「複線型人事制度」とは?
複線型人事制度とは、複数のキャリアを選べるコースを設定する人事管理の制度です。複線型人事制度を導入すれば、社員自身の意思でキャリアの方向性を選べるため、主体的なキャリア形成が実現可能です。複線型人事制度のコース設定は、さまざまなパターンに分けられます。具体的なパターン分けについては、以下で詳しく解説します。
複線型人事制度のパターン分け
複線型人事制度には、キャリア志向、適性、職群を軸にした3つのパターン分けがあります。
キャリア志向にあわせた分け方
複線型人事制度では、社員のキャリアに対する意志にあわせたコース設定が可能です。具体的には、総合職、一般職、専能職などのコースを設定します。総合職は幹部層を目指すコースであり、すべての勤務地や職務が振り分けられる可能性があります。一般職は職務や勤務地が限定されるため、一定の条件のもとで働くことを希望している人が選択可能です。
専能職は総合職や一般職とは違い、ある分野に特化した専門性を追求するコースです。
適性に基づく分け方
社員それぞれの適性に応じたコース設定もあります。具体的には、管理職、専門職、専任職などのコースを設定します。管理職とはいわゆるジェネラリストであり、マネジメントを担う役割です。専門職はスペシャリストとして、特定の領域に関する専門知識を活かして業務に取り組みます。専任職はある分野のエキスパートであり、知識や技術を現場で発揮します。
それぞれの適性を活かすことで、人材のスキルを有効活用することが可能です。
職群を軸にした分け方
それぞれの社員の志向や適性ではなく、職群を軸に分類する方法もあります。扱う内容や分野ごとに専門職を分類することで、社員をその職群のスペシャリストとして育成できます。たとえば、法務、調査、企画、マーケティングなどの専門職、研究や技術開発などの専門職、弁護士や会計士などの専門職といった分類が可能です。
職群を軸にして分類する場合、それぞれの職群の企業での位置付けや果たすべき役割についても明確に定めておく必要があります。
複線型人事制度と単線型人事制度の比較
複線型人事制度では、いま担当している職務によらず、さまざまなコースのなかから自分が求めるキャリアパスを自由に選択できます。それに対して単線型人事制度とは、ライン管理者のポストを目指す制度です。昇進や昇格する場合、いま担当している職務を管理するポジションを任されることが前提となります。
そのため、基本的に他のキャリアパスは選択できないことが、複線型人事制度との大きな違いです。
複線型人事制度を導入するメリット
複線型人事制度には、たくさんのメリットがあります。ここでは、具体的なメリットについて解説します。
社員が求めるライフスタイルに適したキャリアを選べる
複線型人事制度を導入している企業では、社員は個人的な事情にあわせてキャリアを選択できます。社員自身が望む働き方を実現しやすくなるため、仕事に対する満足感も得やすいです。ライフスタイルにあわせてキャリアを選択できれば、プライベートを優先するために離職を考える社員も減る可能性があります。
マネジメントが苦手でも出世できる可能性がある
単線型人事制度で昇進や昇格を目指す場合、管理職になるしかありません。しかし、企業にはさまざまなスキルをもつ人材が必要であり、人によってはマネジメントが不得意な場合もあります。単線型人事制度では、マネジメントが不得意な人は出世においても不利になります。
複線型人事制度では管理職以外も目指せるため、それぞれの得意分野を活かして出世することが可能です。
社員のモチベーションを高めやすい
それぞれの社員の希望をキャリアに反映しやすくなるため、仕事に対するモチベーションも高まりやすくなります。社員のモチベーションが高まると、企業全体の業務効率化や生産性の向上にもつながる可能性があります。社員のやる気を引き出したいなら、複線型人事制度の導入は効果的です。
専門的なスキルや知識を効率的に蓄積できる
複線型人事制度の場合、専門的なスキルや知識をもつスペシャリストは、それを活かしながら出世できます。社員は在籍する限り、ひとつの分野に関する専門的なスキルや知識をしっかり蓄積でき、自分の市場価値を高めることが可能です。企業にとっては質の高い人材が業務に携わることで、高い貢献度が期待できます。
