確に修正できるため、方向性を定めやすいでしょう。
なお、社員本人だけで見直しや修正ができなくても、上司や人事担当者がサポートできます。キャリアデザインシートで社員の意向が可視化されているため、スムーズなサポートが可能です。
キャリアデザインを設計する4ステップ
キャリアデザインは、どのように設計するのでしょうか。4ステップに分けて解説します。
1.過去の振り返り
キャリアデザインについて考える際は、社員が過去に培った経験やスキルなどについて、改めて振り返るところから始める必要があります。まずは、何でも書き出してみることが大切です。
経験や獲得したスキル・資格などを洗い出したら、特にやりがいを感じた経験や自分が苦手だった経験について確認しましょう。好き嫌いに関係なく、得意な分野と不得意な分野についても明らかにすべきです。過去を振り返れば自分の特性や適性が明らかになり、実現可能な自分に合う理想を掲げやすくなります。
2.理想とする将来像の明確化
過去を振り返って自分自身の特徴を理解したら、理想とする将来の姿を明確にしましょう。やりたいことや就きたいポジションなどがある人は、それを理想とすれば問題ありません。一方、仕事における理想の将来像が特にない人は、理想の生き方や暮らしを起点にするとよいでしょう。
たとえば、郊外でのんびり生活したいなら、在宅やリモートで働けるキャリアが合っています。なお、理想とする将来像は、有名人、上司、先輩など実在する人物を参考にして考えるのもおすすめです。イメージしやすいモデルがいると、キャリアデザインを考えやすくなります。
3.現状把握
現在の自分について、理想の将来像との違いを把握しましょう。今の自分の状況を把握すれば、理想の将来像を実現するために何が足りないか分かります。よって、現状を確認するだけでなく、理想像との違いについても具体的に考えることが大切です。
たとえば、在宅やリモートでの勤務が理想である場合、それが可能な職種やポジションに就かなければなりません。パソコンスキルやコミュニケーション能力も必要です。また、海外で働きたい場合、語学力を磨いたり求められる経験を積んだりする必要があります。
4.目標・実現プロセスの設定
現状と理想の違いをもとにし、これから取り組む目標と実現のためのプロセスを設定します。目標は1つに絞らず、時系列で細かく設定するとよいでしょう。それぞれのタイミングに設定する目標ごとに何をする必要があるか考え、具体的な内容を設定すべきです。
たとえば、目標として1年後の資格取得を掲げたら、実現に向けたプロセスとして通信講座の受講を設定できます。また、プログラミングスキルを3年以内に習得したいなら、そのためにスクールへ通学するなどの方法があります。
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キャリアデザインシートの構成(テンプレート)とは?
キャリアデザインシートは、基本的にキャリアデザインの設計の4ステップと同じ4段階で構成されています。ただし、形式が厳格に決まっているわけではないため、各企業が独自に作成したり、社員本人が白紙の状態から書き出したりするケースもあります。
キャリアデザインシートを作成する際は全体の内容をまとめて記載せず、項目ごとに分けて記載すると明確になります。たとえば、表形式で項目別にまとめると本人以外も内容を把握しやすいでしょう。
従来、キャリアデザインシートは紙に手書きする方法が主流でした。しかし、現在では利便性を考慮してデジタルで作成する方法が広まっています。インターネット上では、キャリアデザインシートの無料のテンプレートが多数公開されているため、必要に応じて活用しましょう。
キャリアデザイン設計における重要ポイント
ここでは、キャリアデザインを設計する際に押さえておきたいポイントを解説します。
キャリア形成だけに捉われない
キャリアデザインは、社員のライフステージに合わせて設計しましょう。キャリア形成のみに捉われてキャリアデザインを考えると、プライベートの事情をまったく考慮しない内容になります。そのため、結婚、出産、引越し、介護など日々の生活に大きな変化が起きた場合に対応できません。一度決めたキャリアデザインの大幅な修正が必要です。
特に昨今は、性別に関係なく育児休暇を取得する傾向が強まっています。そのため、誰でも一時的に仕事を離れる時期の発生を考慮すべきです。プライベートの目標や理想も考慮し、ライフワークバランスの充実も意識したキャリアデザインを設計しましょう。本人の希望だけでなく、パートナーや家族の考えも理解したうえで目指す未来をイメージすべきです。
具体的な将来像を考える
