360度評価(多面評価)とは? メリット・デメリットや、運用方法などわかりやすく解説


360度評価(多面評価)とは? メリット・デメリットや、運用方法などわかりやすく解説

360度評価(多面評価)は、上司のみならず仕事でかかわる多方面の人が、特定の人物を評価する制度です。従来の「上司が部下を評価するシステム」とは異なるため、運用には留意すべきポイントがあります。

この記事では360度評価について詳しく知りたい人へ向けて、メリットやデメリット、具体的な評価項目の解説と、成功事例を紹介します。

360度評価(多面評価)とは

360度評価は、執務態度に関する評価を行うためのものです。売り上げなど数値化できる業績は一目瞭然であり「誰がどう見てもその通りだ」という評価を下すのは難しいことではありません。
一方、執務態度は見る人が変われば評価も異なるのが実情です。そのため、上司のみならず同僚や部下など多面的な視点を用いることで、その社員へより正確な評価が可能になるのです。

360度評価の導入目的

360度評価の主たる目的は、客観性のある評価の実施、および評価対象者にとっての公平性を維持することです。同時に、これらに基づく人材マネジメントを目的として導入されます。また、多面的な評価を受けることで評価対象者自身の成長を促すことも重要な目的となり得ます。

360度評価の特徴

360度評価の特徴として、評価対象者の人物像が浮き彫りになることが挙げられます。上司から高い評価を得ることのみならず、同僚や部下から信頼される人間であろうとする意識が芽生えるのも、ポジティブな特徴です。

国内企業での360度評価の導入率

360度評価には優れた特徴があるものの、国内企業での導入率は3割強と決して高い数値ではないのが実情です。一方、25%近くの回答者が今後の実施に対して意欲を示していることから、360度評価の認知度は高くなってきているといえるでしょう。

関連記事:多面評価を導入するメリット・デメリット|手順や運用時のポイント・注意点まで解説

360度評価(多面評価)が必要とされる背景

360度評価は企業における環境の変化に伴い、必要性が増しています。ここでは、その背景について解説します。

人事評価による処遇格差が広がっている

近年は勤続年数にかかわらない人事評価が浸透しています。一方で、偏った評価によって処遇の格差が広がったり、評価者からの評価と現場での評価が一致しなかったりということも少なくありません。
このような問題を受けて、多角的かつ信頼性が高い評価の必要性が強まっています。多方面からの視点で評価する360度評価は、このニーズに合致する制度として注目されています。

上司と部下のコミュニケーションが減少した

テレワークなどの導入により、コミュニケーションが取りにくい環境で仕事を進めるケースが増えてきています。
このような状況下では、上司が評価対象者の執務態度を十分に把握するのは難しいのが実情です。テレワーク導入の流れを従来の評価制度の限界だとする見方も多く、特定の評価者の視点のみに頼らない評価制度が求められています。

関連記事:定性評価とは|定量評価との違いやメリット、注意点などを解説

360度評価(多面評価)のメリット

360度評価は評価者、評価対象者の双方にメリットがあります。ここでは、代表的な4つのメリットについて解説します。

客観的な評価ができる

客観的な評価は、公平、公正を保つためには欠かせません。しかし、人が人を評価する以上、主観的な視点が入ることは避けられないという見方もあります。さまざまな人物が異なる視点から評価する360度評価は、評価者の評価能力が未熟であったとしてもそれをカバーできるため、より客観的な評価が可能となります。

評価に対する納得を得やすい

複数の評価者による評価は、1人の評価者からの評価と比較して、評価対象者が納得しやすいものになります。見方が偏っていないことで評価の信頼性が高くなり、社員も評価を受け入れやすくなるからです。
公平な評価は企業に対する社員からの信頼にもつながります。仕事に対するモチベーションの向上も期待できるでしょう。

コンピテンシー(行動特性)の浸透につなげやすい

コンピテンシーとは業績や成果につながる行動特性です。「なぜ、あの人は仕事ができるのか」と周囲が考えるほどの業績を残す人には、他の人には見られない特徴的な行動があり、これをコンピテンシーと呼びます。
360度評価では、このコンピテンシーを評価する企業もあります。行動特性が顕在化することで社内にコンピテンシーが浸透する効果も期待できます。

