360度評価は意味ない?メリットやデメリット、失敗への対策を解説


360度評価は意味ない?メリットやデメリット、失敗への対策を解説

一昔前に比べると人事評価制度も変化し、360度評価を取り入れる企業も増えてきました。しかし一方で、360度評価は意味がないという意見もあります。もちろん制度にはメリットもデメリットもあるでしょう。では、なぜ意味がないといわれるのでしょうか。本記事では360度評価の役割や、意味がないといわれる理由なども解説します。


360度評価(多面評価)とは? メリット・デメリットや、運用方法などわかりやすく解説


360度評価の定義

なぜ360度評価は意味がないといわれるのかを考える前に、まずは360度評価の基本的な定義を確認しておきましょう。


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360度評価とは

360度評価は、1人の社員を複数人で評価する方式です。一般的な評価制度のように評価者が1人だけという制度ではなく、上司や同僚、部下、顧客から取引先なども評価に加わります。多面評価と呼ばれることもあり、周囲360度に評価者がいるというイメージです。誰が評価者として加わるかは部署によって異なります。


360度評価はアメリカ発祥

360度評価はアメリカで誕生し、積極的に採用されてきた評価方法です。名称に「評価」という単語が入っていますが、もともとは能力開発の手法として誕生しました。そのため、人事評価の手法としてだけではなく、人材育成の場面でも活用されることがあります。日本にもその手法が伝わり、近年では日本企業でも取り入れられてきました。


360度評価が注目される背景

では360度評価は、なぜ注目されるようになったのでしょうか。その背景として、以下の3つの理由が挙げられます。


マネジメント人材の不足

少子高齢化や先行きが不透明な近年の社会情勢などが背景となり、企業ではコスト削減が求められています。特にマネジメント人材は人件費がかかりやすいのがネックです。しかし、少人数のマネジメント人材に評価を任せようとすると、各自の負担は増大するでしょう。終身雇用制が当たり前ではなくなり、管理職も含めて人員を削減する傾向もあります。


コミュニケーションの変化

従来は上司と部下が飲みに出かけるなど、業務終了後も接する場がありました。しかし、近年ではコミュニケーションの取り方が変化し、積極的な上司と部下の関わりは減っています。リモートワークの普及で、直接顔を合わせる機会が少なくなっている企業もあるでしょう。接点が減ると評価が難しくなり、従来の方法では適切に評価できないケースもあります。


外部組織との関係

企業の業務では、部署間や社内外の連携が必要な仕事も増えています。部下が部署内にいるときの働きぶりは分かっても、部署外や社外で仕事をしているときの様子は上司が直接把握できません。また、フラットな関係性で働く職場も増えていますが、垂直的評価は機能しづらい側面もあります。そこで新たな手法として、360度評価が注目されるようになりました。


360度評価の目的

360度評価は立場の異なる複数人によって、多角的に対象者を見られる点が特徴です。一方的に1人の上司から評価されるのに比べると、評価を受ける側も納得しやすいでしょう。評価内容が納得できれば社員のモチベーションも高まり、成長を促すのにも役立ちます。360度評価は社員を客観的に評価し、社員の行動を可視化して成長につなげるのが目的です。


360度評価のメリット

日本国内でも導入している企業が増えているのには、それなりの理由があります。まずは360度評価のメリットから見ていきましょう。


各社員の特性を把握しやすい

従来のような1人による評価では偏った部分に注目してしまい、客観的な評価が出せない可能性もあります。360度評価のように複数人の評価、立場の異なる人による評価を取り入れることで、評価対象者のさまざまな要素が見えてくるでしょう。1人の評価では把握できなかった特性を発見できるのが、360度評価のメリットです。


潜在的な情報を可視化できる

上司のみが評価する方法の場合、上司がいない場面での社員の行動は評価できません。しかし実際、社員はさまざまなシチュエーションで業務を行っており、上司が見ていない姿もあるのが普通です。360度評価を活用して多角的な視点から情報を集められれば、1人による評価では拾い上げられていない潜在的な情報を可視化できます。


コミュニケーションの活性化

360度評価を行う場合、評価者は対象の人物について知っていなければなりません。評価対象者のことを知るために、自然とコミュニケーションを取る機会が増えることも期待されます。評価対象者自身も評価されるのを待っているだけではなく、自ら周囲にアピールすることが求められるでしょう。360度評価を取り入れることで、コミュニケーションの活性化にもつながります。


評価への納得感がある

1人による評価で結果が偏ったものになってしまうと、公正ではないと感じる社員が出てくる可能性があります。複数人による評価であれば、対象者にとっても納得感があるでしょう。公正に評価されていると納得ができれば、社員の仕事へのモチベーションも上がります。結果的に、社員の成長や生産性の向上にもつながりやすいでしょう。