理想とする将来像が具体的でない場合、実現が難しいキャリアデザインになる可能性があります。たとえば、郊外や地方で働きたいなら、具体的にどのような環境に身を置くか決めなければなりません。都心に本社がある企業に所属して郊外の支店で勤務するパターンもあれば、郊外や地方にある企業に転職するパターンもあります。また、フリーランスとして働くという選択肢もあるでしょう。
キャリアデザインを設計して社員の成長や自律性を促したいなら、より具体的な将来像を考えてもらう必要があります。そのうえで、実現するためのプロセスも把握してもらいましょう。
シートに記入するキャリアデザインの例文
ここでは、キャリアシートの項目を想定して記入例を紹介します。過去の振り返りや現状把握に関する項目の例文をあげると、以下のとおりです。
経験 | 経理課における請求書発行や仕訳などの経験 |
---|---|
獲得したスキル・資格 | 簿記2級 |
やりがいを感じる内容 | 計算や数値を確認する作業 |
苦手だと感じる内容 | 書類の不備に関する指摘 |
また、このような現状から想定できる理想の将来像に関する例文を作成すると、以下のとおりです。
「企業の経営に関する知識やスキルを身につけ、経営企画に携わりたい」
理想の将来像をもとにすれば、たとえば以下の目標と実現プロセスを設定できます。
目標 | 実現プロセス | |
---|---|---|
3年後 | 簿記や経営に関する幅広い知識を身につける | さまざまな業務を経験しつつ、資格取得も目指す |
5年後 | 実務で財務分析を担当する | 身につけた知識やスキルをもとに財務分析のトレーニングを行う |
10年後 | 経営企画に携わる | 経営層と同じ視点を身につけ、経営戦略に関する提案のスキルを磨く |
キャリアデザインシートでは避けたいNG例文
ここでは、キャリアデザインシートで避けるべき内容と例文について解説します。
1.具体性がない
具体性が欠けている場合、キャリアデザインシートを作成しても意味がありません。目標や実現プロセスが明確でないキャリアデザインでは、理想の将来像を実現できない可能性があります。具体性のないキャリアデザインの例をあげると、以下のとおりです。
「エンジニアとして磨いたプログラミングスキルを生かし、リモートワークで年収1,000万円を稼ぐ」
このキャリアデザインでは、プログラミングスキルや経験した業務の内容が分かりません。どの仕事や業務でリモートワークをするか曖昧であり、最終的な目標達成までのプロセスも不明です。漠然とした目標にならないようにするには、段階を分けて目標を設定できるシートを活用するとよいでしょう。
2.目標に現実味がない
実現できそうにない高すぎる目標は現実味がなく、達成までのプロセスも厳しくなります。目標に現実味がないキャリアデザインの例をあげると、以下のとおりです。
「現在の年収500万円に対し、3年後に年収5,000万円を達成し、5年後に会社を設立する」
「これまでに経験した業務は事務のみだが、1年後にエンジニアとして活躍し、3年後にフリーランスとして独立する」
時系列に無理がある目標や、実現に時間がかかる目標を設定すれば、目標と現状との乖離が大きくなります。そのため、実現するためのハードルも高いでしょう。実現が難しいキャリアデザインを設計すると、かえってやる気やモチベーションを削ぐ原因になるため注意が必要です。
企業がキャリアデザインを活用するメリット
ここでは、企業がキャリアデザインを活用するとどのようなメリットがあるか解説します。
社員のモチベーションを向上させる
目標がない状態で働くよりも、目標を決めて働いた方が社員のモチベーションを高められるでしょう。自分にとっての理想的な将来像を明確にして目標を設定すれば、未来に対する希望も感じやすくなります。キャリアデザインの設計によって、社員は高いモチベーションにより業務に取り組むことが可能です。
また、それぞれのタイミングで自分がすべきことが明らかになるため、自主性も生まれます。自ら考えて行動できる社員が増えると、企業全体の生産性も向上するでしょう。
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必要な支援が把握しやすくなる
企業が社員のキャリアデザインを把握できると、それぞれに必要な支援も明らかになります。社員が求めているキャリアやスキルなどが分かれば、人材育成の計画も立てやすいでしょう。また、社員本人の意思を尊重したサポートを実現できた場合、エンゲージメントの向上にもつながります。社員のキャリアデザインを企業も有効活用し、積極的に取り組みを展開しましょう。
まとめ
社員が自分の能力を発揮して理想的な働き方を実現するには、キャリアデザインの設計が効果的です。キャリアデザインシートを作成する際は、キャリアだけでなく私生活についても考慮した計画を立て、無理せず実現できる内容にする必要があります。
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