新たな視点で評価や改善点を得られる

360度評価では、皆が評価対象者であり評価者でもあります。自己評価を行うのはもちろん、同僚や上司を評価する機会もあるでしょう。
評価する立場を経験することで、社員は自らの改善点を把握するチャンスに恵まれます。「他者に対して感じた問題点が自分にも当てはまるのではないか」など、新たな視点を持てるのは、360度評価ならではのメリットです。

360度評価(多面評価)のデメリット

360度評価は万全の評価制度ではなく、運用にあたってはデメリットを理解しておく必要があります。ここでは、360度評価のデメリットを解説します。

工数を要する

360度評価は評価者の数が多く、その選定や集計に工数と時間がかかります。1人の上司が部下を評価するのと比較して手間がかかることも事実です。そのため、360度評価を導入したものの途中で断念するケースも少なくありません。

評価に主観が影響する可能性がある

複数の評価者がいるということは、評価能力に差がある人たちが1人の人物を評価するということです。評価者全員が公正な評価ができるわけではなく、個人的な主観による評価がされる可能性もあり得ます。

部下への指揮命令に影響を及ぼす可能性がある

360度評価では上司も部下からの評価を受けることになります。すると、高評価を得たいがために、部下への指揮命令ができなくなる可能性が出てきます。このような問題を防ぐため、360度評価を匿名で行うなどの工夫を施している企業もあります。

360度評価(多面評価)の運用方法

360度評価を効果的に活用するためには、適切な運用が必要不可欠です。ここでは、360度評価の運用方法を解説します。

実施・活用目的を明確にする

社員に対して360度評価の導入とその目的を明確に提示します。導入に至った経緯と評価結果の用途を、社員にわかりやすく説明しましょう。急激な評価制度の変更に抵抗が強い組織風土の場合は、360度評価への段階的な道筋を示すのも有効です。

HRテックを活用すれば、360度評価を簡単に運用可能です。柔軟な設定が可能なタレントパレットでは、考課者を指定、および指定した条件(組織、役職)で考課者の候補をランダム抽出し、考課者設定するなど運用に即した細かな設定を実現します。

評価基準や実施方法を設定する

活用目的に沿って評価基準と実施方法を設定します。評価基準は30項目程度とするのが望ましく、近似性の高い項目は設けないようにしましょう。実施方法は、質問に対して5段階評価を求める方法や、キーワードを提示してコメントを求める方法などがあります。

分析・フィードバックを行う

集めた評価をもとにして分析とフィードバックを行います。分析では自己評価と他者評価が異なる点に重点を置き、大きなギャップがある場合はその原因を把握します。特に自己評価が高く他者評価が低いケースでは、行動改善プランの検討が必要です。

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360度評価(多面評価)の評価項目

360度評価には4つの評価項目があります。評価基準の設定では、以下の項目を網羅することが重要です。

態度や印象に関する項目

仕事を円滑に進めるために自らの雰囲気づくりができているかを評価します。たとえば、誰に対しても分け隔てなく接する、日々のパフォーマンスが安定している、人を不快にさせない言葉遣いができている、などが挙げられます。

対応に関する項目

業務を担う際の対応について評価します。たとえば、引き受けた業務を自らの責任で完結する、業務を内容によって選り好みしない、自らの意見やアイデアを積極的に述べる、などが挙げられます。

業務遂行に関する項目

業務遂行にあたって、必要な行動がとれているかを評価します。たとえば、企業理念に基づいて業務にあたっている、情報の取捨選択が適切にできている、目標達成に向けたプロセスを設定し実行している、などが挙げられます。

チームワークに関する項目

チームで成果を出すための行動がとれているかを評価します。たとえば、仕事や指導を通じてメンバーの育成を図っている、メンバーの成長を目的とした目標や課題を設定している、他部署との連携が適切かつスムーズである、などが挙げられます。