360度評価のデメリット

360度評価は人材の評価方法として複数のメリットがあるものの、しっかり対策を施したうえで導入しなければ混乱を招く懸念もあります。たとえば、客観的評価の難しさや評価への恐れが生じやすいこと、手間とコストがかかることなどが問題になる可能性があるでしょう。導入を検討する際は、デメリットも把握してください。


客観的評価の難しさ

人による評価は、客観性を保つのが難しいデメリットがあります。人を評価することに慣れていない社員の場合、個人的な感情や主観に影響を受ける懸念もあるでしょう。また、接点が多い人に対する評価が高くなったり、よく知らない人は当たり障りのない評価をしたりするケースも起こり得ます。


評価への恐れが生じる

360度評価は、日常的に接点がある人同士で評価をし合う仕組みです。それゆえに、評価に対する恐れが生じる可能性があります。たとえば、部下が上司を評価することがある場合、上司は部下に悪い評価をつけられるのを恐れ、適切な指導ができなくなるかもしれません。部門や会社を超えた評価が生じるケースでは、業務に必要な依頼や指摘が難しくなり、ビジネスに支障がでることも考えられます。


手間・コストがかかる

複数人が携わる360度評価は手間や工程が増え、マンパワーが必要になる点もデメリットです。評価にかかるコストも増えてしまいます。効率的に運用するためには、評価基準やルールの策定が必須です。いきなり導入しようとしても難しいためが生じるため、準備期間を確保して取り組む必要があります。


360度評価のパターン

では、具体的にどのような場面で360度評価を導入するとよいのでしょうか。以下の3パターンについて、それぞれ見ていきましょう。


管理職への360度評価

実際に取り入れている企業で多いのは、管理職を対象とした360度評価です。たとえば、部長職以上の役職を対象とした360度評価なら、評価者は部下や他の部門の社員、顧客や取引先などになります。管理職ともなれば、部下はもちろん関係者との関わりも増えるでしょう。360度評価で多方面からの評価を集めることで、リーダーとしての資質を評価しやすくなります。


専門職への360度評価

専門職の場合、自分が従事する部門以外の社員との接点が少ないことも珍しくありません。しかし、担当する業務は違っても、全体として連携を図らなければならない状況もあります。専門職への360度評価を行うことで、互いをよく知り、専門外の職種への理解が深まることも期待できるでしょう。社内全体の連携強化にもつながります。


全般的な360度評価

管理職や専門職に限らず、全社員向けに360度評価を導入する企業もあります。近年では上司と部下はもちろん、同僚や同期との間でも接点が減っている傾向です。360度評価は、コミュニケーションを活性化させられるメリットがあります。その点をプラスに捉え、頑張りを認められたり、チームワークの向上に役立てたりできるとよいでしょう。


360度評価が有効なケース

どのような制度も、仕組みが有効に働くケースがあります。たとえば、360度評価の導入が有効だとされているケースとして、以下の2つを参考にしてください。


多くの部下を1人で管理している

1人の上司が多くの部下を管理している職場では、上司がすべての社員の状況を正確に把握できなかったり、忙しかったりすることもあるでしょう。上司1人で部下全員を適切に評価しづらいケースでは、部下から不満が出る可能性も高まります。そうした状況が当てはまるのなら、360度評価が有効です。複数人での評価なら、社員にとっても納得感が生まれます。


コミュニケーションが不足している

上司と部下、社員同士でコミュニケーションが不足しているケースでは、360度評価が有効です。360度評価で得られた結果をもとに、定期的な面談や1on1ミーティングの実施にもつなげられます。コミュニケーションが希薄になっている場合は、コミュニケーションが取れる機会を増やすことで、社内のチームワーク強化も図れるでしょう。


360度評価が意味ないといわれる理由

ここまで360度評価について解説してきましたが、なぜ意味がないといわれるのでしょうか。具体的には次の5つのような理由があります。


費用対効果が合わない

360度評価に意味がないといわれる理由の1つが費用対効果です。360度評価の導入にはコストがかかりますが、効果が出るまでにはそれなりの時間がかかります。360度評価はどちらかというと、人材の育成も期待できる中長期的な施策です。短期的な成果を求めてしまうと費用対効果が合わないと感じ、意味がないといわれる原因になっています。


人間関係が悪化する

360度評価は社員が互いに評価し合う制度であるがゆえに、人間関係が悪化する原因ともなります。互いの評価を気にするあまり、かえってコミュニケーションが取りづらくなることもあるでしょう。社内で不信感が生じるようならば、導入するのに意味がないどころか、部署や社内全体としても雰囲気が悪くなる可能性もあります。


