ベースアップとは?基本知識や変遷、人事制度における役割を解説


ベースアップとは?基本知識や変遷、人事制度における役割を解説

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

「ベースアップ」とは、基本給(ベース)をアップさせる制度のことをいいます。全社的に基本給を一律に引き上げるため、従業員にとってはメリットの大きな仕組みです。

しかし基本給が上がれば、連動してボーナスや手当の水準も引き上げられるため、人件費全体が永続的に増えることになります。企業にとっては大きな負担になるケースもあるでしょう。

ベースアップの実施は慎重に判断されるべきですが、正確な意味や役割について把握できていないというケースもあるのではないでしょうか。実際に、ベースアップは個別評価ではないため、企業の風土に合わせる必要もあります。

本記事では、ベースアップの基本知識から日本独自の推移、自社の給与制度への取り入れ方についてみていきましょう。

従業員のモチベーションアップにつながる人事評価もあわせてチェックすることが大切です。

ベースアップとは



ベースアップとは"base up”という和製英語からきている単語で、基本給(ベース)に対する昇給額や昇給率のことを差します。企業間やメディアでは、ベースアップを略して「ベア」と呼ぶことが一般的です。ここでは、ベースアップの基本知識についてみていきましょう。

全従業員一律で基本給が昇給する

ベースアップは、会社の業績アップ等に応じてすべての従業員の給与水準が一律で引き上がる制度です。個人の成績や勤務年数に応じて変化するものではなく、個別の評価とは関係ありません。

例えば、2%のベースアップが決定すると、個人の実績に関係なく全従業員の基本給が2%アップします。会社全体としての基本給の水準を一度上げると、基本的には元に戻すことはできない点も知っておきましょう。

「春闘」で交渉されることが多い

ベースアップは、主に「春闘」で協議されます。春闘とは春季生活闘争の略で、労働組合が経営側に対して、賃金引き上げなどを要求する交渉です。毎年2月~3月にかけて本格的に行われるため、春闘と呼ばれます。

春闘は、かつて炭鉱などの産業別の組合が一致団結して「給料を上げてほしい」と企業側に交渉したことから始まりました。それまで従業員の賃金は、経営側が一方的に決めるものでしたが、労働者側が団結することで要求を通そうとする狙いがあったといえるでしょう。。

定期昇給との違い

ベースアップとよく混同される言葉に「定期昇給」があります。定期昇給とは、会社が決めたタイミングで定期的に賃金を上げる制度のことです。年齢や勤務年数、仕事の成果など個人ごとに昇給のタイミングや金額が異なるため、一律に給与水準が引き上がるベースアップとは全く別の制度だといえるでしょう。

定期昇給による給料アップのタイミングは、企業によってさまざまです。ただし、一般的には年1回(4月)もしくは年2回(4月、10月)に設定されている場合が多い状況にあります。

また、必ずしも昇給が約束される制度ではなく、会社の業績が思わしくなければ見送られる場合も少なくありません。

より詳しくベースアップと定期昇給の違いについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
「ベースアップ昇給違い」については、こちらの記事をご確認ください。

年功序列の助長につながる

ベースアップは、勤続年数に応じて給料がアップする仕組みではありません。しかし、個人のスキルや成績にかかわらず、全社的に実施される企業の年功序列を助長する可能性がある点は知っておきましょう。

また、全従業員の基本給が一律で上がるため、ベースアップによって上司と部下の給与の差が縮まることはありません。適正な評価がされていないという不満につながる可能性も考慮しておきましょう。

2022年の平均賃上げ率は2.07%

労働団体の「連合」によると、2022年の春闘では、ベアと定期昇給を合わせた平均賃上げ率は2.07%でした。労働組合側が提示した4%アップの要求を大きく下回ったものの、3年ぶりに平均賃上げ率2%を超えています。

また、2023年の春闘要求集計結果では、4.49%の賃上げが要求されたことを発表しました。2022年の要求を大きく上回っている状況です。。

ベースアップの平均については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「ベースアップ平均」については、こちらの記事をご確認ください。

ベースアップの役割

業績が向上した企業において、ベースアップは従業員全体に対する評価指数を示すものだといえるでしょう。基本給のアップは従業員のモチベーション向上にもつながり、それによってさらなる利益増加も可能です。

また、インフレ時においては、ベースアップによって名目賃金の調整を行う役割もあります。物価が上昇してもベースアップが実施されれば、実質賃金の低下を阻止できるためです。

ベースアップは自社の従業員のモチベーションに大きく影響を与えます。しかし、業績が思わしくないときやデフレ時には、企業の経営に大きな負担をもたらす可能性があることは考慮しておかなければなりません。

また、一度上げた基本給を下げることは難しく、企業はよく検討したうえでベースアップを実施しましょう。

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ベースアップの成り立ちと推移


ベースアップは、海外にはない日本独自の制度です。戦後にさかんに行われるようになり、さまざまな歴史的出来事とともに変遷を遂げてきました。ここでは、ベースアップの成り立ちと推移をみていきましょう。

戦後に大幅賃上げが行われた

戦前は労働組合が少なく、ほとんどの企業において経営者が一方的に賃金を決定している状況でした。しかし、戦後には多くの労働組合が結成され、経営者と対等な立場で賃金を交渉するように変化していきます。

最初の大幅賃上げは、戦後のハイパーインフレがきっかけです。労働組合は、賃金を2倍、4倍と大幅に引き上げるよう要求を行いました。これに対して企業も、戦後の混乱からの脱却や労働力確保を目的として、積極的な賃上げを行っていったという歴史があります。