ポスト不足の問題を解決できる
単線型人事制度における出世とは、管理職になることです。多くの人が管理職を目指すため、候補者が多くなりすぎてポストが不足する場合も多くあります。能力があるにもかかわらずポストが不足しているせいで出世できない場合、社員のやる気を下げる原因になり、企業全体の雰囲気が悪くなる恐れもあるため、注意が必要です。
複線型人事制度なら管理職への希望が集中しにくくなり、ポスト不足の問題も解決しやすくなります。
複線型人事制度を導入するデメリット
複線型人事制度にはデメリットもあるため、気をつける必要があります。ここでは、具体的なデメリットについて解説します。
導入にはさまざまな手間がかかる
複線型人事制度を導入するためには、さまざまな準備が必要です。たとえば、新しいキャリアコースを設定するだけでなく、それにあわせた給与体系や評価システムも構築しなければなりません。業務プロセスについても再検討が必要です。すべてを整備するには、たくさんの手間と時間がかかります。
導入する際にコストがかかる
まったく異なる人事制度を導入するとなると、従来の制度を抜本的に改革しなければなりません。そのためには、現状を把握したうえで、新しい制度としてどのような内容を取り入れるべきか検討する必要があります。検討を行う人材に対する人件費やシステムの導入費用など、さまざまなコストがかかります。
全体の人件費が増える恐れがある
単線型人事制度なら、給与基準は基本的に一定です。しかし、複線型人事制度を導入すると、人件費が増えるおそれもあります。社員が活躍できるチャンスが多くなり、報酬を与えるタイミングが増える可能性があるためです。活躍に応じた報酬を与えられるように、コースごとに細かい評価制度を整備する必要があります。
評価のルールが複雑になる
複線型人事制度ではキャリアアップの選択肢が複数になり、それぞれにまったく異なる評価基準を設けるため複雑になります。キャリアが1つだった単線型人事制度に比べて、コースごとの評価制度を把握する手間も増えてしまいます。公平性を保ちながら、コース別、専門分野ごとに能力評価するルールを定める必要があります。
社員が不満をもつ場合もある
さまざまなキャリアを選べるようになれば、基本的には社員の満足度は向上します。しかし、それぞれのコースで評価方法が異なるため、社員によっては不平等だと感じる可能性もあります。複線型人事制度を導入する際は、それぞれの業務の役割や責任を明確に定めたうえで、社員にもきちんと理解してもらわなければなりません。
複線型人事制度を導入する方法
ここでは、複線型人事制度を導入するための方法を解説します。
キャリアコースを設定する
最初に、自社にはどのようなポジションが必要であるか確認し、キャリアコースを設定しましょう。すでに解説したとおり、キャリアコースにはさまざまなパターン分けがあります。どのようなキャリアコースを設定するかは、自社の方向性にも影響します。社内のさまざまな意見も取り入れつつ、慎重に決定することが大切です。
評価制度を決定する
キャリアコースを設定したら、それにあわせて評価制度を決定します。重要なことは、それぞれの職種や業務において求められるスキルや役割が異なる点です。それぞれの特徴にあわせて、適切な評価軸を設定する必要があります。なぜそのような評価軸を設定しているのか、社員にわかりやすく示せるようにしましょう。
審査基準にあわせて社員を配属する
設定したコースごとに審査基準を設定します。そのうえで、審査基準に合致する社員をそれぞれのコースへ配属しましょう。ここでは、社員の特性を把握し、自社のニーズと照らしあわせることが大切です。それぞれの社員の適性やスキルをできる限り正確に捉えるようにしましょう。
まとめ
複線型人事制度を導入すれば、企業だけでなく社員にとってもさまざまなメリットがあります。ただし、注意すべき点もあるため、制度の特徴を正しく理解したうえで導入の準備を進めることが大切です。
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