評価への納得度が下がる

先述したように、360度評価はうまく機能すれば、社員の納得感を上げられるメリットがあります。一方で、人を評価することに不慣れな社員が評価者となる点はデメリットです。評価基準やルールの策定がしっかり確立されていないままの実施では、かえって評価への納得度が下がるリスクも抱えることになります。


モチベーションが低下する

複数人の目によって多角的な視点から評価できるのが、360度評価のメリットです。ただし、必ずよい評価が受けられるとは限らず、モチベーション低下につながるケースもあります。特に評価に納得できなかった場合、仕事への意欲が減ってしまうかもしれません。互いの評価を見て、チームワークが悪くなることも考えられます。


業務負荷が増える

従来の上司1人が部下の評価をする方法とは違い、360度評価では社員が互いに評価を行います。つまり、各社員が複数の社員の評価をしなければなりません。評価の数が多いほど業務の負担が増えるため、反発も考えられます。あまりに負担が大きくなると、時間が確保できずに適切な評価が難しくなる可能性もあるでしょう。


360度評価導入で失敗しないためには?

では、360度評価をどう企業活動に生かせばよいのでしょうか。失敗しないためにも、以下の5つのポイントを押さえておいてください。


実施目的を周知する

360度評価は多くの社員が当事者になります。何を目的としているのか分からなければ、単に負担が増えるだけだと捉えられることもあるでしょう。360度評価を機能させるためには、社内での協力が必須です。社員にとってのメリットを紹介すれば、積極的な参加につながりやすくなります。まずは導入目的を周知することが大事です。


ガイドラインの作成

ガイドラインの作成によって、360度評価を適正に保ちやすくなります。多くの社員が関わる360度評価では、これまで評価に慣れていなかった人も含まれるようになるでしょう。ガイドラインがなければ、各社員が主観で評価をつけてしまったり、バラツキが生じたりすることも考えられます。導入前にガイドラインを作成し、評価基準を統一することが重要です。


実施計画を立てる

360度評価を効果的に運用するためには、ガイドラインの作成も含めた実施計画を立てることが大切になってきます。まずは自社の状況に合わせ、評価項目や評価基準を具体的に設定することがポイントです。導入目的を踏まえたうえで、評価者と評価対象者も選びましょう。実施方法やスケジュールを設定し、実施計画に沿って運用します。


適切なフィードバック

評価は実施すれば終わりではなく、結果を各自にフィードバックしてはじめて生かせます。評価の結果を適切にフィードバックできれば、社員の成長を促すきっかけになるでしょう。フィードバックする際は、よかった点と改善点の両方を伝えてください。360度評価のメリットを感じられれば、社員もより協力的になる可能性が高まります。


行動計画を作成する

評価とフィードバックはセットにして考える必要があり、適切なアフターフォローの実施も求められます。評価を受けた社員に対しては、フィードバックをもとに今後の行動計画を作成して示しましょう。長所を伸ばすとともに、短所を克服できるような計画がポイントです。具体的なアクションプランを盛り込むことで、360度評価を実施した効果が発揮されます。


360度評価に役立つシステム

実際に360度評価を導入する際は、いくつかのポイントに気を配る必要があります。特に以下で解説する3点に注意してください。


運用負荷を軽減する

どのような制度でも、当事者に負担がかかりすぎては維持できません。360度評価を機能させるためには、運用負荷を軽減する必要があります。軽減につながる施策の1つは、専用システムの導入です。360度評価に対応したシステムを活用すればデータの一元管理もできます。


匿名性を担保する

360度評価をスムーズに運営するためには、匿名性を担保することが大事です。誰が評価したのか分かる制度では、率直な評価がためらわれたり、評価に忖度が生まれたりする懸念もあります。システムを導入すれば匿名のまま情報収集が可能になるため、社員の不安も拭えるでしょう。データを一元管理できるため、活用もしやすくなります。


適切にフィードバックする

360度評価は適切なフィードバックが重要です。結果をただ評価対象者に返すだけでは、当人はどうすればよいのか分からないこともあります。360度評価は適切にフィードバックすれば、評価対象者の成長促進につながる制度です。丁寧な説明があれば社員にも納得感が生まれるため、フォローアップの仕組みも整えるようにしましょう。


まとめ

360度評価は上司1人だけではなく同僚や他部署、時には顧客や取引先など社外の人も評価に加わり、多角的な視点で評価ができます。メリット・デメリットともにある制度ですが、適切に運用すれば社員の成長も促せる制度です。


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