高度経済成長期にベアが盛んに

1955年、日本は高度経済成長期に突入し日本全体が好景気だったこの時期では、多くの企業が毎年2〜5%程度のベースアップを実施しました。

製品を作れば作るほど売れる時代で、企業側も労働力を確保するために給料の引き上げに応じていたといえます。また、消費者物価上昇率4~8%のインフレが続いていたため、ベースアップは名目賃金の調整の役割も担っていました。

バブル崩壊後は実施する企業が減少

1990年代初頭、日本はバブル崩壊による不景気に突入します。多くの企業が、春闘におけるベースアップの要求を拒否するケースが増えました。

バブル崩壊から現在にいたるまで経済成長が停滞していることから、企業によってはベースアップを積極的に実施していないケースも少なくありません。

現在ベースアップを実施する企業は少ない

大企業を中心に一時、ベースアップの制度が増えつつありましたが2020年から流行が始まった新型コロナウイルスの影響で、世界全体の経済が低迷しました。その結果、ベースアップを見送る企業が増加しています。

ただし、近年においてはベースアップを実施する企業も増加しつつあることから、世情に大きな影響を受けた上で、経済的に余裕のある企業であればベースアップは実施するという見方も可能です。

また、終身雇用の崩壊とともに、企業が年功序列ではなく成果主義に転じていることもベースアップが実施されない大きな要因のひとつとなっています。

現在は「会社にできるだけ長く在籍して同じ価値を作り続ける人材」よりも「新しい価値を発信できる人材」に重きが置かれるようになっているともいえるでしょう。そのため、成果主義に対する新しい人事制度が注目を集めています。

成果主義における人事評価制度

年功序列から個人の能力や成果を重視する成果主義へ移行した場合、ベースアップも含めた人件費の自然増加を抑えながら良い人材を確保できる、成果を正しく評価しやすくなるといったメリットがあります。

しかし、個人間の給与の差が著しく広がれば、従業員の不満を招く恐れもあるでしょう。ここでは、成果主義において従業員に納得してもらえる人事評価制度について解説します。

業務分掌をする

業務分掌とは、各部署やチームごとの業務内容、責任、権限を明確化することです。社内で「この業務は誰が・どの部署が行うべきか」があいまいになっていると、本来評価すべき仕事を適切に評価できません。

成果主義の人事評価の第一ステップとして、まずは業務分掌に取り組みましょう。正しく業務分掌すると以下のように、管理者側と従業員側にメリットが多く、生産性の向上も期待できます。

  • 各部署やチームが権限を把握できる
  • 責任感をもって仕事に取り組める
  • 過剰な業務を負う必要がない

評価に対する認識を共有する

成果主義において人事評価に不満が生まれやすいのは、「評価者の主観が含まれているのではないか」と疑いをもたれやすいためです。評価基準があいまいだったり、成果に対する客観的な評価が低かったりすると、従業員からの信頼を失いかねません。

従業員にとって納得感のある人事評価を実行するには、日頃からコミュニケーションをとり、評価ポイントの伝達と成果に関するフィードバックを行うことが大切です。場合によっては、就業規則に評価内容を記載してもよいでしょう。

「どのような点で評価されるのか」「今の自分の仕事への取り組み方は正しいのか」といったことを従業員が把握していると、不満を抱かれにくくなります。

定量的な数値や成果だけでなく、日頃の仕事への取り組み方やプロセスも含めて評価する意識が重要です。

モチベーションアップに効果的な人事評価を導入する

納得感のない人事評価であれば、「この上司は自分の頑張りを認めてくれない」と従業員に不満を抱かせ、結果的に企業としての生産性の低下につながるでしょう。一方で適切な人事評価を行うと「もっと認めてもらいたい」「頑張れば給料に反映される」などとモチベーションアップが期待できます。

従業員のモチベーション向上に効果的な人事評価の方法としてよく用いられるのは、以下の3つです。

  • コンピテンシー評価
  • 360°評価
  • 目標管理評価


コンピテンシー評価とは、社内で優秀な成績や成果を残している社員の行動特性を評価基準として、人事評価を行う方法です。個人の成績だけでなく「結果を出すためにどのように仕事に取り組んでいるか」といった点にも注目するため、従業員の納得感を得やすいでしょう。

360°評価とは、上司・部下・同僚など、異なる立場かつ複数人から意見を集めて従業員を評価する手法です。一人の主観に偏ることなく、客観的・多角的な人事評価を実現できるため、公平感があります。

目標管理評価とは、あらかじめ個人やチームで設定した目標に対する達成度がどれくらいだったかで評価を行う手法です。個人の能力やスキルに応じた評価が可能であるため、従業員自身が納得感を得やすい方法の1つだといえるでしょう。

まとめ

ベースアップとは、全従業員の基本給(ベース)を、一律に引き上げる制度のことです。勤務年数や、個人の能力・成果は考慮されません。略して「ベア」と呼ばれることも多いといえるでしょう。

ベースアップは日本独自の制度で、時代の影響を受けながら変遷してきました。景気が低迷している現代では、ベースアップを積極的に行う企業は限られているといえます。また、企業が年功序列から成果主義に移行していることもベースアップが実施されない要因となっています。

成果主義における人事評価は、従業員の不満を招きやすいことから、納得感ある評価をすることが重要です。コンピテンシー評価、360°評価、目標管理評価など、従業員のモチベーションアップにつながる評価制度はさまざまあるため、自社に適した手法を取り入れましょう。

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