360度評価(多面評価)を運用する際の注意ポイント

360度評価の運用には、これまでの評価方法とは異なるポイントがあります。以下のポイントを把握して効果的に運用しましょう。

運用ルールは明確にする

人事評価は社員の処遇に影響を及ぼすため、明確なルールのもとで運用される必要があります。360度評価では評価者が複数であることから、評価基準を明確にすることは非常に重要です。また、給与や賞与、昇格といった評価の反映先を明確にすることで、360度評価に対する社員の意識がポジティブなものとなります。

研修を実施する

適切に人を評価するには相応の評価スキルが必要です。360度評価では、評価の経験がない人も評価者となり得るため、評価スキルを身につける研修の実施が重要です。目的や評価基準に関することはもちろん、公平な評価とはどのようなものなのか、人が人を評価するにあたってどのような責任が伴うのかを、研修を通じて理解することが大切です。

関連記事:研修の効果を高めるには?効果を最大限に引き出すコツや測定方法を解説

フィードバックやフォローを的確に行う

360度評価は評価すること自体が目的ではありません。評価結果の活用が目的です。人材育成は活用目的の1つであり、フィードバックやフォローが重要な意味を持ちます。上司と評価対象者が評価を共有し、課題の洗い出しと解決へ向けてのプランを立てましょう。上司もプランに沿って自分が行うべきフォローを明確にし、協力して課題に取り組むことが大切です。

PDCAサイクルを長期的に継続する

計画、実行、評価、改善を連続した行動ととらえるPDCAサイクルは、業務の改善に有効な方法です。360度評価で重要なのは、結果をPDCAサイクルに反映させて継続することです。360度評価によって課題が見つかっても、一時的な改善では根本的な解決には至りません。課題を自らの業務に生かすには、PDCAサイクルの長期的な継続が必要不可欠です。

360度評価(多面評価)導入事例

360度評価は業種や規模にかかわらず、多くの企業が導入しています。ここでは3社の導入事例を紹介します。

株式会社ディー・エヌ・エー

上司が部下を評価する方法には「上司の仕事は誰が評価するのか」という問題があります。株式会社ディー・エヌ・エーでは、360度評価をマネージャーの評価に活用し、同社が定義する5つのマネージャー要件の実践度合いについて、部下が評価しています。
評価は6段階での数値によるものと具体的なコメントで行われ、フィードバックは記名式です。フィードバックの内容はマネージャーと部下によるディスカッションや改善に生かされています。

株式会社メルカリ

株式会社メルカリは、ピアボーナスプラットフォームとして独自の「メルチップ」を導入しています。ピアボーナスとは社員の行動に対して優良性があると認識した場合に、お互いに成果給を送る仕組みです。株式会社メルカリでは、このピアボーナスを360度評価に活用しています。
一般的な360度評価の運用方法は、多方面からの評価が得られる一方で、評価者の負担が大きくなるという問題点があることも事実です。ピアボーナスの仕組みを取り入れたところ、評価することが習慣化し、評価時期にかかる負担を軽減することに成功しています。

アイリスオーヤマ株式会社

幹部社員と一般社員では、企業における役割が異なります。アイリスオーヤマ株式会社では、幹部社員と一般社員それぞれの評価項目や運用方法、利用目的を変えて360度評価を実施しています。
2003年から360度評価を導入し、5年後にはパートや契約社員も含めた全社員を対象としました。幹部社員は人事部が人選した評価者によって「業務力」「実力」「指導力」「人間力」を評価され、その結果は人事評価委員会の査定に活用されています。

まとめ

360度評価は、評価の客観性や公平性を維持するために有効な方法です。一方で、導入や運用にあたっては多くの注意点があり、時間と手間がかかるという側面もあります。
タレントパレットは大手企業をはじめ数多くの企業にHRテックを提供しています。コンサルティングの知見もあり、360度評価で煩雑になりがちな評価者の設定も、柔軟かつ容易です。
また、匿名の評価やフィードバックコメントにも対応しており、効率的な評価運用を実現できます。蓄積された評価データを「評価の高い社員はどのような特徴を持っているのか」といった分析に生かすことで、人材育成にも効果的です。タレントパレットの360度評価の導入を、ぜひご検討ください。


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